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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

8話「妖怪四天王」

 
 人化してから、俺は衣服を着ていない。はだかんぼうである。甲羅のせいで着物を着ることができないのだ。まあ、妖怪なんて大半が素っ裸の連中であり、別におかしくはない。甲羅のせいで露出している部分は頭部と四肢だけだし。だが、立ち上がると常にガニ股猫背の姿勢を強要されるのはいただけない。まるで四股を踏む相撲取りのごとしである。すべて甲羅のせいだ。忌々しい奴め。二足歩行は早く移動できて便利だが、甲羅の重さが尋常でないので長時間立ちっぱなしでいるのはきつい。なので、いつもは寝っ転がっている。
 そのうち、寝たまま移動する手段はないものかと考えつき、手足をひっこめた状態で転がりながら走る“甲羅ローリング走法”を編み出した。坂の上から転がると、障害物をなぎ倒しながら進むことができ、爽快である。攻防一体のなかなか使える技だ。
 それはさておき、人間との戦について。とりあえず、情報を集めることが先決だ。人間の都がどのような防備を持っているのか知らないと仕掛けることもできない。鳥型の妖怪を編成し、偵察部隊を作ってみた。彼らが集めた情報によると、都は“シールド”と呼ばれるもので守られているらしい。これは結界のようなあやかしの技ではなく、科学的に作られたエネルギーフィールドであるようだ。科学と妖術の相性は悪い。物理法則によって徹底的に理論武装された科学技術は、妖術のようななんだかわからない曖昧な力を強く拒絶する。妖術でこのシールドを破壊することは難しいという結論に至った。
 シールドを破るためには、物理的な方法で攻撃するしかない。幸いにも、シールドは対妖術に重点を置かれた設計になっているのか、強い衝撃に対してはそこまでの耐久力を持たない。なぜ、シールドの性質がわかるのかというと、以前、森に入ってきた人間が個人用の簡易シールド形成装置を装備していたことがあったらしく、そのときの経験から推測できたという。力押しに弱いようだ。
 人間側は妖術さえ無効化できれば、妖怪など恐るるに足りないと思っているようだ。まあ、その考え方はもっともである。妖術を封じられれば、あと俺たちに残された手段といえば怪力くらいのものしかない。例外的に、『程度の力』に関しては、シールドの防御効果も薄いという。だが、能力持ちは数が少ない。俺も含めてこの森に、5匹くらいしかいなかった。それに、必ずしも戦闘に役立つ力ばかりではない。俺みたいにな。
 となると、後は兵の数を集めて正面突破するくらいしか方法はないわけだ。人間側もその手は十分に予想できるので、対策もされているに違いない。詰んでないか、これ?

 「うぬー、だめだ。うまくいかない」

 今、俺は人間に対抗するための兵器が作れないかと模索している。といっても、この森にある資源と言えば木材しかない。さすがに鉱脈が都合よくこの地にあるということもなかったし、砂鉄があるとしてもそこから精製するなんてやり方も俺は知らない。木でなんとかするしかない。
 とりあえず、俺は投石機が作れないか試案してみた。だが、俺は投石機の詳しい構造なんて知らない。なんとなく形は思い浮かぶが、それを現物にすることは話が別だ。まずは小さな模型を作っているところだ。それが完成したら、本格的な製作に取り掛かるつもりである。
 しかし、うまくいかない。どうやって作ればいいんだ?

 「葉裏様、何を作っているのですか?」

 「ん? これは投石機といってな。大きな岩を遠くに飛ばすための道具だ。これをたくさん作れば、遠くからシールドを破壊することができるかもしれないだろ?」

 「ほう、そのような道具があるとは知りませんでした」

 「いや、俺も詳しく知らないから、今試案中なんだ。というか、煮詰まっている。手を貸してくれ」

 そう言ってみたが、妖怪は難しそうな顔をするばかりだ。

 「葉裏様、まことに言いにくいのでありますが、その投石機というものは人間の作る道具ではありませんか?」

 「確かに、そうだな。それがどうした?」

 「“道具を作る力”は人間の領分でございます。我々妖怪には、複雑な人間の道具を作ることはできません」

 人間と同程度の思考力を持っていれば道具の作成くらいわけないと思っていたが、どうも違うらしい。妖怪は種族的にモノを作るという行為が苦手なのだそうだ。実におかしな感覚だが、言われてみれば確かにと思う節がある。かれこれ数日は投石機の製作に頭を悩ませていたが、一向に良い案が浮かばないのだ。これは妖怪の性分なのか、それとも俺の頭がアホなのか。
 妖怪は便利な道具を手に入れようと思ったら、人間から奪うことでしか得られない。中には鍛冶が行える妖怪などもいるそうだが、それでも都のような科学技術には到底及ばない文明レベルの品である。この妖怪の不器用さが、人間にすみかを追われる敗因になったのだろう。
 これでは、仮に投石機の設計図が完成したとしても、妖怪たちを動員して量産させることなんて到底できそうにない。投石機は諦めるしかないか。

 「それだと、本当に正面突破しか他に方法がなくなったな。援軍の要請はどうなった?」

 この森にいる妖怪の数はせいぜい1500匹程度である。それに対して、人間の都にはその規模から見ても1万人くらいはいると思われる。圧倒的に数が足りない。妖怪一匹の強さは容易に人間一人を上回るが、それにしたって少なすぎる。それに、人間には高度な文明によって生み出された兵器がある。武装した兵士なら、十分に妖怪とも渡り合える。そこで、援軍の要請は急務だった。
 求めた先は、妖怪四天王と呼ばれる連中である。なんか、逆に弱そうに聞こえるがそんなことはないらしい。六島苞もその一匹だったとか。後の三匹も強豪揃いのようで、この森のようにそれぞれが拠点を構え、多くの妖怪を従えているそうだ。今回の戦いに協力してくれるかどうか、打診してみた。

 「はい、それが……色よい返事をいただけたのは、東の猪々獄様のみでございました」

 「まあ、そんなもんか」

 妖怪だから人間との一大決戦をやると言えば、血の気の多い連中が集まるかと思ったのだが、現実は厳しい。一匹集まっただけでもよかったと言える。はたして、猪々獄とやらがどれほどの軍勢をひきつれて来てくれるのか、期待してまつしかないだろう。

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