2014.12.17 / UX

時間軸でのユーザーエクスペリエンス 〜予期的UX編〜

Tomohiro Suzuki

UX Tokyo Advent Calenderへの参加のお誘いを頂いたので、僭越ながら記事を公開します。
内容としては時間軸によるUXの定義の中の、予期的UXについての部分になります。全体としては多くの記事などに書かれていますが、個々の段階についてはフォーカスしたものがないため、改めて考え直しまとめたものになります。また、その他の時間軸の部分についても今後書いていく予定です。
もし情報の漏れや解釈の誤りがあれば、UX Tokyoのグループや直接お会いした際にご指摘頂ければ幸いです。

時間軸としてのUX

2010年のドイツでのセミナーを翻訳されたUX白書というものがあります。
UX白書では異なる期間で生じる体験のプロセスを、図のように4つの段階に分類して説明しています。それぞれ「予期的UX」「一時的UX」「エピソード的UX」「累積的UX」の4つの段階に分類されており、全体をデザインしていく必要があります。それぞれ簡単にご紹介すると下記のようになります。

  • 予期的UX:経験を想像する
  • 一時的UX:経験する
  • エピソード的UX:ある経験を内省する
  • 累積的UX:利用期間全体を回想する

よく注目されるのは一時的UXの部分です。プロダクトやサービスを実際に経験している段階であるため、比較的イメージがしやすいUIなどが直接関わる部分ではありますが、一時的UXだけが良くとも実際の価値には影響がないことがあります。

たとえば、ECサイトでのUXを考えたとき、操作による体験要素はもちろんあるが、商品在庫がどの程度充実しているのか、価格は安いのか、支払いは信頼できるのか、配送はスムーズか、といった点もそのECサイトを評価するための要因となる。
<中略>
極論であるが、先ほどのECサイトでのUXを例にとると、たとえば注文から数分で届くECサービスがあったとすると、このサービスのUIがどのようなものであろうとも、また、たとえ手数料が高くても、利用したい人は使うであろう(注)。
このサービスでは、ECという「オンラインサイトでものを買うことができる」ことは他のサービスといっしょであっても、「圧倒的に速く届く」という点においては、ユーザーは他では味わえない体験を得ることができるといえる。

引用:UXの本質について | ラボ | 株式会社コンセント

少し前置きが長くなりましたが、今回はこの4つの段階の中から「予期的UX」の部分について紹介していきます。
(※本記事内ではイメージしやすくするためにアプリケーションの例を用いるため、現実世界でのサービスやプロダクトなどとは若干異なる点もあります。)

予期的UXとは

予期的UXは他の3つの段階と比べ唯一、実際のサービスを経験していない段階です。ではいつから予期的UXがはじまるのかというと、ユーザーがそのサービスやプロダクトを知った瞬間から始まります。
例えばFacebookで新しいアプリの広告を見たとすると、既にその時点で予期的UXは始まっています。他にも隣の席の同僚との世間話で新しいサービスについて聞いたとしても、その時点からすでにそのサービスにおける経験をしています。
その後、ユーザーは少なからず想像を自分の頭の中で行い、価値を感じたら購入やダウンロードをするために検索を行い、実際にサービスを使う一時的UXに移行します。
(図では完全に知ると想像するを分割していますが、実際に人間の頭の中では知りながら情報を処理して想像しています。)

反復される予期的UX

また、この「知る」と「想像する」についてはワンセットではなく、複数回行われる場合もありますし、片方だけが単独で行われる場合もあります。
例えば少し前の話ですがClash of Clanの広告を渋谷の駅で目にして、家に帰ってからもCMなどで目にする、その後何かのきっかけで暇を潰したい時にふと思い出して考えるなど、すぐに利用までいかない場合には予期的UXは反復されることがあります。

「知る」体験

まず知る部分について見ていきましょう。
知るというのはユーザーとサービスとの最初の接触部分であり、何かしらの視覚や聴覚、嗅覚などの感覚によって認識します。
知る方法としては実際には様々な五感によって形成されますが、今回は具体的にイメージしやすい「聞く」と「見る」という視覚と聴覚による認識で考えていきます。

「聞く」場合の「知る」

聞く方法としてはわかりやすい例では口コミなどがあるでしょう。サービスのタイプによっては、この聞くという知り方は非常に有効です。例えば30代〜40代の主婦向けのサービスであれば、口コミは大切な知り方です。しかし、詳しくは後述しますが「聞く」場合の情報量はあまり多くなく断片的であり、また本人の主観により美化され正確性に欠けることもあります。
聞く方法での知り方を考えるのであれば、人同士が簡潔に、そして正確に伝えられるようなキャッチコピーなどがあると良いかもしれません。

「見る」場合の「知る」

具体的な例としてモバイルアプリケーションのケースで考えていきます。見る場合のチャネルはブログやAppStore、ランディングページ、広告などの静止画から見る場合と、動画などでそのアプリケーションについての情報を見る場合のふたつが考えられます。また、先ほどの口コミとは別に、レビューなどの見るタイプの口コミもあります。どちらも聞く場合よりも多くの情報を知ることができますが、情報量と理解しやすさは下記のようになると考えられます。

静止画の場合にはスクリーンショットなどのグラフィックや、テキストなどから知ることになり、ユーザーはそこからどのような体験ができるのかを想像します。スマートフォンなどの場合には歩きながらの利用など、じっくり最後まで見てくれるとは限らないため、簡潔に重要なポイントを伝えることが大切です。
逆に業務用のデスクトップアプリケーションではじっくりと吟味することも考えられるため、ユーザーの利用状況に応じた情報を伝える必要があります。

動画の場合には、静止画のよりも詳細に動きやサービスの雰囲気を伝えられるため、内容について詳細に想像することに繋がります。知る段階において、動画は見ると同時に「聞く」も行なわれており実際の内容を理解しやすいといった特徴があるため、iOS8からAppStoreに動画が追加されたのではないかと推測しています。

「想像する」体験

先ほどの知る体験を行なったユーザーは、そのアプリケーションの内容を自分の頭の中で処理し、想像します。リアルタイムで知りながら想像することもありますし、完全に知る対象物が存在しない状態で、頭の中だけで反芻しながら想像するといったこともあります。
想像する体験も分解すると、大きく分けて使い方の想像と得られる体験の二つがあり、使い方の想像は得られる体験にも繋がります。

使い方の想像

ユーザーはサービスをどのように使うのか想像をします。具体的なサービスのグラフィックなどを見た時、または人から聞いた話を元に想像します。
詳細な想像はせず、ぼんやりとしたイメージであるかもしれませんが、ここでの使い方の前提知識は後のサービス利用時の体験である一時的UXに繋がると考えられます。ユーザーはサービスの予習をするようなイメージでしょうか。
例えばパズドラのCMでは、実際にパズルを動かしている様子を伝え、ユーザーに予習させることにより、実際の使い方を想像させています。もしCMを見てダウンロードしたユーザーであれば、戦闘画面のパズルは初めて見るユーザーよりも、少しだけ学習コストが低くなります。
ただ、この例では簡単なパズルというUI自体もひとつのポイントになっていますが稀な例であり、ゲームや一部のUIを売りにしているサービスを除き、通常はあくまでも使い方の参考程度に見せ、後述する得られる体験自体を伝えたほうが効果的かと思います。

得られる体験の想像

先ほどの使い方の想像も関係しますが、ユーザーはそのサービスでどのような体験ができるのかを想像することになります。得られるものは有形、無形問わず、サービスを利用することで何が得られるのかですが、いずれにせよ今までの自分の過去に経験している体験をひとつの基準として、その基準をもとに比較して体験を評価しているのではないかと思います。

例としてLINEのCMでは、画面や機能はほとんど見せず、メッセージを見たベッキーが笑ったり、電話をして泣いたりしているだけです。ただメッセージをする機能だけなら他のアプリケーションでも可能ですが、LINEに感情を動かされるようなスタンプがあることなどを、機能ではなく体験のイメージとして伝えています。ガラケーなどで通常のメッセージしか使用したことのないユーザーは、今までの自分の過去の体験を基準にして考えると、LINEには感情を動かす何かがあり、それは笑えたり泣けるような価値に繋がると想像させることができたのではないでしょうか。

また、この得られる体験の想像では見るよりも聞く場合の方が大きな影響があるのではないかと思います。例えば、自分が求めているアプリケーションを友人に聞いた場合に、(実は使ってみると自分の求めていたことができた場合でも)友人が「(自分にとっては)全然良くなかった」と言うだけでマイナスにバイアスがかかり、利用しなかったことがあるでしょう。
逆に友達が勧めるだけで全く考えずに利用してみたら、全然よくなかったということもあります。このように情報が最も少なく正確でも無いにも関わらず、人からのリアルで直接的な情報はそれだけ判断への影響力があります。

想像は量ではなく質

予期的UXにおける情報の量と質の関係についてですが、Webサービスやモバイルアプリケーションに限った話であれば想像する体験に影響を与えるのは情報の質だと考えています。
それは知った瞬間にそのサービスを利用、またはダウンロードすることができるデジタルの特徴が関係しています。また、無料ですぐに利用できるものが多いことも関係しているでしょう。実物の製品は利用(購入)するために出かけたり、注文して待つ過程が存在するため、ユーザーはこの待ち時間に想像をしますが、デジタルコンテンツであればこの待ち時間は現実の製品の場合よりも短くなる傾向にあります。
適切な体験の想像を瞬時にさせることができるのであれば、予期的UXの時間は非常に短くなるため、短い時間でもユーザーのその後の利用に役立つ質の高い想像をしてもらうような配慮が必要です。


以上、少し長くなってしまいましたが予期的UXについての考察でした。サービスを考えていると、つい実際のユーザーが使っているUIなどの部分だけにフォーカスしがちですが、より全体的な視点でサービス全体を考え、その上で予期的UX自体もデザインする必要があります。
単純な例ですが、継続利用率が悪いケースに一時的UXであるUIだけの改善を試すこともできますが、今まで本来のユーザー以外の人に価値を届けている割合が大きいのであれば、予期的UXの部分を改善することで効果を高めて継続率を上げるといったアプローチもあります。

もし自社のサービスがあるなら、実際にユーザー同士での口コミではどのような言葉で伝えられているのかを聞いてみたり、ストアの情報ではどのような印象を持っているなどの調査を行い、理想とギャップがないかの検証をしてみるといいかもしれません。

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