世界のどこでも、どんな時でも、子どもたちは守られなければならない。それが大人の責務である。こともあろうに、その子どもたちが標的になった。

 パキスタン北西部のペシャワルで、軍の運営する学校が武装集団に襲われた。死者140人以上の多くは児童や生徒だ。

 犯行声明を出した過激派は、「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」だ。軍が掃討作戦を続けており、今回の襲撃は、その報復だという。

 どんな主張であれ、子どもを狙う暴力は断じて許されない。子どもの殺害は、その国の未来そのものの破壊でもある。

 TTPは一昨年も、当時15歳のマララ・ユスフザイさんを銃撃し、大けがを負わせた。彼女がノーベル平和賞を受けると、「マララたちは何人でも殺されることになる」と脅迫した。

 その卑劣な態度を、世界は声を大にして糾弾すべきだ。

 同時に、このような悲劇を繰り返させないためには、どうするべきか考える必要がある。

 パキスタンのシャリフ政権は今年に入って一時、TTPとの和解をめざしたものの、失敗。夏にはTTPがカラチの国際空港を襲撃するテロが起きた。

 過激派に対する軍事力による対策はやむを得ない。だが、同時に今後も政治的な対話の模索も続けるほかない。シャリフ政権には辛抱強い治安対策と柔軟な統治が求められる。

 欠かせないのは国際社会の支援である。TTPは、隣国アフガニスタンの反政府勢力タリバーンと連携している。両勢力が近年活発になったのは、米軍率いる国際治安支援部隊がアフガンから徐々に撤収するなど、欧米のかかわりが薄まったことと無縁ではない。

 両国が社会を安定させられない以上、欧米各国の監視と支援は引き続き必須だ。手を抜けば、この地域はアルカイダなどの拠点に逆戻りしかねない。

 テロを生む社会の根源には、貧困と腐敗がある。核兵器を持つ国なのに、教育が行き渡らない矛盾がパキスタンにもある。

 マララさんがノーベル賞の演説で語った言葉が重い。「なぜ戦車を造ることは簡単なのに、学校を建てることは難しいのでしょうか」「政治家や世界の指導者だけでなく、私たち皆が貢献しなくてはなりません」

 過激思想に走る大人を減らすためにも、子どもの教育制度を充実させ、貧困対策を進めねばならない。そのためには、日本を含む国際社会全体が、政府・市民レベル双方の重層的な協力を広げるべきだろう。