[写真]今年2月、首都圏は13年ぶりの大雪に見舞われた。こうした雪の日にはスタッドレスタイヤが欠かせない(アフロ)

 「実はスタッドレスタイヤには雪用と氷用がある」と言われたら「えーっ!?」と思う人は多いのではないだろうか?

 タイヤがグリップする仕組みは、雪の上と氷の上では全然違う。しかも求められることが正反対なのだ。作っている人はさぞ困っているといつも思う。

 技術者には「乱暴だ」と怒られそうだが、その違いをざっくり言うと、雪の上ではミゾでグリップし、氷の上では接地面積でグリップする。つまり雪にはミゾが多いほど良く、氷にはミゾは少ないほど良い。今回はスタッドレスタイヤがグリップする仕組みについて話をしてみたい。

 スタッドレスタイヤは、雪でも雨でも晴れていても基本的には冬の間ずっと履きっぱなしだ。ラリー競技じゃあるまいし、日常生活では走る路面に合わせてタイヤを履きかえるわけにはいかない。1本のタイヤでこれらを全部こなさなくてはならないからスタッドレスタイヤは大変なのだ。

スタッドレスに求められるさまざまなケース

 競技用タイヤ以上に無茶で多様な性能を求められるその代表的条件をちょっと数え上げてみよう。

(1)ドライなアスファルト路面
(2)濡れたアスファルト路面
(3)乾いた硬い土の路面
(4)濡れた土の路面
(5)べちゃべちゃなシャーベット路面
(6)新雪のふかふか路面
(7)カチカチの氷(アイスバーン)

これをケース別に分類すると、
(1)(3) ある程度タイヤのアドヒージョン(粘着力)が効く路面
(2)(5) 水たまりなど量的に大きな排水性能が問われる路面
(4)(6) 路面に粘性がありせん断抵抗が効く路面
(7)薄い水膜を吸収してグリップさせる路面

となる。それぞれ以下に説明する。

■雪の上でグリップする仕組みは雪玉と同じ

[図解]オールランドな状況を想定した一般的なスタッドレスタイヤ、ヨコハマタイヤの「アイスガード5 iG50」

 新雪を手で押し固めてから、その雪玉を両手でせん断しようとすると結構な抵抗があることは想像できるだろう。雪にミゾが効くのは、圧縮した雪のせん断抵抗でグリップを稼ぎ出しているからだ。

 クルマの重さがかかると、雪はミゾの中でちょうど雪玉の様に押し固められる。この圧縮された雪のカタマリが大きいほど「雪玉」に強度が出るのは直感的にも分かるだろう。だからミゾは太いほど良いのだ。

 新雪では無く、ある程度溶けて荒れている場合でも、やはりせん断抵抗は発生する。雪や泥でスリップするのは、タイヤが路面表層を掴んでもその表層が動いてしまうからだ。だから出来るだけ多くの雪や泥を掴んで、表層と深層の間の粘性を抵抗にしてトラクション(前後方向グリップ)を稼ぐのだ。

 トラクションには横ミゾが効果的だ。雪や泥ねいの上のトラクションだけを考えるなら、極端に言えば下駄の歯みたいなタイヤが最高なのだ。例えば水田で使う耕うん機やトラクター、あるいはスキー場などで使う雪上車のタイヤにはへの字の下駄の歯みたいなトレッド(踏面)のタイヤが多い。ただしいくら雪や泥ねいに強くても「下駄の歯トレッド」は乾いた舗装路での乗り心地やグリップが酷過ぎて、多用性を求められるスタッドレスタイヤには使えない。

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