加害者が「なぜ痴漢したのか」問われない現実
被害者に「肌の露出を控えろ」と言うが、加害者に「なぜ痴漢をするのか」とは聞かない。痴漢を見ないようにしている社会で、痴漢が減るはずはない。
<あなたの油断が…肌の露出が多い><あなたの心掛け!上着を着る>
電車内痴漢防止ポスターに躍る、こんな文句を見かけた。被害に遭いたくないなら「肌の露出」を減らせ、というイラスト入りの啓発。そこには、被害に遭う遭わないは女性次第である、という意識が透けて見える。
警察庁によると、2012年の電車内の強制わいせつ認知件数と、迷惑防止条例違反のうち痴漢行為の摘発件数は、合わせて4250件。それまでは年々減っていたが、前年比6.9%増加した。
被害経験のある女性たちは少なくない。話を聞くと、「分厚いコートを着ていても被害には遭う」「スカートの長さは関係ない」と口を揃える。筆者は何度か痴漢加害者を目撃したこととがある。血走った目をキョロキョロさせ、ホームにいる時から女性を物色していたが、特に露出の多い服装の女性に狙いを定めている様子はなかった。
原宿カウンセリングセンターの信田さよ子さんは、加害者の複雑な心理を分析する。
「たとえ性衝動があっても、普通は隣り合わせた女性を触らない。そこを踏み越える加害者は、自分の行為が相手に一生の傷を残す重大なことであると分かっていない。むしろ女を喜ばせているとまで思っている加害者も少なくありません」
痴漢の加害者である会社員のタナカさん(男性、50)も実際、そう思っていたという。
「相手も一緒に楽しんでいる、くらいの気持ちでした」
高校生の頃から約30年間、電車内痴漢を続けた。「通勤の移動時間を有効活用する感覚」で日常化していたという。毎朝同じ電車に乗る特定の女性に1年間痴漢行為を続けたこともあった。
何度も逮捕された。警察の取り調べでは、「被害者はミニスカートだったのか?」「性欲がたまっていたんだろ?」。そう誘導された。「なぜ痴漢をしてしまったのか」と聞かれることは一切なかった。勾留48時間以内に認めるとそれで済んでしまう。立件されても、弁護士を通じて示談金を払うだけだ。
「何百万円も支払い、職や妻も失った。それでも自力ではやめられなかった」(タナカさん)
(文中カタカナ名は仮名)
※AERA 2014年12月22日号より抜粋