政府、労働界、経済界の代表による「政労使会議」がきのう開かれ、来春闘をにらんで「賃金引き上げに向けた最大限の努力」を経済界に促すことで合意した。昨年に続いて三者が賃上げで合意したことは成果だ。

 しかし、賃金水準は本来、労使で決める事柄だ。政府に催促されなくとも、経済界は働く人に成果を賃上げの形で還元しなければ、経済の好循環は生まれない。ましてや、アベノミクスの恩恵が行き渡らないまま円安による物価上昇が進みそうな雲行きの昨今である。賃上げが暮らしに与える影響は大きい。

 労働組合の中央組織である連合は、来春闘で賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)を「2%以上」要求する方針を決めた。この方針をもとに傘下の産業別組織や各企業の労働組合が要求方針を決めつつある。まず、労働組合は、働く人の生活を向上させる水準の要求、最低でも物価上昇分は賃金に反映させることは要求するべきだ。

 「2%以上」という要求水準は今年(1%以上)を上回る。それでも物足りないという意見が組織内にはある。確かに、ここ最近、消費者物価指数は前年比で3%前後上昇しており、実質賃金も16カ月連続でマイナスを記録している。物足りないとする見方は理解できる。

 大手製造業とサービス業や中小企業の働き手には所得格差がある。多くが労働組合の外にいる非正規労働者の低い処遇も改善しなければいけない。労働組合に入っている働き手の賃上げを非正規にも広げ、さらに最低賃金を引き上げて、格差を解消していくことが日本経済全体の課題にもなっている。

 幸い、有効求人倍率は1倍を超える状況が続き、失業率も低い水準が続いている。各労組が、高い要求を掲げて賃上げを実現させれば、人手不足となっている労働市場を通じて非正規の賃金にも上昇圧力をかけることができる。労組の組織率が2割を下回っているとはいえ、労働市場全体を視野に入れた要求が求められている。

 春闘は1955年に始まり、経済成長の果実を国民全体に広げる役割を果たしてきた。ところが、バブル崩壊で右肩上がりの成長が終わると、春闘の役割も後退。特にリーマン・ショック以降は、年齢や勤続年数に合わせて賃金が増える定期昇給(定昇)を守ることに必死になる状況が続いていた。

 春闘が始まって来年で60年。国民経済に果たす役割が高まる中で、来春闘は真価が問われることになる。