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「なんでウチがビール会社に呑み込まれるんだ!」「なだ万」買収 ――老舗がのれんを売り渡すとき 創業184年の歴史は、いともあっけなく

現代ビジネス 12月6日(土)6時2分配信

囁かれていた危機

 各界の著名人が集う「なだ万」は、誰もが「いつかは行ってみたい」と憧れる存在だった。

 だが―。

 その栄光と伝統は、買収という形で大転換を余儀なくされることになった。

 なぜアサヒビールは、このタイミングで買収に踏み切ったのか。

 早稲田大学ビジネススクールの長沢伸也教授は、こう解説する。

 「アサヒビールは、『なだ万』の『歴史』を買ったのでしょう。同社は現在外食事業にも積極的に進出していますが、客単価の高い高級レストランへの展開を考えた場合、新規に出店すると莫大な資金が必要になる。ところが『なだ万』を子会社化すれば、既存の店舗もあるし、『なだ万ブランド』も一緒に付いてくる。まさに一挙両得です」

 アサヒグループHDは今年2月に本格展開した高級志向ビール「ドライプレミアム」が大ヒットし、10月末には今年1~9月期が増収増益になったと発表。ライバルのキリンHDが通期営業利益見通しを前年比16%減と下方修正したのに比べ、好調を維持している。そんな中、「なだ万」を買収することで、高級路線を加速させる狙いがあるのだろう。

 「昨年末、和食が世界無形文化遺産に登録され、世界中の注目が集まっています。『なだ万』が出店する海外店舗で自社商品を出せば、アサヒビールの認知度アップにも繋がると踏んでいるのでしょう」(岡三証券ストラテジストの小川佳紀氏)

 そもそも、「なだ万」はこれまでも扱うビールの9割をアサヒ商品が占めるなど、両社の繋がりは深かった。アサヒビール経営企画部の担当者はこう説明する。

 「今回の買収で『なだ万』さんを子会社化することで、長年培ってこられたノウハウを吸収し、今後さらに弊社の商品を外食企業に取り扱っていただけるような『提案力』を身に付けたいと考えています。株式を過半数取得するのも、我々自身が責任を持って『なだ万』さんを運営し、経験を積もうという目的のためです」

 一方の「なだ万」も本誌の取材に対し「アサヒビールさんという大企業が後ろにつくことで、より一層、社としての信用が高まると期待しています」(同社総務部)と答える。

 国内屈指のブランド力を誇る「なだ万」と、外食産業に打って出ようというアサヒビール。外野がどう言おうと両社にとって、今回の買収は明るい出来事のように見える。

 しかし、この買収劇の裏には、「なだ万」の深い苦悩が隠されていた。

 「以前から、『なだ万』の経営が厳しいという話は社内のあちこちで囁かれていました。直近の'14年4月期は売上高150億円に対して、営業利益は5億円ほど。従業員約1300人を抱える規模の企業にしては、心もとない金額だと言えます。

 さらに、オーナー企業だからか、一部では一般企業に比べて経理が不透明だという指摘があるのも事実です。その点でも、『なだ万』は不安要素を抱えています」(「なだ万」元社員)

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最終更新:12月6日(土)6時2分

現代ビジネス

 

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