賃金:物価上昇に追いつかず 2015年も寒い懐

毎日新聞 2014年12月16日 14時19分(最終更新 12月16日 21時25分)

物価と賃金の競争は差がつくばかり?
物価と賃金の競争は差がつくばかり?

 連合は来年の春闘で、賃金のベースアップ(ベア)要求を「2%以上」と決めた。今春の「1%以上」から、さらに攻めに出る。だが現状は物価上昇が賃上げを上回り、実質賃金の下落が続く。衆院選で与党が圧勝しアベノミクスが継続されるが、庶民の懐は来年、温かくなるだろうか。【内野雅一】

 円安で輸出が伸びれば中小企業の生産増に結びつく。消費増税に伴う駆け込み需要の反動減もほどなく解消し、国内消費は回復する−−。

 そんなアベノミクスのシナリオに期待して、多くの中小企業が今年の春に賃上げを実施した。「我々の実態調査で『経営状況が悪い』ところも3割強が賃上げした」(全国中小企業団体中央会)ことに期待の強さが表れていた。

 しかし、業績を見る限り、無理をしての賃上げだったことが分かる。アベノミクスが本格稼働した2013年度、資本金10億円以上の企業が経常利益を前年度比34.1%も伸ばしたのに対し、1000万円未満の企業はマイナス2.1%と、2年連続の減少(法人企業統計)だった。中小企業は、その中から賃上げの原資をひねり出したのだ。

 経営者にとっては「先行投資」のつもりだったろう。だが、その思いは裏切られた。

 ◇なりたくても中間層になれない人が増え

 「自動車メーカーは為替変動に関係なく世界最適生産を進め、円安になっても国内に生産を戻さない」。同中央会が今年の秋に実施した景況感調査で、東京都内の金属加工会社は悲鳴に近い報告を上げた。「消費に強さが感じられないのは、物価上昇に対する生活防衛の表れ」。やはり同調査での、四国の商店街の声だ。円安で大企業が業績を伸ばし続ける一方、中小企業は消費増税の4月以降、景況感を悪化させている。それをなぞるかのように、足元の賃金の動きは鈍った。

 「中小企業の賃金上昇は、まだ本格化していない」と言い切るのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんだ。国の毎月勤労統計で、企業に勤める人の給与の動きを示す「現金給与総額」を見ると、9月は全体で前年同月比0.7%の伸び。「問題は、その内訳なのです」と熊野さん。従業員30人以上の企業が1%以上(500人以上では1.5%)の伸びを見せているのに対し、零細企業といえる規模のより小さい5〜29人ではわずか0.2%でしかないのだ。

従業員5〜29人の企業の賃上げはわずか(今年9月で比較)
従業員5〜29人の企業の賃上げはわずか(今年9月で比較)

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