東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

週のはじめに考える 考え抜いた一票を

 きょう、投票の日です。何も変わりそうもないから、とあきらめてしまうのは、やめましょう。民主主義の基本とはやはり考え抜いた一票なのです。

 思い出してみましょう。

 投票に行こう、と呼びかけたのは解散を告げる安倍首相でした。こう述べていました。

 「税制は国民生活に密接にかかわっている。『代表なくして課税なし』が米国独立戦争の大義でした」

 解散の大義はともかく、史実はその通りです。

◆米独立のスローガン

 「代表なくして…」は英国に対するアメリカ独立運動の有名なスローガンであり、また政治家で弁護士のジェームズ・オーティスの言葉でもあります。

 当時英国は植民地アメリカに対し、公文書や冊子、新聞に収入印紙をはる新税法をつくり、その税収を駐屯軍費用や貿易取り締まりにあてようとした。つまり英本国の財政を痛めずに植民地支配を強化しようとしたのです。

 まさに悪知恵、悪税です。

 植民地を見下す帝国心理が透けて見える。上から目線です。

 見下されたアメリカの人々は怒りました。なぜ自分たちの税金で自分たちが苦しまねばならないのか。乏しい軍備ながら独立戦争へと向かわせたのです。

 安倍首相の言う通り、税は国家と国民をまさに直接に結びつけるものです。

 消費税8%になって、とりわけ家事を預かる女性からは、高くなったね、という声を聞くようになりました。その一方で、これが社会保障に回るのなら、という声も聞きます。また税の使途のかたより、無駄遣いを考える人もいるでしょう。

 言うまでもなく、みんなの税の再分配こそが政治の役割です。

◆日本の針路が決まる

 それが国や世界の成長を促し、また資本主義の国ではおそらく必然的に生まれる格差を縮める役割を果たすに違いありません。

 国民は税を納める代わりに、その額と使途にもの言う権利をもつのです。人は平等ですから、税を納めることのできない人ももちろん権利は行使できます。

 消費税増税の延期でいいのか、いけないのか。増税延期はポピュリズム政治なのか、それとも経済動静を踏まえたものか。その先の軽減税率はどう考えるべきか、増税の延期後に必ず上げますという与党の約束は正しいのか否か。

 だれだって簡単に答えの出せるものではありません。銀行家や経済学者だって将来が見通せるわけではない。

 そこはまず自分の暮らしによいのか、自分の考え方に近い政党はどれか、たとえばそう考えてみたらどうでしょう。

 もちろん選挙の課題はそれだけではありません。

 社会保障、原発再稼働、また集団的自衛権の行使容認の行方などがあります。特定秘密保護法の運用も気になるところです。その先には憲法についての議論も待ちかまえていそうです。

 私たちは社説で、消費税増税は、税と社会保障の一体改革になっていないと指摘し、アベノミクスには冒険的で格差を広げていると疑問を呈し、原発頼みよりも再生可能エネルギーの拡大を訴え、集団的自衛権の行使容認については、歯止めがきかなくなる恐れがあるとして反対しています。訴えた以上、賛同を望みます。

 しかしもちろん、私たちの意見に反対の人、大いに異論のある人もいるはずです。未知の課題に対し今ある答えは一つでないでしょう。

 おおげさにいえば、人類はこれまでどれほどの間違いを犯してきたか。その当時正しいと思っていたことがどれほど誤っていたか。古代ローマ帝国以来、衰えるはずもないような世界の大国がなぜ次々と滅びてきたのか。

 原因はまず政治にあり、指導者にあり、あるいは周辺の脅威にあり、また翻っては国民自身にあったのかもしれません。

 最適の道はなさそうだからと、例えば二大政党制のようなジグザグ路線が選ばれましたが、いつも正解はなくただ最善への途上に違いないのです。

◆自由がもったいない

 そしてきょうの投票です。投票率に関して世論調査の予測はよくありません。

 冒頭の「代表なくして…」という言葉に戻せば、オーティスはこう記したともいわれます。「代表なき課税は暴政である」。また「自由ある所、祖国あり」と。

 投票に行かないでは自由がもったいない。祖国が泣きます。

 この国の今と未来のための考え抜いた一票を投じましょう。考え抜くことがきっとあなた自身のためにもなるはずです。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo