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【社説】

「1強」ゆえに謙虚たれ 安倍政権継続へ

 衆院選結果を受けて安倍内閣は継続するが、懸案は山積だ。選挙結果には表れない「声なき声」にも謙虚に耳を傾け、政権運営に誤りなきを期すべきだ。

 衆院議員の任期四年を半分以上残した時点での解散・総選挙を仕掛けた安倍晋三首相は、安堵(あんど)していることだろう。

 自民党が党勢を維持し、来年四月の統一地方選でも大敗しなければ、首相は来年九月予定の自民党総裁選で再選される可能性が高くなる。長期政権も視野に入る。

 選挙結果だけを見れば、有権者は当面、安倍政権の継続を認めたことになる。

◆絶対得票は30%未満

 衆院で三分の二以上という議席数は圧倒的だ。参院で否決された法案も、衆院で再可決すれば成立させられる。それほど強い政治力を、自民、公明両党は引き続き持つことになる。

 しかし、その足元は、強固とは言い難い。

 投票率は史上最低の52%台にとどまる見通しだ。与党の得票率が40%程度だとしても、全有権者数に占める得票数の割合「絶対的得票率」は30%にも満たない。

 それが選挙制度だと言ってしまえば、それまでだが、安倍政権の側はまず、全有権者の三割に満たない支持しか得られていないことを自覚しなければならない。

 有権者の側も、政権への支持が全有権者の三割に満たなくても、憲法改正を発議できる議席を与えてしまう事実に、もっと関心を払う必要があるだろう。

 「国のかたち」でもある憲法の発議を、国民の大多数が望むのならともかく、少数の手で進めてしまっていいわけがない。

 半数近くの有権者が投票所に足を運ばなかった理由は多々あるだろう。まずは、首相が解散に踏み切った理由への疑問だ。

◆主要政策、世論と乖離

 税は民主主義の根幹だが、今回の衆院選で問われたのは消費税の増税ではなく、再増税先送りの是非だ。有権者の戸惑いは最後まで消えなかったのではないか。

 民主党が今回、定数の半分に満たない候補者しか擁立せず、政権選択の衆院選だった過去二回とは趣が異なった。安倍政権の「信任投票」では、有権者の足が投票所から遠ざかっても無理はない。

 さらに、一票を投じても政治は変わらないという諦めが有権者側にあったのなら見過ごせない。

 序盤から終盤まで一貫して、自民党の優勢が伝えられた。あくまで調査に基づく選挙情勢の報道ではあるが、有権者に先入観を与えることはなかったか。報道の側にも自戒が必要だろう。

 首相は選挙結果を安倍政権の信任と受け止め、政策遂行や政権運営の推進力とするに違いない。

 まずは解散名にも名付けられた首相主導の経済政策「アベノミクス」である。首相はデフレから脱却し、経済を再生するには「この道しかない」と訴え続けた。

 大企業や富裕層を中心に円安・株高の恩恵を受けている人たちもいるのだろうが、その果実は国民全体、特に中小企業や地方への広がりを欠くこともまた、選挙戦を通じて明らかになった。雇用は増えたが非正規の割合も増えた。

 世論調査では首相の経済政策を評価しない人が半数を超える。本当に「この道」しかないのか。

 外交・安全保障も引き続き重要課題だ。首相は衆院選で集団的自衛権の行使容認も支持されたとして、安全保障関連の法整備を進める方針を明言した。

 歴代内閣は四十年以上、集団的自衛権の行使は憲法に反するとの解釈を堅持してきた。それを一内閣の判断で、十分な国会審議も経ずに変えていいのか。

 公示直前の共同通信世論調査では、安倍政権の安保政策を支持しない人は53%に達する。このまま進めていいわけがない。

 原発再稼働も同様だ。首相は選挙戦で原発・エネルギー政策について多くを語らなかったが、政府は国民の多数が反対する再稼働に向けた動きを着々と進める。

 主要政策だけをみても、安倍政権が強引に進めれば、世論との乖離(かいり)が広がるのは明らかだ。

◆誤りなきを期すには

 安倍首相の祖父である岸信介首相は一九五八(昭和三十三)年、国会でこう述べている。

 「最後の審判は選挙で決まりますが、世論の動向、国民の意向には絶えず十分に耳を傾け、『声なき声』にまで耳を傾けて誤りなきを期することは、政権を担当しているわれわれが、かねがね考えていることであり、考えていかなければならぬと思います」

 選挙結果に傲(おご)ることなく、野党はもちろん、選挙結果に表れない国民の声にも耳を傾けねばならない。「一強」であればなおさら、胸に刻むべき政治の要諦である。

 

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