「してやったり」と「してやられた」の明暗が分かれた。前者はむろん安倍首相と与党。後者は野党。テニスでいえば、解散というサーブ権は首相側にあった。いきなり飛んできたボールを、野党の大半は打ち返すどころではなかった▼有権者については、こんな一句が思い浮かぶ。〈飛込(とびこみ)の途中たましひ遅れけり〉中原道夫。高飛び込みの選手が、魂を置き去りにするような速さで水面に落下する図である。今回の解散は唐突だった。しかも師走。投票日までのスピードに「心」が追いつかなかった有権者も多いのではないか▼投票率は記録的に低く、盛り上がりを欠いた。そうしたもろもろが、どこまで計算されたものかは知らない。大義の見えない解散ゆえに当初は勢力を減らすとも見られたが、自民、公明は野党を圧し、結果は大勝である▼とはいえ集団的自衛権や原発の再稼働、特定秘密保護法といった民意を分かつ争点を、アベノミクス柄の風呂敷で巧みに包んだ感がある。勝利すなわち白紙委任ではないことを、お忘れなく願いたい▼議席数が定まっても、選挙結果は必ずしも多数派の正しさを保証するものではない。かつて英首相を務めたアトリーは、民主主義の基礎を「他の人が自分より賢いかも知れないと考える心の準備です」と語っていた▼安倍首相には、自らに賛同する人だけではなく、反対の意見を持つ人も含めた代表として、一国の舵(かじ)取りをしてもらいたい。選挙が終わって、幾千万の目がそこを見ている。