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「どっちなんだよ」暴力にさらされ、自殺考える「性的少数者」の自己否定と孤立

産経新聞 12月15日(月)20時5分配信

 多くの性的少数者が暴力にさらされ、生きづらさを抱えていることが明らかになった。性的指向を理由に暴力を受けたことのある人の過半数が自殺を考えたことがあるという調査結果が発表され、性的少数者は悩みを抱えたまま、相談もできずに孤立しがちな姿が浮き彫りになった。当事者らは、学校教育などの環境整備と支援の必要性を呼びかけている。(油原聡子)

 性的少数者は、女性の同性愛者であるレズビアン▽男性の同性愛者であるゲイ▽両性愛者であるバイセクシュアル▽生まれたときの法的・社会的な性別とは異なる性を生きる人、生きたいと願っている人であるトランスジェンダー−のこと。英語の頭文字をつないで、LGBTともいわれる。日本の人口の3〜5%存在するとされている。

 米国では州によって同姓婚が認められるなど海外の一部の国では、性的少数者に対する理解が広まっているが、日本ではいまだに差別や偏見が根強くあり、孤独感を抱えたまま、悩み苦しむ当事者は多い。

■暴力は日常的に…

 LGBTの人権に関するサイトの運営団体「ゲイジャパンニュース」(東京)が行った調査では、レズビアンやバイセクシュアル、トランスジェンダーの人たちは、性的指向などを理由に日常的に暴力にさられていることが明らかになった。

 調査は平成22年11月〜24年3月、全国の22〜58歳(平均年齢36歳)の、レズビアン、バイセクシュアルに加え、トランスジェンダーでも心が女性の人もしくは、体が女性の人−の計50人を個別にインタビューした。「女性」をキーワードに性的少数者を「暴力」をテーマに調査した例は国内初だという。

 暴力の定義は、殴る、たたく、閉じ込められる、食料や水を得られなくするなどの「身体的暴力」▽ののしる、脅す、軽蔑などの「心理的暴力」▽性的活動の強要など「性的暴力」。調査の結果、50人が受けたことのある暴力は「心理的暴力」が最も多く31人。「身体的暴力」は14人。「性的暴力」は28人だった。

 加害者は保護者やパートナー、親戚(しんせき)、学校時代の同級生、同僚らのほか学校、医療機関の担当者など公的機関も含まれた。性的指向のために日常的に抑圧され、不安定な心理状態に置かれやすいことが分かった。

 トランスジェンダー男性(身体的には女性)の山田さん(仮名)は高校生のとき、女子10人ほどに囲まれ『(性別は)どっちなんだ』と言って、寄ってたかって(服を)脱がされたという。「本当に男だって意識だった。かなりショックだった」と話した。

 また、トランスジェンダー女性(同男性)のあやさんは高校3年のとき、同級生の男子10人以上から集団暴行を受け、性器を触られる暴行を受けた。「いつもの殴る蹴るのとは違う経験。自分の中ではなかったことにしようとしました。(記憶を)押さえ込もうとしたけど、忘れようにも忘れられない」

 ゲイジャパンニュースの共同代表、山下梓さんは「DVなどの被害を受けたときに、支援者に話をしづらい。加害者は同性です、とは言いづらく、被害が見えにくくなっている」と指摘する。

 自殺を考えたことのある人は50人中27人と過半数に上った。自殺未遂の経験のある人は5人だった。自殺未遂をした人のうち、トランスジェンダーの男性は、地域の支援グループにつながっていたものの、インタビューから約半年後に自殺してしまったという。山下共同代表は「地域の当事者グループにつながっていたのに、亡くなられてしまった。支援よりも日頃から受けていた暴力が上回っていたんだと思います」と話す。

■低い自己肯定感

 性的少数者は、学校や職場などで差別や偏見、暴力などにさらされ、自己肯定感が低くなる傾向にある。心に大きな傷を抱えた後も適切なケアを受けられず、鬱病になったり、自殺を考えたりするようになってしまうという。政府が平成24年に閣議決定した「自殺総合対策大綱」でも、性的少数者は自殺の要因となりうると指摘し、自殺は「追い込まれた末の死」であるという認識が示されている。

 性的少数者の若者を支援する民間団体「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」の共同代表、大磯貴廣さん(37)は「性的少数者は、子供時代に孤立感や自己否定、いじめなどに苦しんでいる。そして、いじめ被害を受けた後のケアもされない」と話す。

 一般的ないじめとは違い、性的少数者が被害者の場合には、「自分はいじめられても仕方がない」「女っぽい自分が悪い」などと、いじめを“肯定”してしまうという。親にも友人にも相談できず孤立し、いじめが終わった後でも、他人に言えず苦しんでしまう。

 「学校現場には、性的少数者の知識を持った人がいない。相談されたとしても教師もうまく対応できない。教育関係者や公的機関の人に対して、性的少数者に関する研修を行うべきだ」(大磯共同代表)。

■「教科書には存在しない」

 子供時代の苦しみが、その後の人生にも長く影響してしまうことから、性的少数者の存在を理解してもらい、差別と偏見をなくそうと、教育現場への働きかけも始まっている。

 現在、日本の学習指導要領では「性的少数者」の存在が触れられていない。文部科学省が28年度に学習指導要領の改訂を進めているのにあわせ、当事者らが、学習指導要領に性的少数者の存在を明示するよう求める署名活動キャンペーン「クラスに必ず1人いる子のこと、知ってますか?セクシュアル・マイノリティの子どもたちを傷つける教科書の訂正を求めます」を11月から開始した。インターネットの署名サイトを活用し、1万人分を目標にしている。

 発信代表者の室井舞花さん(27)は「現行の教科書では、全ての人が男として、または女として異性に惹(ひ)かれるかのような記述になっている。高校の教科書など一部で性的少数者の存在が触れられている程度」と話す。学習指導要領解説書では、「思春期になると、だれでも遅かれ早かれ異性に惹かれるようになる」という記述があり、性的少数者の子供は「いないこと」にされているという。だが、「現実には3〜5%、1クラスに1〜2人は性的少数者の児童生徒がおり、当事者は正確な情報に触れることができずに孤立してしまう」と室井さんは話す。

 室井さんは中学生のころ、初めて同性を好きになったが、教科書に「異性を好きになる」という表記があったことから、「自分の恋心を否定されているように感じた」という。同性に惹かれていることに自分でも抵抗感があったため、自分は間違っていると考えてしまった。

 19歳で同じ同性愛者の友人ができるまでは、誰にもカミングアウトできなかったという。「自分でも認めたくないし、知られたくなかった。恋愛の話を振られても、興味のない振りをしていました」と振り返る。周囲には同じ立場の人はいなかったため、自分が浮いてしまうという恐怖感があったという。

 「10代のときのショックは自分が思っているよりも深く長く続く。同性愛・両性愛男性の約6割が自殺を考え15%が自殺未遂経験を有するという国内の調査結果もあり、早急に対応をしないと自殺してしまう子供が出てしまうのではないか」と話す。

 ホワイトリボンの共同代表の一人で、署名活動の賛同者でもある、遠藤まめたさん(27)は「教科書上ではLGBTはいないとされているため、自分を否定されているように思う当事者は多い。LGBTは存在するし、存在しないという書き方は、科学的にも不正確」と話す。今後は、シンポジウムなども行い、情報発信をしていく予定だ。

 署名活動のサイトは(http://chn.ge/1u5C1KX)。

最終更新:12月15日(月)22時53分

産経新聞

 

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