イーブンのスタンスで見ていたはずなのに、いつの間にか片方に肩入れしていることがある。気がついたら、無意識のうちに感情移入してしまっていた――天皇杯決勝のモンテディオ山形がそうだった。
私がかつてサッカー専門誌の編集部にいた頃、ガンバ大阪の担当だったことがあるから、思い入れは圧倒的にG大阪のほうにある。それなのに心情が山形へと傾いたのは、判官びいきによるところが大きいが、何よりもその勇敢なプレーに心を奪われたからだ。
山形の猛プレスに、心を奪われた序盤。
開始早々の猛プレスでさっそく心をつかまれ、攻撃から守備への切り換えの速さに感心させられた。それでも、あっさりと2点を奪われ、力の差を突きつけられた。「あぁ」とか「あと少し!」とか「頑張れ!」とか「あーあ」とか、心の中で叫び続けた、あっという間の90分。
なかでもペンを握る手にグッと力がこもったのは、2点のビハインドで迎えた60分からの20分間だ。
山形の石崎信弘監督は、2シャドーの山崎雅人に代えて林陵平を1トップに送り出し、ディエゴを2シャドーの位置に落とした。
サイドへのプレスやプレスバック、遠藤保仁へのチェックなど、守備で利いていた山崎を下げるのは、リスクが低くない。代わってその位置に入るのは、ディエゴである。守備での貢献は山崎ほど望めないのは明らかだ。
案の定、それ以降、遠藤へのマークは甘くなったように見えた。だが、リードされている以上、リスクを冒して勝負に出る必要がある。「あれでスイッチが入りましたね」と振り返ったのは、ボランチの宮阪政樹だ。効果はてきめんだった。
続けざまのチャンスから、逆に追加点を許す。
林の投入から1分も経たないうちに、ビッグチャンスがやってくる。
1トップの林がG大阪のセンターバックをふたりとも引き付けてニアサイドに走ると、必然、ゴール前にはスペースが生まれ、フリーになったディエゴが飛び込んでいく。
この場面は、慌てて戻ってきたG大阪の左サイドバック、藤春廣輝に体を寄せられてシュートには至らなかったが、いきなり狙っていた形でビッグチャンスを迎えた山形は、2分後に石川竜也のクロスからロメロ・フランクが決めて1点差。
なおも、最前線からの落としにディエゴが合わせる狙いの形で山形が70分、77分とチャンスを作って畳み掛ける。追いつきそうな気配は確かに漂っていた。だが、まさにそのとき、右ウイングバックの山田拓巳が足をつってしまい、ピッチから離れている間に、宇佐美貴史のゴールで突き放されて、決着がついた。
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