1.初めて
「――っ」
「――!」
――なんだろう?
「――・・いつでも・・れる」
「ちょ――・・・なこと!」
なんだかすんごく――
「俺に――・・・は、・・・もお前も同じだ」
「なに――・・っ!ったくとことん嫌みな口!もう我慢ナンない!」
決して小さくはない人の話し声
お陰で深く眠っていた意識が否応なしに上昇させられていく。
なによりあの脳髄までキーンと響く高音 なんとかなんないだろうか
「とっとと構えな!」
「ここでか」
「ここじゃ不満だっての!?? じゃ外出なさいよっ!! どこだってアタシは構わないけどっ」
ああもう、だからっ――
寝ているにもかかわらず思わず顔を顰めてしまう
ただでさえ黄色い声がお風呂の中で聞いているみたいに妙にワンワンと反響してきて耳障りこの上ない。
寝ていながらも妙に腹が立ってきた。
「外は夜間だ。それでもいいなら相手をするが。」
「ハッ!!夜間がナニ?!上等じゃないのぉっ!」
いい加減に――
「――るさいうるさーいっ!!!」
飛び起きざま大声で叫んでいた。
私は滅多なことで怒ることはない穏やか人間なのだが、唯一睡眠を邪魔されるのだけは我慢がならない。
起き抜けの私は機嫌が超絶悪いことは、親しい友人知人は皆身に沁みて知っているのだが――
「ったく人がぐっすり寝ている傍でギャーギャーと!そんなに騒ぎたいんならとっとと外へ出――・・っ!!」
2人を上回る怒声を叫びながら跳び起きた私は、自分に注がれる二対の双眸に一瞬で固まった。
目の前には黄金の槍を綺麗に構えた超絶美人なゴールド姉様と、岩場に腰かけ長い脚を組んでいる超イケメン男優な濃紺の戦士の姿が。
その眩しすぎるお二人の姿に寝起きの怒髪天は一瞬で急速冷凍。
「っ・・う、あ・・お・・・・おおおはよう、ございます・・」
「あらぁ?な~んだ、てっきりくたばったのかと思ったけどぉ」
ヒュヒュンと槍を綺麗に回転させて臨戦態勢を軽く解くと、黄色いゴールド姉様がニヤリと片笑みを作って私を見降ろす。
「結構元気そうじゃないのン」
何気に勝手に殺さないでほしいんですが。
いや先ほどはただ脳みそがちょっとオーバーヒート起こしたみたいで――などと胸の内で言い訳を呟いていると、腰かけていた男優戦士がおもむろに立ちあがり人の背よりも高い岩場からひらりと飛び降りた。
あの身のこなし、何気ない動作さえも思わず見惚れるほどしなやかだ。見た目がよいだけでなくきっと身体能力も高いに違いない
「何か言いかけていたが。『とっとと外へ出』――その先はなんだ。」
「いえ、あのっ なにもっ!まったくお気になさらずにっ!」
条件反射のように両手を思いっきり振りながら見上げた私は、改めて目前の光景に内心唖然とする。
長いマントを纏い私を見降ろす長身の濃紺戦士と、その向こうから私を見つめるゴールド色のお姉様戦士
ふと周りを見回すと、さっきと違ってここは洞窟のような狭い空間。
でもやっぱり瓦礫ばかりで生気のない無彩色な世界で。
夢――じゃない・・・
寝起きの元気はどこへやら、私は深く項垂れ落ち込んだ。
そう
目覚めたら全てが夢で、いつものように会社に行って更衣室で『変な夢見ちゃった~』などと悪友に愚痴こぼして――そうなることを心のどこかで、でも切に願っていたのに。
ベタだと思いながらも片手で頬をギュッと抓ってみる。痛い。でももっと力を籠めてみる。ついでに片方の手でも頬を掴んで両頬をぐいぐい抓ってみる。すごくすごく痛い。
鼻の奥がツンとして目頭が熱くなってくるのは、痛みのせいに違いない。
2人の視線を感じているものの、私は両頬をぐいぐい抓りながら顔を上げられずにいた。
「なにをしている」
すぐ間近で聞こえる耳に心地よい低い声。頬を抓り続けていた手が何かに掴まれ無理やり外された。
顔をあげれば自分の手首を掴む大きな手が滲んだ視界に映り込む
私の手よりも遥かに大きいその手は皮のような手袋に覆われていて、間近で見ると丈夫そうな皮生地の所々が摺り剥けたり小さな穴が所々に空いている。
そんな小さい部分ばかりに気を取られていると。
「なに~これ何が意味あんの~?・・ってったたたたっ・・結構痛いわよ~?」
少し離れたところで、ゴールド姉様が頬をギューギュー抓っている。
私のやっていたことを真似てみたんだろうか。
超美形なお姉様が頬を抓っている姿があまりにもコミカルすぎて。
「・・・ぷっ」
可笑しさに耐えられず思わず吹き出してしまった。
グッと押さえていた涙が別の意味で湧き上がる。
「ふふっ、あはははは・・っ!」
どうしたことか今度はどうしようもないくらい笑いがこみ上げてきた。
一旦始まるともう止まらない。もう堪えるのが難しくて声を出して笑ってしまった。
それがよかったのか、ひとしきり笑って滲んでいた涙をぬぐうと、私は何故かすっきりした気分になっていた。
「止まったか」
わりと近い位置から聞こえた低い声にハッと顔を上げた。そこには紺色の男優戦士さんが片膝をついた状態で私を見降ろしていた。
そうだった・・さっき私が頬を抓っていたのを止めてくれたんだっけ。ってことは彼は目の前でずっと私が笑い転げるのを見ていたってことで・・・それはそれで恥ずかしい・・
頬が徐々に火照ってくるのを感じた。
「は・・はい・・大丈夫です。すみませんでした・・・」
あまりの恥ずかしさに紺色さんと目を合わせる勇気がなく、目線を喉仏辺りにとどめながら(その首も結構太いし!)ぎこちない笑みを浮かべて応えた。
「・・・・」
ふいになにやら強い視線を感じて、ふと顔を上げた。
そこには、紺色(いい加減ベータ・・さんって呼ばないとだめか?)さんが僅かに目を細めてこちらを見ている。
ち、近いんですが――
今までにない近距離での美形アップに年甲斐もなく鼓動が跳ねあがった。
当初の鋭い眼力が影を潜め濃紺の双眸は吸い込まれそうに深い。形の良い口元は真一文字に結ばれたその整った顔からは表情らしい表情は読めなかった。
日頃からあまり人を目を合わせるのが苦手だったのに、このときは吸い込まれるような深紺の双眸に捉われて目が離せない。
私自身男性付き合いの多い方ではなかったので、男性の考えていることなんて皆目見当がつかない。
でもただ――なんとなくだけど――
この人は、私に敵意はない――そんな気は、した。
「ならいい」
そういって紺色さんがスッと立ちあがり、フワリをマントを大きくなびかせて火の傍へと近寄った。
その姿を私はボケーっと目で追う
炎に照らされて浮かび上がる彫りの深い横顔。その顔を縁取る前髪は後ろへと流され、肩より少し長めの後ろ髪とともに低めの位置で無造作に一つに括られている。
でも一つに括れなかった癖のないまっすぐの髪が頬や首元に掛っているのが妙に色っぽい。
てっきり黒髪かと思っていたその髪は、焚火の光があたって深い蒼みを増して乱反射していて。黒髪だと思っていたのに黒じゃなくて――
「ダークブルー――・・・」
ほんわりと見惚れていた私は、思わず呟く。その言葉に反応したかのように、炎を見つめていた横顔がこちらを向いた。
「あ、いえ。なんでも――」
「それは――俺のことか」
「え・・?」
思わずどう返事したものか戸惑っていると、もう一人のゴージャスな影も火の傍に近づいてきた。
「なになに『だーくぶるー』って?」
目をクルクルっと輝かせて表情豊かに訊ねてくる。紺色の人とはまるで正反対だ。
どちらにしても圧倒的な存在感の2人が揃って私を見ているこの状況、何度味わっても緊張する。
「え?なにって・・ただこの人の髪の色がダークブルーなんだなぁって。」
「『イロ』??? 相変わらずなんだかわかんないこと言うコねぇ。でもその『だーくぶるー』っていう響きが気にいった。」
別に気にいるとかそういう問題じゃなくて―― ってちょっと待て
今お姉さまの復唱した『色』という単語のイントネーションが何処となくおかしくなかったか?
はて。まさかここには『色』という言葉がない、とか?
あれこれ考えながら首を傾げていると、
「じゃ、アタシは? アタシがその『イロ』ってのだと、どんな響きになる??」
どんな色ってことだろうか?
このゴージャスな人のイメージカラーねぇ。
わくわくしながら私を見降ろしている美人顔を見上げる。
それにしてもホントにゴージャスだ。外国人の知人なぞ皆無な私は生ブロンドヘアって見たことないけど、あの長くウェーブの効いた金髪はかなり見事な部類に入るんじゃなかろうか
そういえば、最近のテレビのCMであんな感じの見事な金髪ヘアをみたなぁ。確かシャンプーかヘアカラーのCMだったような。
ボンキュッボンの金髪モデルさんがふわり髪を靡かせて振り向くと、ナレーションが『見事な輝きの――』――
「――シャイニング・ゴールド」
ボソリと私の口から零れた。
するとゴージャス姉さまは耳聡く拾い上げた。
「『しゃいんごーるど』? シャインゴールド、シャインゴールド・・ね。ん~~っ」
瞳を閉じて何度も繰り返す。何故かその表情は恍惚としているように見えるのは気のせい――
「いいわっ!すんごくいいじゃない~っ!」
パッと開いた瞳がこれ以上ないほど嬉々として輝く
「気にいった。アンタも気にいった!これからはアタシをシャインゴールドとお呼び! それでアンタ――ってなんだっけ?」
「え?ああ、晶子、です」
「そうアキコよアキコ、判った?アキコ」
「あ、はい、判りました・・――シャイン?」
なんか微妙にシャインと短縮されてたけど、気にいったならまぁいいか。
改めて名乗ってから新しい名前で呼び掛けてみる。すると更に嬉しそうなゴージャスお姉様――もとい、シャインがにっこりと微笑んだ。
「そこのアンタもよ!ダークなんちゃらっ!」
シャインったら存在を忘れてなかったのね・・
焚火の前の彼にビシッと指を差して指図する様を無表情で見返していた濃紺の双眸が、やがてゆっくりとこちらへも向く
「あの・・・」
恐る恐るながら勇気を出して訊ねてみる。
「ダークブルーと、お呼びしても――いいですか?」
ジッと私を見つめる濃紺の双眸。
何を言われるか緊張していると、ふと相手が目を伏せた。
「好きにすればいい――」
静かな低音が私の耳に届いた。その声音の穏やかさがとても嬉しくて
「ありがとう、ございます」
思わず私はそう言っていた。
彼もその意味の真意を測りかねたのか、再び私に視線を戻す。
「よろしくおねがいしますね――ダークさん」
嬉しさの気持ちをそのまま表情に載せて。初めて彼の『名』を呼ぶ
私にとってこの世界で初めて浮かべることが出来た心からの笑顔――それを見つめる濃紺の瞳が僅かに細まり
映りこんだ炎の光がほんの僅かに揺れた。
(続)
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