4-2
「いや暴れるつもりはなかったんですよ、いつも通りヒナさんががロイさん殴って終わるはずだったんですけどシグさんが夫婦喧嘩は犬も食わないなんて言い出すもんだから」
「中学生がよくやるやつだね」
「でも5年後くらいに本気で結婚してそうなのでおねーさんは怖いのです」
「そんなに仲いい?」
「いいですよ、上辺はあれですが」
バンから降りて駐車場を歩いている間にネアとそんな会話をして、ルカは明梨に注意を戻す。さっきから俯きっぱなしだ、そろそろ本気でどうにかした方がいい
ぞろぞろ階段を登って1階に上がり会議室へ。まず方向性を明確にしようと思い移動中にひとつ投石
「本当にあるかどうかもわからないモノのために振り回されるのはきついよね」
呟き加減に言ってみたが明梨の反応は早かった、変わらず俯いたまま首を横に振る
「パパが言ったんでしょ?なら信じるし諦めないわよ」
なるほど
「優しいですね本当に、私にゃそこまで気は回せません」
「薄々思ってたんだけど君ってそこそこ分厚い仮面かぶってるよね」
「んなもんかぶってねーですよ、ただ腹にどす黒いものを抱えてるだけで」
自覚はあるらしい
他の誰にも聞こえないような音量で会話しつつ廊下の角を曲がる、そこにあったトイレへウィルが入っていった
「というか、人の慰め方なんて結構簡単なんですよ。思ってもいない言葉でちまちま点数稼ぐなんてのは嫌いでしょうし、幸いルカさんは男性です」
「あーうん、そういうのは色々尾を引きそうだから」
会議室前に到着、ラッセがドアを開ける
「そこまでは言ってませんよ。彼女は今戦争とか家族の死とか使命感でガチガチに固まってる状態です、解いてあげるには、その優しさをほんの少しだけ行動で表せばいい」
最後にふふんと笑って内緒話終了、ネアは会議室に入っていく。息を短く吐き出して、一番最後にドアをくぐった
中には見知らぬ男女が1人ずつ、どちらも中国人ではなさそうだ。男性の方は黒のスーツをきっちり着込んだ硬そうな茶髪長身、そこそこ整った顔を無表情気味にまとめている様はまるでサラリーマン。女性はそれとは正反対に黒のシャツにチェニックを羽織って、下はデニムのショートパンツ、日本でよく見る服装である。髪は銀色のヘアカラーを施した長髪で、うなじあたりで二つに分けて縛っている。渋谷にいそうな格好だが国籍はまったく不明
「お待たせしました、お二方。こちらが例の部隊です、隊長はこちら」
「ああこれはどうも、ずいぶんお若い方なんですね」
まずラッセが言って、男性が日本系テンプレート文を駆使しつつ立ち上がった。ラファールと握手してから全員に向けお辞儀
「ロシア対外情報庁"SVR"より参りましたアレクセイ・バザロフという者です。主に情報支援で役立てると思いますので以後よろしくお願いします」
見事なテンプレートで自己紹介を決めて頂いた。SVRはソ連時代のKGBから任務を受け継いだ諜報機関で、ロシア国外での情報収集、工作活動を任務とする組織だ。その性質上機密となっている部分が多く実体は定かでないが、かなりの数のスパイを擁しているはず
「コードネーム、ミスター就活生」
「オーケーそれでいこう」
ヒナとシグが呟いた
「先日は軍が迷惑をかけたようで、司令部に代わり謝罪します。しかしモノがモノのために軍も焦っています、どうかご理解を頂きたい」
「あー、まぁそれについては今後一切手出ししないんなら不問にするわ、被害も出てないし」
と、それでひとまず話すべき事は話したらしい、一歩下がって女性の方にどうぞとジェスチャー。座りっぱなしだったのがわたわたと立ち上がってまず何を言うべきか思考、数秒待って口を開き
「私は……」
と
「悪い、トイレに紙流したら詰まった」
話し始めた瞬間にウィル登場、女性が口を止めた。というか固まった
「タイミング最悪、それから下品」
「いいだろこれくらいは、文化の違いを体験したって事で片付けろよ」
気にせずどうぞと女性に促しラファールの隣に落ち着いた、が、女性は固まったまま
「お……」
いや動いた
「お名前は!!?」
「おうおうおうおう!?」
まさに瞬間移動、気が付いたらウィルの正面まで達していた。目は燦燦と輝いているが視野は極限まで狭まっている様子、ウィル以外がまるで目に入っていない
「名前…?ドイツ国籍にはウォルトで登録されてっけど…」
「ウォルト様!ああもうなんていうかよくわかんないんだけどよくわからないからなに言えばいいかわからないというかとにかく率直に申し上げるならあなた様の顔とか体格とかそういうのひっくるめたすべてがどストライクでしてえーとえーとえーとそう例えるならロミオとジュリエットがエンダイヤしたような…」
「とりあえず落ち着け、何言ってるかまるでわからん」
早口でまくし立てるのをやめさせ数回深呼吸、さっきと同じように言う事を考えて、そこから先はただの一言
「携帯番号ください!」
簡潔だった
「どうすんの?」
「なぜ私に聞く?」
「え、お二人付き合ってるんですか!?」
「残念ながら彼女は男同士が絡み合ってるのにしか興味が持てない人種なんだ」
「脳天に風穴開けられたくなかったらそのネタはもうやめろ」
話している間にそれ以外のメンバーがざわめき出した、まるで父親の不倫が発覚した大家族のよう。だが話題の方向は完全に大喜利のネタ
「何この茶番…」
「落ち込んでる人間の気を逸らせるんなら十分意味はあるんじゃないかな」
「ぅ……」
明梨が言って、そう返すとすぐ俯いた。何もしていないがひとまず気は楽になった様子
「とりあえず、自己紹介頂けるかなお嬢さん」
「はい!アメリカCIA工作員シオンです!とてもつまらない理由により本名は明かせませんがこの件で支援を行うよう命令されていますのでどうかよろしく!」
「ああこっちこそよろしくな。でもそういう理由なら連絡先は俺よりこいつの方がいいな、じゃあ後頼む」
フった
それはもう流れるように見事な返答、身を翻すウィル、乾いた笑いを漏らすラファール、崩れ落ちるCIA工作員
「……何この茶番…」
また明梨が呟いた
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