人里潜入・中
――副題『学生服を着てほしい思春期の男』
少しずつ、主人公がはっちゃけていく。
とにかく淡々としていた地の文が崩壊していく。
黒い和服、腰には帯刀し、柄の部分に手を載せるようにして刀へと触れる。
それだけで皮膚の色が変わり、パチュリー様製のヘアカラーにより黒髪へと変貌した。
問いかけてみると一時間で作ってくるもんだから脳内で(パチュえもん……)と呼んでしまったのは永遠に心の中へ幽閉する。
もみあげは少し長いので、持ち上げると視界の端に見える黒に違和感を感じる。
前世は普通の黒髪だったのに、慣れきってしまったようだ。
そんな中、試しに来たのは博麗神社前。
石畳の通路の隅に落ち葉がつもり、秋が近づく気配を感じる。
鳥居を抜けて、俺はゆっくりと賽銭箱前へと近づく。
「――こんにちは、ご参拝の方でしょうか?」
片手に箒を持ちながら、奥から現れたのは見知った顔、博麗霊夢。
姉でもある彼女は、すでにかなりの付き合いになっているだろう。
だというのに彼女は聖をみて気づかなかった。
……これは絶対にバレない自身がでてきた。
「……ん?」
と、思ったら、霊夢は目を細めて参拝客を装っている聖を見る。
疑いを乗せて聖をじっとみつめると、ため息をついた。
「肌が変わって髪色も変わると誰かわからないわね」
「……さすが、霊夢姉さん」
「聖のことだから人里にいくためでしょう?よかったわね」
この姉は本当に人を見通しているな、と思いながら苦笑を返す。
そんな聖をみながら霊夢は、あと、と付け加え、聖は霊夢の次の言葉を待つ。
「もう姉さんはいいわ」
「……なんで?」
「免許皆伝ってことよ、母さんじゃないけど、母さんも反対はしないと思うわ」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「「だけど精進することは忘れるなとは言うだろうけどね」」
「……でしょ?」
霊夢の言葉を先読みしていってみる。
霊夢の、というよりは師匠の言葉なのだが。
「はぁ、昔から微妙に生意気だと思ったらさらに生意気になって」
腕を組んでこちらへとジト目を向ける。
そんな霊夢の様子に、ニヤリとしてやったりな表情をすると、霊夢は問答無用で大幣を聖の頭へと叩き込んだ。
「……すいません」
二人の上下関係はいつになってもかわることはないのだろう。
聖にとっても、霊夢にとってもこの関係は何となく心地よいものだった。
「人里にいったら母さんに顔を出すといいわ、あまり会ってないでしょう?」
「いや、結構飯食べにきてるけど」
「……」
「ちなみに記憶には美鈴師匠とタッグを組んで盛大にボコられた恐怖が刻まれてるけど?」
「……母さんらしいわね」
横を向いてため息を着く。
しかしすぐに調子を取り戻す、付き合いが長い分、振り回されるのも長い。
霊夢は人であろうとも妖怪であろうとも態度は変わらない、礼節を持って接する人には寛大だし、努力する人には優しい気持ちを持って接する、しかし不躾な態度には同等の態度を返す、そんな人だ。
しかし師匠は実直、壁があっても突き破る。
真面目さは突き抜けているが、性格も突き抜けている。
巫女として尊敬できるし、母親としての愛もある、しかし時たま振り回してくる――そんな母親が師匠だ。
霊夢が対応を図りかねている唯一の人間といってもいいだろう。
「しかし、人里は人口が少ないからバレる危険性もあるんじゃないの?」
「幻想入りしたということにはできないかなぁ?」
「そうなるとその格好は変えるといいわね、あと刀も変でしょうけど、――その刀の力で妖力を退けている、面倒なことになったわね」
ちなみに慧音母さんに拾われてから二日で慧音母さんに子供ができたという話しは広がったらしい。
まぁ体が弱いということでお引き取り願ったらしいが。
そうなると服装なら現代風にするべきだろうか、この格好流浪してる侍にしかみえない、時代錯誤もいいところである。
と言うか幻想郷そのものが外からみると時代錯誤だ。
「とりあえず、服をどうしようか」
アリスさんへとお願いするか、香霖堂であるか問うか。
とりあえず香霖堂まで全力でいって、無ければアリスさん。
刀はどうするか――。
「武家の出にすればいいのかな?」
「刀なんて使ったことないでしょう、体格は武家といっても変には思われないでしょうけど、刀を使うことになったら面倒よ」
ちょっと抜いてみなさい、と言われて腰に刺した刀を鞘から抜き、構えてみる。
霊夢は森の方へと近づくと、一本の細長い木の枝を持って帰ってきた。
「斬ってみなさい」
60㎝はあるだろうか、その木の枝を横に構えている。
気をつければ大丈夫だろうが、緊張してしまう。
思わず喉を鳴らすほどに。
刀を構える、剣術なんてよくわからないために、ぎこちないだろう、な
どと思っていたのだが、次の瞬間に木の枝は切った時の衝撃で横に飛ぶこともなく、そのまま下へと落下する。
石畳に木の枝の切れ端がぶつかり、乾いた音が響き渡った、
「……拳法より剣術の才能があるんじゃない?」
マジかコイツ、といった驚きの眼で見てくる霊夢と、それ以上に驚き思考が回っていない聖。
「剣聖」
ボソリと言ってみる。
「……」
何か反応してくれるとうれしい。
香霖堂に学生服は無かった。
軍服で良いかと聞かれたが、明治時代に逆行したのかと思える格好となったのでやめておくことにした。
そしてすぐにアリスさんの家へと飛んでいき、ドアをノックする。
ドアが開かれた、かと思うと、ドアの先にいたのは人形だった。
ジェスチャーで奥に行けと指示されたので、廊下の奥に向かい、右手のドアを開くと、アリスさんが針を駆使して人形を作り上げているところだった。
「あー……ご迷惑でした?」
「問題ないわ、九割終わってたから、一度休憩を入れておこうと思っていたところだし」
ここで学生服作ってくださいというのは迷惑ではなかろうか。
――とりあえずそれが終わった後に何か造らなければいけないものがあるかどうか、聞いてみることにする。
「えっと、それが終わったら何か作るつもりですか?」
「今後の予定はないけど……」
何か作ってほしいのかしら?と問いかけてくる。
こちらの要望を言い当てられ、違うという理由もないために、苦笑いを浮かべながら、「ええ、まぁ」と肯定した。
「……学生服?」
名称をいってみるが、首を傾げられる。
学生が着る服で、上はワイシャツ、下は黒い服で――と見た目を説明する、とはいえども学生服がどうかなんてそこまで覚えてはいない。
言えることは、黒くて、ベルトを通せて、左右と後ろにポケットがあって、材質はポリエスチル、だっただろうか。
その程度のものだ。
一通り説明し終えると、アリスさんは何か写真がないか、と聞いてきた。
写真、そう考えると大図書館にあるかもしれない。
幻想入りした書物――つまりは雑誌類なども置いてあるかもしれない。
「すぐに探してきます」
「えぇ、それまでにこっちも終わらせておくわ」
はい、そういって頭を下げた後に玄関から外に出て、飛び出していく。
――今日は移動が多い日だな。
そう思いながら風を切り、紅魔館へと直行する。
玄関からホールへと抜け、美鈴さんや咲夜さんにあいさつしながら大図書館へと到達する、紅茶を飲みながらやってきたパチュリーと本を整理している小悪魔が注目する。
「何度も申し訳ないのですが、パチュリー様、学生服の写真がのっている雑誌はありますかね?」
「あるわね――学生服を作るのかしら……つまりアリスに依頼する形になりそうね」
「えぇ、今作っている人形が終わったら予定はないようなので」
「へぇ……」
何やら興味のあるご様子。
――これはまさか!
「着たいんですか!」
「それはないわ」
「えっ」
……何がっかりしてるのよ、と呆れたような視線をこちらへと向ける。
何でがっかりしたのだろうかと、自分でもよくわからなかった。
おそらくは前世に対するホームシックのようなものなのだろう。
しかし今更考えると、女の子に学生服を来てほしい、というのは変態的なのではなかろうか。
「聖くん、はいこれ」
「あ、小悪魔さん、ありがとうございます」
持ってきた小悪魔さんに数冊の小冊子を手渡される。
古い高校の案内状のようだ、開いてみると、学校で様々な制服をみるこ
とができる。
「色々な種類があるんですね」
「まぁ、制服の良し悪しも入学してくる人の増減に関わるでしょうからね」
そんなものでしょうか、と小悪魔さんが不思議そうにしている。
「……着てみません?」
「まぁ興味はありますが――またの機会に、ですかね」
「そうですか……皆さん美人ですから、中々に見てみたかったですけど
ね」
結局のところ作るのはアリスさんなので、数を増やすということは負担
が増えてしまし、これでいいのだろう。
そう思いながら礼をして大図書館の出口から外へと出る。
今回のことでかなりの人数にお礼をしなければなぁと思いながら、アリス邸へと向かおうとして、足を止め、ある程度時間がたってからのほうがいいだろう、そう考えて咲夜さんのもとへと歩き出すことにする。
「……中々に未練が捨てられないのはダメだな、俺は――もう上白沢聖なんだから」
目頭を押さえながら、首を左右に振って前を向く。
前世の家族と言うものを忘れたことは無い、大切に思っている。
だけど俺は、今の俺の家族も大切なのだ。
それは比べることはできない、だからこそ俺は未練を持ってしまっている。
幻想郷の外に出れば、俺の家族に出会えるのだろうか。
俺が息子だと信じてもらえるのだろうか。
――とシリアスな事を考えているが、この悩みの中心は女の子に学生服を来てほしいという思考なのだ。
中々に死にたい。
その後アリスさんにパンフレットを渡した後採寸され、二日後にブレザーの学生服を渡された。
質感の良いシングルタイプのブレザーに袖を通し、腰に刀を差して手を置く。
「うん、かっこいいわね」
「ありがとうございます、とりあえず一通り反応を見て人里に向かってみます、それで……何か欲しいものはあるでしょうか、何かお礼をしたいんですけど」
「おもしろいものも作れたし、お礼なんていいわよ?それに――」
「それに?」
「女性用の物もかなり可愛かったから、作れてよかったし」
――なん、だと。
「もしかして作ったんですか?」
「え、えぇ、作っちゃダメだった?」
「着る機会はございますか」
思わず真剣な感じの声が出る。
しかしそんな声がでる理由は不純である。
「えっと、着てほしいの?」
「えぇ、学生服というものは外の世界でいう学校というもの、さらにこれは高校というものです、勉学の場、それも俺の年齢ならまもなく入学――とはいえども、ですがね、幻想郷に高校というものはありません、俺の母である慧音母さんが寺子屋というものを経営しておりますが高校ではないし、制服もないのです、縁が無い、しかし外の世界の同年代くらいの男女が普通に着ている、そう考えると羨ましいというか興味がありまして、見てみたいと思っているのが正直な感想です」
「そ、そうなの」
一息である。
かなり早口でまくしたてるように言うものだから、さすがのアリスも少し引き気味である。
だけど彼女は根はお人よしだ、
「じゃあ、次の作成が終わったら着てみようかしら」
その時の聖はアリスが目の前にいなければ、地に膝をつき、天を仰ぎ見てから握り締めた両こぶしを空に突き出していただろう。
お礼はしますから、そういって一礼をして去っていった彼を見届けた後、アリスは静まり返った部屋から外へと出て、学生服(女子)をハンガーでかけてある部屋にいき、クローゼットから取り出して眺める、
「ふふっ」
軽く笑った後に、思い立ったように学生服へと着替える。
数分もあれば学生服をきたアリス・マーガトロイドの完成だ。
――かわいいって言ってくれるかしら?
アリスにとっての聖という存在は、弟のようなものである。
しかし同時に彼女の近くにはいない男性でもある。
魔法使い、魔族、そんな彼女は人里で人形劇をしており、まだ親近感がある部類なのだが、あまり人が近づいては来ない。
近づいてきたとしても、すぐに離れてしまう存在だ。
女性である彼女は、男性の良い評価はとてもうれしい。
その場でくるりと回り、鏡に映る彼女の笑顔は眩しかった。
――反応は最初は驚かれたが上々、少なくとも遠目からはわからないようだ。
何故か途中で二人ほどの機嫌が悪くなる以外は何も起ることは無く、聖は田んぼの間のあぜ道を歩く。
目の前には人里へと続く門。
そこの門には門番がボォッと立っていた。
小走りで近づくと、スグに気が付いてこちらへと体を向けてくる。
「すいませーん」
「ん、おめぇここで見ないやつだな?」
「ここどこですか?気が付いたら此処にいたんですけど……ここ、東京ですよね?」
「ん、おぉ、なんだ、外来人か」
「いや、俺純粋な日本人ですけど」
「そういうことじゃねぇさ、ここで説明するよりも慧音さんのところで説明されたほうがいいだろう、しかし幸運だなおめぇさんは、妖怪に襲われずにここにくるなんて」
「妖怪?何言ってるんですか?」
「そういや外には妖怪がいないのか、まぁいい、とりあえずこの道を奥に言って――」
会話はスムーズ。
予想していた会話はほぼ的中、どもることなく言葉を続けている。
知っている道のりを頷きながら聞いて、笑顔で礼をする。
「ありがとうございました!」
「あぁ、無事に外にいけよ?」
「えー、んー、まだ良くわかりませんが、はい、そうすることにします」
「あ、そういや一つ聞きたいんだけどよ」
歩き出そうとして、一歩踏み出したところで呼び止められる。
思わぬ展開にビクリと肩を揺らして、笑顔で振り返る。
笑顔が造れているかどうかはよくわからないが。
「なんですか?」
「外で黒い肌の男の子みなかったか?名前は聖っていうんだ、あとは魔
理沙っていう金髪の女の子なんだが――」
ドクンと心臓が跳ね上がるのを感じる。
ごくりと唾を飲んで、息を強く吸って言葉を続ける。
「い、いえ、ですが、その男の子と女の子がどうかしたんですか?」
「平穏に生きてるかなぁってな、慧音さんも安心するし、霧雨店のおっちゃんの泣き上戸も収まると思うんだよ、風のうわさでは執事になったとか」
「へぇ、独り立ちですか、すごいですね」
「――平穏に生きてくれりゃあいいんだけどな」
――やばい、泣きそうだ。
既に涙目になっているのを隠すように振り返った顔を前に戻す。
「きっと、大丈夫ですよ」
「あぁ――すまねぇな、湿っぽい話しをしちまって、じゃあな!」
「はい!」
駆けだす。
向かう先は寺子屋、上白沢慧音宅。
俺の、元々住んでいた家だ。
「なんか最近、俺、おかしくなってません?」
「……は?」
「思春期の体のせいだと思うんですけど、テンションが上がりやすいというか……こう、なんていうんでしょう、ね、はっちゃけてるというか、その、最近藍さんに手を握られるとドキドキするし、咲夜さんの顔が近いとドキッてしますし、アリスさんの採寸の時もですし、大体近づかれると心臓が高鳴るんですよね」
「へぇ~」
ニヤニヤとした表情をした後、レミリアはスグに真顔になる。
一つ、疑問が現れたからである。
「……なんで私に聞いたの?」
「レミリア様にはドキドキしませんから」
その日、紅魔館の一室が爆発した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。