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WHITE EAGLE 作者:tamalazuki

ACT2 白鳥家の務め

「洸、新西暦167年に世界を救った白滝沙樹の話、知っている?」
「知っているも何も、有名過ぎて知らない人間探すほうが難しいんじゃないの?」
 悪態をつけつつも、白鳥洸は、白鳥汀と涼太の姉弟についていきながら、自分の右手にはめられた「NIGHT EAGLE」の能力伝承者の証である、歪なブレスレットを見つめていた。
「その白滝沙樹は、生涯結婚しなかった。彼女は、最後まで「再建促進部」に所属して、世界の為に尽くし続けた。その過程で、何人か養子をとって育て始めたのが、私達白鳥家の始まりよ。」
「それがどうかしたの? 結局、名前だけ残して消えた女の話でしょう?」
「まだ、もう少し話続くから、我慢して聞いてよ、洸。」
 涼太は洸に言うと、羨ましそうにそのブレスレットを眺める。
「良いなぁ、洸、格好いいよ、それ。」
「ふぅん、格好いいねぇ。私は恥ずかしいんだけど。」
「でも、僕があんな風に変身したら、もっと恥ずかしいよ。」
「それもそうね。」
「あの、話してもいいかしら?」
 汀は、気まずそうに言うと、洸と涼太を見る。洸は、何故汀が気まずそうに言ったのか分からないらしく、それに淡々と答える。
「ああ、良いわよ、話して。」
「それで、白鳥家は、代々必ず養子を引き取って育てる風習が産まれた。その慈愛の精神を忘れずに生きていくのを条件にしてね。以来、養子には代々白滝沙樹の慈愛の精神が説かれていた。」
「だから私は嫌になって出て行ったのよ。」
 洸はそう言うと、ブレスレットを左手で叩く。
「こんなご立派なブレスレットを与えられる権利も資格も、私には無い筈なんだけどね。」
「「論より証拠」、あなたのさっきの行動、実に見事だったわよ。凄かったわ。」
 汀の手放し絶賛を聞いても、洸の機嫌は治らなかった。
「まだ分からないわ、どうしてあなた達じゃなくて私なのか?」
「実を言うと、私もそれ、はめてみたんだけど、結局光らないのよね。その「力」が選んだのは、あなたみたいね。どうしてかしら?」
「気まぐれか、あるいは「実験」からじゃないの?」
「「実験」? 「始祖たる存在」は、もう350年前に実験を打ち切っているのよ?」
「それでも、過去に2度、手を出してきたじゃない。今回も、何かしらの「実験」なんじゃないの? あるいは、別の連中が手を出してきたか。」
「別の連中って、どんな連中?」
「違う次元からやってきた「人間」とか。」
 汀は、洸の思わぬ提案に、頭を捻る。
「そうね、次元転送技術を持っている、別の「次元」の「宇宙」に居る「人間」の仕業と言うのも、否定できないわね。」
「そんな事言ったら、色々と考えが広がって、纏まらないかもしれないけど。」
「でも、その可能性は低いわね。だって、次元転送技術なんて、「始祖たる存在」がそんな重要な技術を「人間」に渡すとは思えないわ。」
「だからさ、この「次元」の「宇宙」の「人間」じゃなくて、別の「人間」よ。」
「ねぇ、どういう事?」
 話についていけないのか、涼太は姉である汀の腕をひいて尋ねる。汀は、なるべく弟にも分かる言葉で言う。
「つまり、敵は「人間」かもしれないって事。でも、この「世界」の「人間」ではないかもしれない。」
「そうだよね、「新西暦大戦」の後は、みんな仲良くやっているからね。あれを経験した後で、また「人間」同士で争おうとは思わないよね。」
 そう話し合う姉弟を見ながら、洸は一瞬羨ましそうな表情を浮かべるも、汀と涼太にそれを見せる前に、表情を切り換えると、姉弟の住んでいる家に辿り着く。
「あら、私がいた頃とあんまり変わらないのね。」
「洸、何年前にここに来たの?」
「最初は施設暮らしだったけど、3歳の頃にここに預けられたらしいわ。」
「それじゃあ、今から大体11年前ね。私達は、ここへきて5年くらいだから、あなたの事知らなくても当たり前よ。」
「でも、白鳥家の一員だから、僕達、今日から家族みたいなものだと思ってくれてもいいよ?」
 涼太の何気ないが精いっぱいのおもてなしの一言に、洸は冷たい態度と声で答える。
「私には家族は居ない。今じゃあ、また施設暮らしよ。」
「その施設も抜け出して、1人でずっと毎日「駅」の敷地で未成年なのに飲酒・喫煙していたわけ?」
「なんか文句ある?」
 汀の売り言葉に、洸は買い言葉で答えるも、それを仲裁したのは、涼太の一言であった。
「これからは、お酒も煙草も駄目だよ。洸は「NIGHT EAGLE」の後継者なんだし、まだ14歳なんだから、本当は駄目なんだよ?」
「取り敢えず、あんたの前では飲まないし吸わないわ。五月蠅そうだからね。」
 洸はそう言って話を流すと、2人の家へとあがりこむと、その広々として、相変わらず清潔感に満ちた居間で寛ぐ。
「それじゃあ、私の居た施設への連絡と、私の支援組織の立ち上げ、色々と面倒そうだけど、宜しく頼むわね。」
「悪いけど、あなたの施設への連絡はするけど、支援組織は今回無しよ。」
「ハァ? どういう意味? 今まで「NEP」とか「人類防衛軍」とか「再建促進部」とか、色々と作ってきたじゃない。」
「今回は、そうはいかないの。多分、私の両親は、そうするつもりで動いていたんだろうけど、その途中で命を奪われた。だから、一番大切な「NIGHT EAGLE」の力の源であるブレスレットを私達に託したのよ。そうすれば、話の辻褄が合うわ。」
「辻褄が合うって言っても、そんなんで後々どうするのよ? 既に私は変身して、力を見せつけて、全世界にその存在を知られてしまったのよ? 全世界の「人間」が、私を担ぎ出そうとするでしょう。」
「でも、あなたに与えられた力が本物ならば、近々「敵」の方から「宣戦布告」してくるでしょうから、放っておいてもいいでしょう? それよりも、荷造りしなくちゃ。あなたの分の日用品は、あなたの施設から持ってこさせる? それとも自分で取りに行く?」
「いえ、新しく買い揃えさせて。もうあんな姿を見せて、今更施設に戻れないわ。施設の連中がどんな顔するのか、目に見えているわ。」
「そんなにお金無いから、あんまり贅沢しないでね。」
「服は別に拘りは無いから、ワックスとドライヤー、それにヘアカラーさえあればいいわ。このオールバックの髪型にセットするの、結構大変なの。」
「それ止めたら? 髪の毛に半端ないくらいダメージ与えているわよ?」
「あなた、私が長生きしたいと思っている「人間」に見える?」
 洸はそれだけ言うと、3Dテレビを起動させると、番組表を表示させる。
「あらあら、もう放送枠全部速報に変わっちゃっているわ。「新たな「NIGHT EAGLE」現る」「救世主誕生」、何処も彼処もオーバーな表現使っているわね。単なる不良が「NIGHT EAGLE」と知った時の連中の落胆ぶりが目に浮かぶわ。」
 とんでもないへそ曲りだわ。汀は口には出さずに、胸の中で呟きつつ、自分の分の荷造りをするべく自室へ向かう前に、シャワーを浴びた後の弟、涼太に言う。
「急いで準備して、洸の荷物は、途中で買い揃えるから。」
「でも、お姉ちゃん、そんなに僕達、お金持ってないよ。」
「あの性格から考えると、あの髪型作るワックスとドライヤーとヘアカラーさえあれば、後はどうでもいいって感じよ。言っておくけど、玩具は持っていけないわよ。」
「分かっているよ、何時かこの日が来るかもしれないって、ずっと教えられてきたんだもん。」
 その健気な弟の言葉に、汀は内心、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。涼太は12歳、遊びたい盛り、学びたい盛りの真っただ中にいる筈の子供に、これ程重たい試練を与えるのか。
「仕方ないか。」
 そう思いつつも、居間で寛ぐ洸の姿を見るに、その思いも挫けそうになる。
「でも、あのブレスレットが選んだと言う事は、本物よね。間違って選ばれたと言う事は、無いでしょうね。」
 半ば自分に言い聞かせつつも、汀は自分の部屋へ行き、自分の着替えや携帯端末を取り出し、着替えはバッグに、携帯端末は自分のズボンのポケットに仕舞う。
「もう戻ろうにも、元の日常には戻れない。汀、行くわよ。」
 自分で自分を奮い立たせつつ、汀は自分の部屋のドアを開ける。そこには、シャワーを浴びて、着替えも済ませて、荷造りも済ませた弟、涼太が立っていた。
「お姉ちゃん、僕達、また、この家に帰ってこられるかな?」
「多分、無理よ。下手な希望なんか、抱く物ではないわ。でも、誰かにとってかけがえのない家は守れるわ。私達は、その為にこの日を待ち続けたのよ。これも、白鳥家に引き取られた子供の、いえ、人間の務め。誰かの家を守るのよ。」
 そう言うと、汀は自らの未練をも断ち切らんと言う勢いで、弟の両肩に手を置く。
「さぁ、行きましょう。洸はどうしている?」
「あ、ええと、それが、その。」
 なかなか言い出し辛いと言う風にしている涼太の言葉を聞いて、汀はまさかと思い、近くの廊下を見ると、そこには居辛そうな表情を浮かべている洸が立っていた。
「あ、ええと、全部聞いてた?」
「バッチリ全部聞こえたわよ。なかなか良い演説だったわ。私もその演説の1%でもいいからやる気出れば良いんだけどね。」
「あのね、こう言う時はもう少し気をきかせてね。」
「いや、こう見えても、私なりに精いっぱい気をきかせたつもりよ。それじゃあ、近場のお店に行って、色々と買い揃えましょうか。特にワックスとドライヤー、それにヘアカラーは絶対必要だから。買ってくれなきゃ、一緒についていかないわよ。」
 そう言い放つと、洸はスタスタと廊下を歩いていく。
「ね、お姉ちゃん、早く行こうか。」
「あ、そう、ね。早く行きましょうか。ここへ居続けると、ここの人も戦いに巻き込まれるだろうし。」
 話していく内に、汀は本来の自分を取り戻すと、洸に続いて家から歩きだす。
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