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WHITE EAGLE 作者:tamalazuki

ACT10 「無血」戦法

 幸いとも言うべきか、当然とも言うべきか、白鳥洸と白鳥涼太、同姓ではあるが、血縁関係には無い2人は、別段「何も」する事なく、今では涙も一頻り流し終えた涼太は、洸と一緒に、2.5星程のホテルのベランダで、互いに夜空を見上げながら、普通の会話を交わしていた。
「洸は、どうして不良になんかなったの?」
「自分から好き好んでなったわけじゃなくて、気がつけばなっていたのよ。自分から不良になりたがってなる「人間」なんて居ないんじゃないの? 自分からそうなったなんて言うやつは、単なるナルシストの勘違い野郎ね。」
「どういう意味?」
「不良って格好いいものだと思っている連中の事よ。不良なんてね、格好よくなんか全然ないの。むしろ、なった後の事を考えると、これ以上無いくらい惨めよ。」
「だよね、青春の無駄遣いだもんね。」
「そうそう、それ良い表現ね。無駄遣いもいい所ね、本当に。たくさん友達と遊んで、それと勉強もして、色々としなくちゃいけない所を、それが嫌になって逃げ出した負け犬ですものね。途中でやめれば、「良い経験」とやらになるんでしょうけど。」
「それじゃあ、洸はもう「良い経験」になったんだね。」
「まだそう決めるのは早いわよ?」
「洸はまだ14歳だよ? 潮時じゃないかな。」
「まだやめる気にはなれないわねぇ、結構この身に染みついた習慣は、なかなか抜けないわね。」
 洸は立ちあがりながら言うと、涼太に尋ねられる。
「何処に行くの? もう寝るの?」
「いや、髪の毛セットしようと思って。」
「もう夜だよ?」
「夜襲を仕掛けた「馬鹿」も居るくらいだし、24時間臨戦態勢で待っていたいわ。私、基本髪型はオールバックって決めているの。」
「でも、今の髪型の方が、僕は好きかな?」
「こんなだらんと暖簾みたいに垂らした髪の毛の何処が良いのよ。大体、世の中の美女と呼ばれる連中はね、すっぴんになるとみんな規格統一品みたいに同じスタイルであり顔立ちなのよ? 何かしらメイクして「自分らしさ」を演出するのは、女の本能みたいなものよ。」
「男も同じだと思うけどな。」
「この問題に関して話はそんなにしたくないの、時間の無駄だから。と言う事で、暫く待っていて。」
 そう言うと、洸はホテルの一室の中を歩いて行くと、自分の荷物の中からワックス、ドライヤー、ヘアカラーを取り出して、洗面台の鏡の前に立つと、先ずヘアカラーで髪の毛を金髪にすると、ワックスで自分の髪の毛をオールバックに整えつつ、ドライヤーでこれを固める。その過程を見に来た涼太に、洸は話しかける。
「そんなにあのだらんと垂らした髪の毛が好みなの?」
「だって、洸らしいし。」
「お生憎様、あなたが泣いて縋って歯茎むいても、この髪型は譲らないわよ。この髪型にしないと、喧嘩の1つだって出来やしない。」
「洸、やった事あるの? 喧嘩。」
「嗜み程度に。」
「どんな喧嘩?」
「喧嘩なんてくだらないわよ、全部、例外なく。」
「洸ってさ、やっぱり、不良じゃない気がする。」
 自分の髪の毛と頭皮を痛めつけつつ、オールバックの髪型に整えた洸は、そう言う涼太に振り返りつつ尋ねる。
「こんな頭でも? 酒と煙草をやっていても?」
「だって、僕とお姉ちゃんと一緒になってからは、喧嘩もお酒も煙草もやっていないし。」
「今はもうそんな事出来る立ち位置じゃなくなっちゃったからね。それはそうと、このホテル、あと20分くらいで戦場になるわよ?」
 何気なく言われた重大な事実に、涼太は眉をビクッと跳ねさせる。
「え? どういう意味?」
「私と同じ「力」の持ち主が、「NIGHT EAGLE」が大量にこちらにやってきているのを感じるわ。それも、日本列島の、このホテルをピンポイントで狙ってきている。数は数え切れないわ、これまでにない規模の戦いになるでしょうね。」
「どうしてそんな大事な事を今になって言うのさ!?」
 焦って大声を出す涼太に、洸は単調な声で答える。
「気がついたのはついさっき、髪の毛セットしようとした時よ。あいつら、自分の「力」を抑えつけるのに慣れている。かなり手慣れた連中ね。」
 それを聞いて、涼太は身体を震わせる。この間、「NIGHT EAGLE」の能力者の女に捕まって、暴行された時の記憶が蘇ってきたのだ。その涼太の身体に、洸はずかずかと歩み寄ると、これを力強く抱きしめる。
「大丈夫よ、今度はあなたをさらわれる様な無様な真似はしないわ。全員、確実にぶっ倒す。嫌な呼び名だけど、「TRUE EAGLE」としての「力」、今こそ見せてあげるわ。」
 その身体を離そうとした正にその時である。ホテルの部屋に涼太の姉の汀と、ついこの間合流したばかりの「EAGLE KILLER」こと綾音輝が入ってくる。洸は、涼太を力強く抱きしめたまま、汀の引きつった顔を見る。
「あ、いや、その、これは。」
「つ、続き邪魔する様で悪いけど、「敵」が来ているらしいわよ。」
「続きって何よ。そんなつもり、無いんだってば。単に、慰めようとしただけで。」
 最後の方の表現が宜しくなかったのか、汀は余計頭にきたらしく、こう言い残して、部屋を出る。
「輝、後は宜しく。」
 後には、気まずい雰囲気に放り込まれた2人と、安心した表情を浮かべつつ立ち尽くした涼太が残される。
「あなた、案外隅に置けないわね。」
「あんたまでそんな事言うの?」
「良いから、もう身体離しなさい。涼太の表情を見れば、どういうつもりで抱きしめていたのか、分かるわ。」
 輝に言われて、ようやく身体を離した洸であるが、まだ彼女は納得していない様子である。
「こんな形で疑われるのは不服だわ。」
「そんな事はどうでもいいから、取り敢えず目の前に迫った脅威をどうにかしましょう。私とて、あれだけの数の「NIGHT EAGLE」を相手にするのは初めてよ。」
「「NIGHT EAGLE」と戦うコツは、私もこの間掴んだわ。でも、このコツは「敵」もすぐに呑み込むでしょうから、その後は文字通りの格闘戦になるわよ。」
「その戦うコツ、「EAGLE KILLER」として知っておきたいわ。どんな物?」
「この間もやって見せた通りよ、見えない距離からの攻撃で、敵の半数とまではいかなくても、3分の1程度は減らせる。残った連中は、すぐに対策を思いついて、私達に近づいてくるだろうけど、どうにかこの建物からは引き離した所で戦って、ケリをつける。私としては、100点満点中56点な作戦だけど。」
「76点は献上したいわね、その作戦。これで2度目である事を考えると、それだけの作戦案を殆ど一瞬で考え付くなんて、あなた、天賦の才があるのね。」
「迷惑な才能だけどね。」
 2人はそこまで会話をすると、お互いに「力」の源であり証明である、右手の歪であるが、鳥型のブレスレットを前に掲げると、叫ぶ。
「変身!」
『SYSTEM WAKE UP』
 ブレスレットが返事をすると、2人の姿は350年前より変わらぬ「NIGHT EAGLE」の姿、ヒラヒラのレースが大量についたドレスとスパッツの格好となる。
「と言う訳で、私は遠くから敵のブレスレットを破壊して、「力」を奪うから、あなたは何らかの方法で、「敵」を殺さない様にして再起不能にして。」
「そんな都合のいい戦い方、私は知らないわ。」
「いいえ、どうしたらいいのか、もう知っている筈よ。これ以上話す暇は無いわ、接近された後の作戦は立ててないから、ぶっつけ本番で宜しく。」
 それだけ言うと、洸は自分の身体をホテルの外へと転送させる。後には、「変身」した輝と、「安心出来る」存在を無くして、少し挙動不審な状態に陥っている涼太が残されるも、輝は涼太に告げる。
「洸はあの性格からして、嘘はつかないし、つけないわ。」
「でも、殺さないで済ませるなんて、輝さんの能力でも出来るの?」
「やろうと思えば、出来るかもしれないわね。但し、私が連中を見て、尚も「人間」としての「心」を残し続ける事が出来たらの話よ。でも、それが分かっていない洸とは思えないわ。」
「輝さん、どうするつもり?」
「言葉にすれば簡単だけど、実際にやってみると、技術力が問われる事をやるわ。連中の「力」の源となっているブレスレットと身体の接続を狙って、「これのみ」を「ソード・フィンガー」でもって断ち切る。それしかないわね。一歩間違えれば、腕ごと切断して、相手を殺す事になる。」
「僕、大丈夫だから、輝さんは輝さんのしたい様にすれば良いし。」
「ところが、もうそんな事言える立場でも無いのよね、私も。あなた達と行動を共にすると決めたその時から、あなた達の面目を潰さない様に戦わないといけないのよ。そんな事ないって、あなたは言うだろうし、今言いたい気持ちなんだろうけど、世の中ってそう言う物なのよ。」
 そう答えている半ば辺りで、ホテルの屋上から、無数の凝縮された「電撃」や「冷気」が次々と放たれている音が聞こえてくる。
「さぁ、話はここまでにしないとね。外に居る汀には、今の状況は伝えてあるから、あなた達はなるべくこのホテルから離れない様にして、そうじゃないと、守る側としては不便だしややこしいわ。」
 そう言うと、輝もその身体を洸の居る屋上へと転送させる。そこには、ただひたすら「冷気」と「電撃」を、「弓」と「銃」でもって撃ち放っている洸がいた。そのまま暫く撃ち放っていたが、1分程してその手を止める。
「もう駄目ね、近づきすぎているし、敵はでたらめな方向に飛んで、こっちの邪魔をするわ。」
「回避運動を取り始めたのね。なら、仕方ないわ。私は私のやり方で、どうにかしてみるわ。」
「一滴の血も流さないでね、その辺宜しく。」
「宜しくって、気軽に言うのね。あんまり気軽にそう言う表現を使うのはよくないわよ。」
「それじゃあ、言い方を変えるわ。なるべく努力して、お願い。」
 それだけ言い残すと、もう目に見え始めた「敵」の大軍へと、洸は飛んで行く。
「見上げた根性ね。」
 輝はそう言うと、自分の頭の中で、自分なりに考えた「無血」戦法をイメージし直す。
「自分でも言っている程、難しい方法でも無いのよね、これ。」
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