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猫と金髪 作者:中村真央

10

 クリスマス・イブ。
 結局原田は坂本の代わりにバイトに入ることになってしまった。
 昨日いたスタッフも数人休むことになっているらしく、猫の手も借りたいほどで他にもヒマな知り合いがいたら連れてきてくれと頼まれた。
 プラス、無理に強制はしないが、原田の頭が黒すぎるので少しばかり色をつけたり抜いたりということを考えてもらえるかな?と、試しに洗えば落ちるタイプのヘアカラースプレーを持たされた。
 使うかよ。
 と、原田は袋から出してもいない。

 坂本は相変わらず携帯の電源を入れていないため連絡が取れない。
 ただもう坂本のことは当てにしていないので、電話もしていない。
 クリスマスイブでも講義はあるので昨夜部屋に戻って少し寝て、午前中は大学に行き昼過ぎに部屋に戻る。
 思い返すと昨日の夜からきちんとした食事を取っていない。
 空腹を感じたので味噌汁を作りながら冷凍してあるご飯をレンジで温め、ハムと卵を焼いてレタスを千切り、ブロッコリーを湯でてそのお湯でトマトの皮を湯剥きした。

 何度か携帯が鳴ったが無視した。

 出来上がったのでラジオをつけに寝室に戻ると、ベランダの窓に坂本が張り付いていた。
 片手に携帯を持ち片手で原田の携帯を指差して何かを叫んでいた。
 ここの窓はなぜか密閉度が高く、外の音があまり聞こえない。
 坂本もよく知っているのだろう。
 外で叫ぶよりも携帯で呼び出す方が確実だと思ったのだろうが、原田が携帯を無視していた。


 やっと開けられた窓から部屋に入れてもらい、半泣きで坂本が訴えた。
「連日すみません。またしてもピンチです。予定外の彼女が今外に来ていて」
「居留守使えばいいじゃないですか」
「もうすぐ予定の彼女が来るんです!」
「諦めたらどうです」
「俺が諦めても彼女たちが諦めない」
「は?」
「鉢合わせになる・・・」
「しょうがないじゃないですか」
「しょうがない?」

 坂本が原田を睨んだ。
 自分がどんな苦労をしているか、お前のような男にわかるもんか、と言わんばかりの視線をまともに受けても原田はあっさり続けた。

「自業自得じゃないですか。俺も迷惑を蒙ってます」

 坂本は沈黙した。
 まさにその通りだからだ。そして俯いた。

「いっそのこと、そこで全員鉢合わせした挙句取っ組み合いでもすれば、全部終了するでしょう」

 確かに自業自得だし迷惑もかけているけど、それはあんまりじゃないですか、と坂本は一層肩を落とした。

「警察沙汰です」

 坂本は息を止めた。
 そして原田を見上げた。
 原田は台所のテーブルを見ていた。


 鬱陶しいので嫌がらせに嫌味を言い続けたが、いつまでも居座られるのも面倒だしご飯が冷めるので原田が提案した。
「多分昨日会っている客ですよね?俺が言って帰ってもらえばいいんでしょ?」
 坂本ももちろんそのつもりだったし、原田も最初から気付いていたが、純粋に嫌がらせで時間を食ってしまった。
「わかりました。言ってきます。あなたも部屋に戻ってください」
「窓から?彼女が帰ったら玄関から入るよ」
「またドアガードかけてるんじゃないんですか?」
「大丈夫!」
「なら合鍵持ってたらもう入られてますよ」
 ひ・・・と坂本が息を飲んだ。
「ただドアガードかけてあるなら留守じゃないってバレてます」
 坂本は絶句したまま、硬直した。

 また時間を食うので嫌がらせは切り上げた。
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