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スポットライトに照らされて 作者:霜月透子

第四幕

第十三場 ここにいるよ(前編)

 幕が開くと、上手奥にドアがあるだけの空間。
 人のざわめきが聞こえる。時おり、笑い声や、驚いたように叫ぶ声。そしてビニールシートか模造紙を広げるような音がバサッと聞こえる。釘を打つ音、なにかを落とす音。

 重い鉄のドアが開く音がして、セットのドアから私が登場。

「……っだりぃ~」

 首を右に傾けて左の耳の下あたりをボリボリと掻く。
髪の毛は洗えば落ちるヘアカラーで明るい栗色に染めてある。メイクもばっちり。制服のブレザーは前ボタンは全て外し、ネクタイを結ばずに首から下げている。スカートはウエストで何度も折り返したミニ。上履きのかかとを踏み潰して履いている。

「文化祭の準備なんかやってられっかよ」

 足を広げて床に直に座る。ちなみに、ちゃんとスパッツ履いているからご安心を。
 ブレザーのポケットから煙草の箱を取り出してトンッと指で弾いて1本取り出す。スリムのメンソール。でももちろん火はつけずにただ咥える。もちろん本物じゃなくて、それらしく紙を巻いただけのもの。未成年は吸ってはいけません。
 後ろに両手をついて空を見上げる。ピーヒョロロとトンビの声。頭上を旋回しているらしい。
煙草を歯に挟んで上下にピコピコ動かす。文化祭の準備に居場所がなくて、屋上にサボりにきたものの、暇を持て余す。

「……居てもしょうがないし、帰っちゃうかな」

 ヨッと立ち上がって、伸びをする。そのままドアノブに手をかけたところで――バッサーと大きな羽ばたき。スポットライトの前をペンを通過させ、トンビが低空飛行した影のように見せる。

「うわっ!」

 接触しそうになったトンビをよけてしゃがみ込む。
 トンビの声は再び小さくなり、上空を飛んでいる。

「マジむかつく。ビビらせんじゃねーよ!」
 空に向かって毒づく。そして客席に背を向け、改めてドアに向かうが……。

「ん?」

 ――間――

「んんー?」

 ――間――

「だぁーーーーーーっ!」

 くるりと客席側に振り向き、右手を高く掲げる。視線は右手の先。20㎝ほどの棒状の金属を握っている。がに股で仁王立ちし、思いっきり不細工な顔で叫ぶ姿に、客席からクスクスと忍び笑いが漏れる。

「うそでしょ? ちょっと、やめてよね~」
 再びドアに駆け寄り、立ったり座ったりしながらドアを開けようとする。が、開かない。
 情けない表情で、大きなため息をひとつつくと、右手の棒に目をやる。続いてドアノブ――のあった場所を見る。穴があいている。ドアノブはない。

 だって、私が手に持っているから。

「トンビがビビらせるからだぁー!……ってか、それにしても簡単に取れすぎだろ! オトナたち、ちゃんと点検しとけよ!……って、誰もいねーし!」

 ひとしきり悪態をついて、がっくりと舞台中央に大の字に転がる。


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