再びクリスマス
ドアを開けるとカウンターに、小野寺善行と谷垣が並んで座っていた。
エンタメが言った。
「ダンナ、なかなかシブイ店、知ってるな。焼酎は置いてるかい?」
すかさずマスターが答える。
「いいのがありますとも」
バーテンのロリ山田が言った。
「あ、やっぱり二人並んでいても信じられない! 江守さん、こんな美人と、どこで知り合ったの?」
aタイプはとびっきりの笑顔を見せる。
善行が立ち上がって言った。
「あ、エータイプさんだったよね。お嬢さん、昼間はどーも。友和、みんなでこっち来て座れよ」
「へえ? エータイプさんって言うの? 髪の毛、綺麗に染まってますね。完璧なピンクだね」
と谷垣も思わず立ち上がる。
「あら、aタイプでいいのよ。それに、これは元々の色よ」
とaタイプ。
「ゆうべは、確か、黒髪でしたよね」
とロリ山田。
「あのヘアカラーはアンタレスで買ったの。最近一番のお気に入りよ」
とaタイプが答える。
マスターは焼酎のお湯割りのお湯を沸かしながら、小声でぶつぶつ言っている。
「そりゃ少々(オツムは)弱いかもな? だけどこんなに可愛い娘が、江守友和だって? そんな馬鹿な! 絶対おかしいよ……」
aタイプが「ジャック・ルビー」に初めて現れたのが、ショー・パブ(ゲイバー)「パンプキン・クイ~ン」で宇宙蛭退治をしたクリスマス・イブの夜なのだ。
そして翌日のクリスマスの日中はパブ喫茶「ロマーノ」へ行き、善行にたっぷりaタイプを見せびらかしてやった後で、買い物三昧をして、夜になってから子ノ渡文化会館へ行って、宇宙蛭と一大決戦を繰り広げたのである。
現在のこの時間は、大決戦の直後の時間なのだ。
つまり、クリスマスの真夜中って事だ。
ロリ山田が言った。
「そうだ、夕方、千鶴ママからクリスマスケーキの差し入れがあったんだ。aタイプさん食べて下さいよ」
「わーいケーキ!」
甘いものが底抜けに好きなaタイプである。
マスターがシャンペンを抜いた。
「乾杯!」
「来年もよろしくな」
「メリークリスマス」
aタイプが上着を脱ごうとしている。
「わ! aタイプ、わざわざ脱がなくたっていいからな」
「でも、上着のままじゃ、皆さんに失礼じゃない?」
とaタイプ。
悩ましい首筋から胸元、二の腕から脇の下にかけてが露わになった。
この一瞬、男どもの目が釘付けになった。
「ふん!」
と善行の鼻息の音が響く。
「ゴックン!」
これは谷垣が、生唾を飲み込んだ音だ。
友和はaタイプの正面に飛びつき、銀色ジャケットの前を閉じ合わせながら言った。
「あわわ。失礼じゃない。失礼じゃないから!」
全員、目が点になっている。
aタイプが言った。
「そお? じゃ、……お星様のように毎日綺麗なaタイプクローンに、苦労なし!」
オヤジの駄じゃれのような気がしないでもないが、これはaタイプクローンの、乾杯の音頭なのだ。
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