最強への幕開け
完全に趣味の世界で作り上げた作品です
駄文、誤字等があるとは思いますが生暖かい目で見てやってください
M県S市、大型ビルや巨大なアーケード街とショッピングセンターを抜けた先の閑静な住宅地に、一台の軽トラックが低速度で走ってきた。運転しているのは今時珍しい剃り込み入りの小さなリーゼント頭に咥えタバコの中年男性だ。カーステレオから流れる聞き飽きた落語の小噺を聞きながら紫煙を吐き出すと、もう目的地に着いた事に気が付いてゆっくりとブレーキを踏んだ。
そこは二階建ての一軒家だった。ただし一階部分は住居ではなく簡易な露店ができるくらいの開けた空間で、そこにはすでに運び込まれていた棚がいくつか並んでいる。
男性は建物脇の駐車スペースに軽トラックをゆっくり流し込むと、車から降りて建物の正面で仁王立ちし、うれしそうに微笑みながらうんうんと頷いた。
ヴィィィィィィン・・・ピッピーー!
そこへ聞きなれたエンジン音とクラクションが響き、その方向へ視線を向けると正面から一台の青い原付バイクが走ってきた。バイクは男性のすぐそばまで近づくとエンジンを止め、長い脚を窮屈そうに持ち上げながらバイクから降りた。
ヘルメットを脱いだ先に現れたのはこの男性とは異なる青年の顔だった。
ミディアムショートを無造作にキメた黒髪、細めの顔立ちにタレ気味の三白眼、体の線は細いが服の下にはガッシリと鍛えられた筋肉が詰まった人気の細マッチョ体型。そして異質なのは彼が身に着けているその服・・・ヘソより高い位置で裾がちょん切られた改造学生服「短ラン」、ベルトにつなげられたウォレットチェーン、そして標準より気持ちゆったりした学生ズボン。
一目で彼が学生であることがハッキリわかる中、一目で「不良」だとわかってしまう服装を彼は着こなしていた。
「おう親父、ここか?」
「そう、今日からここが俺達の新しい家だ」
彼の名は「工藤 伊織」、男性の名は「工藤 治」。今日この街に引っ越してきた二人だけの親子だ。以前まではこのM県の片田舎で小さな酒屋を経営していたのだが、仕事が軌道に乗り売り上げが伸び始めたころ治の知り合いから都心に店を移してみないかと誘われ、今に至っている。今日からこの家の、一階のスペースで新しく酒屋を経営しようというのだ。
車で10分もかからない先に大きなショッピングモールもある中、こんな住宅地で酒屋を開こうなどどうかしてるとは最初伊織も思ったが、彼には兼ねてより抱いていた野望成就のためにここへ移り住むのは都合がよかったため、引っ越しに賛成した。
「さてと・・・俺は店の開店の準備をするか。伊織、お前は自分の部屋だけ片付けとけ。荷物はもう全部届いてるはずだ」
「あいよ、それ終わったら何かすっことあるか?」
「じゃあその辺ぶらっと歩いてこい、どっかで近所の人に配るお菓子でも買ってきてくれ。挨拶回りはしといてやるよ」
「あいほらさっさ。ほんじゃさっさと始めっか」
その後一時間程かけて伊織は自分の部屋の整理と掃除を終わらせると、治から預かった福沢諭吉一人と小遣いに三千円を財布に納め、新居を後にした。
片手に街の地図を握りしめながら伊織は街の中を歩き回った。親父から貰ったこの地図には細かいことが書きすぎているので、自分の頭でも理解できるよう大雑把に分けると、「駅前広場」「アーケード街」「住宅街」「公園」「河川敷」の六つに区分けした。そして自分の家とこれから通う自分の学校に赤ペンで丸印を書き加え、これで完成だ。
そして今歩いているここは住宅街。近いとは言え家から買い物をするためにアーケード街まで歩くのは億劫に感じる程の距離がある。まだしばらくかかりそうで伊織は両手をポケットに突っ込み、猫背の姿勢で歩いていた。
「あぁ、以外と遠いなぁ・・・かったりぃ」
欠伸も交えながらなにを買おうか考えつつ歩いていると、脇道の奥に鳥居があるのが見えた。どうやらこの先に神社があるらしい。
それに気がついていい事を思いついた伊織は足早になり、早速境内に上がり込んで本堂の正面…この小さな賽銭箱の前で立ち止まった。
ケラケラ笑いながら財布を取り出した伊織は、この賽銭箱に何円入れてやろうか考える。やはりここは十円か?いやこれから願うことはデカイ事なんだ、思い切って五百円くらい…いや待て待て待て流石に入れ過ぎか?ここは百円位で勘弁して…何て考えながら財布の口を開いた途端、絶句した。あろうことか財布の中には小遣いの三千円と、五百円玉一枚と十円玉が三枚しか入っていなかった。
流石に三十円ではダメだろうし、千円など論外。ならば残された選択肢は一つのみ…そっと五百円玉を摘まむと、本当にこんなに入れて良いものかどうか葛藤してしまう。季節は春、彼は暑くもないのに全身が謎の汗でビッショリになってしまっていまた。
「あぁもう畜生…もうコレでいい‼︎」
伊織はヤケクソになって握りし締めた五百円玉を賽銭箱に放り投げてしまった。正しいお参りの作法など知らないので、そのまま勢いに任せて鈴を乱暴にならした後力強く両手を合わせて願いを告げるのだった。
そして一言
「…叶えてくんなかったら俺の五百円返してもらうかんな」
そこは流石の不良らしい一言だったとさ。そこへ…
「オイテメェ!そこで勝手に何やってんだ?」
「…あ?」
伊織が振り返ると、そこには境内に上がり込んでくる三人の学生がいた。各々リーゼントでキメたりピアスやらヘアカラーやらで彩られた典型的ヤンキー、不良トリオだった。
「この神社は俺達のタマリ場だ。余所者が勝手に土足で踏み荒らしてんじゃねえよ!」
「見ねえツラだなお前、この辺りの学校じゃねえな?」
「俺達銀蠅トリオの縄張り荒らしてタダで帰れると思うんじゃねえぞゴラ!!」
ドイツもこいつも口に出したのは典型的、古典的な不良の脅し文句ばかりだった。しかしだからこそ伊織は嬉しくて仕方ない、むしろこう言うのを求めていたので向こうから出向いてくれるのは好都合でしかないのだ。
「死たくなかったら財布置いて消えろカス野郎!」
「…ひとつ聞きてえんだけどよ?」
伊織はこの銀蠅トリオを名乗る連中の言葉を無視して自分の質問を投げかけた。
「この街にはお前等みてぇな連中がうようよ居るのか?」
「耳にカスでも溜まってんのか⁉︎有り金全部出せって言ってんだろ‼︎」
「あんま舐めた口聞いてるとぶち殺すそ‼︎」
「聞いてんのはこっちなんだよ、サッサと答えろたのきんトリオ」
「銀蠅トリオじゃボケェ‼︎」
とうとうキレてしまったリーゼントが伊織の顔面目掛けて右ストレートをお見舞いしようと拳を振り抜いた。
しかし伊織はそのパンチを何の事もなく左手だけで受け止めて見せた。拳を掴まれてギョッとするリーゼントに対し、伊織は万力の様に握力を上げて拳を握り潰し始めた。
予想以上の握力とその痛みに耐えかねたリーゼントが悲鳴を上げて振り解こうと暴れるが、暴れれば暴れる程拳に掛かる力は増すばかりだった。
そして伊織は拳を握り潰したまま一気にリーゼントを引っ張り自分のそばまで寄せると、今度はその勢いを利用してカウンター君に顔面へ頭突きを食らわせた。モロに頭突きを受けたリーゼントは鼻が潰れ鼻血を噴き出し、白目を向いてそのまま石畳の上にノックダウンしてしまった。
「はーい一丁上がり」
「ヒロポン‼︎やりやがったなテメェ!」
リーゼント(ヒロポン)が返り討ちにされた動揺を湧き上がる怒りで誤魔化し、今度はピアスが襲いかかって来た。左フックをバックステップで軽快に避けると右、左、蹴りと単調なコンボを軽くガード。
思う様に攻撃の当たらない事が癇に障ったのか、ピアスは息を荒らげながらジャンプした。振りかぶったその体制は高い位置からゲンコツを振り下ろす様なのだが、これがヒットすることは無かった。即座に伊織は体を半転させや一閃、持ち前の長い右足を槍の様に突き出すとその踵がピアスの顎にヒットした。
その衝撃は強く、ピアスは10m近く蹴り飛ばされ、最後は鳥居に背中からぶつかり気を失ってしまうのだった。
「…はい二丁上がり」
まだまだ余裕タップリの伊織に比べ、残された最後のヘアカラーはタダ呆然と立ち尽くしガクガクと震えを起こしていた。勝手にビビってしまった事に小さく溜め息をつくと、伊織はそのままヘアカラーの掴み、片腕だけで持ち上げてしまった。
「ヒイイイイイイ!やめてくれ、殺さないで‼︎助けてヒロポン、助けてしまぶー!!」
「うっせーっての」
とりあえず少し黙らせる為に二〜三発殴ると、すっかりヘアカラーは大人しくなってしまった。
「は〜いノックしてもしも〜し?黙ってオレの質問に答えやがれ」
「…うっす」
「この辺りの学校にはお前等みてぇな連中がうようよ居るのか?不良とかツッパリとかヤンキーとか」
「うっす、結構います。俺達の通ってる「煌團高校」と、電車で行った先に「英秀学園」と「晴学館高校」の3つがあります」
「他には?」
「近隣の学校で俺等みたいなのが居るのはこれだけです。他は皆普通の学校ばかりです」
三校だけか…少し物足りない気もするが、初めのうちはそれぐらいでいいか。地盤固めと思えば丁度いいだろう。
「お、おいあんた…そんな事聞いてどうするつもりなんだ?いや、つもりなんですか?」
「あん?決まってんじゃんよ♪」
伊織はヘアカラーの質問に対し口角を釣り上げながら怪しく笑むと、パッと手を離してヘアカラーを石畳に落とした。尻餅をついて痛がる様子を他所に、伊織は人差し指を突き出すと、お天道様へまっすぐに向けて宣言した。
「男子たる者強くあれ、求めらば頂点を目指せ。オレはな、頂上を目指してるんだ。喧嘩でこの街で一番になる。いずれ県の頂上にも立つ、最強の男にオレはなるんだ‼︎」
それはまるで子供のような馬鹿げた夢だった。しかし伊織のタレ目には一点の曇りも無い。伊織の野望、それこそが「喧嘩で頂上に立つ」事。さっき神様にお祈りしたのも、その野望の達成祈願だ。
そんな馬鹿げた夢を聞かされたヘアカラーは開いた口が塞がらずただひたすらポカンとした表情で伊織を見上げている。そしてつい思ったことをポロリと口に出してしまう。
「………お前バカか?」
「呼びたきゃ呼びな、バカも極めりゃ頂上よ!それともう一つ、お前煌團高校の生徒なんだよな?」
「それが…どうしたんだよ?」
「オレ編入生でよ、明後日からオレが通うのも煌團なんだわ。よろしく頼むぜ?」
「え…ちょ…ええええええええええええ!!??」
ダブルショックだった。どこの誰とも知らない輩が仲間2人をノして最強を目指すことを宣言、そしてそんなバカが自分の通ってる学校に来る。ヘアカラーは取り敢えず叫ばずにはいられなくなり出せるだけの声量で素っ頓狂な声を上げた。
「そんでもってこれはオレからの宣戦布告兼ご挨拶って所だ、遠慮無く受け取れや」
そう言いながら伊織はゆっくりと腰を下ろし、下半身に渾身の力と気合を溜め始める。今まで見せなかった行動に戸惑い動けなかったヘアカラー。
両の足に気合がフル充填された瞬間、その場で立ち幅跳びのように跳び上がった。空中で足を揃えて膝を折り、両の足の裏がヘアカラーの顔面に重なった瞬間…
バゴオオオオオオン!!!!!
下半身のバネが一気に解放され、ドロップキックにも似たキックが炸裂し、ヘアカラーはその桁外れな破壊力で吹き飛ばされてしまった。鳥居を越え、その先の道路の上を二転三転すると電柱にぶつかってようやく停止出来た。ヘアカラーの鼻は潰れ、前歯が三本抜け落ち、顔面がひしゃげて気絶してしまっている。辛うじて生きているのが伊織の優しさだ。
当の伊織は蹴り飛ばした反動で空中をイルカの様に一回転すると、何のことも無く石畳に着地した。
足についた埃を軽く払い今日の戦績(銀蠅トリオ)を見下ろすと、伊織は不敵な笑みを浮かべるのだった。
「気合いれてかかって来なよ、オレは頂上取るまで簡単には死なねえぜ」
翌日、ここは明日から伊織が通う県立煌團高校。一般的な学生が通う中、血の気の多い不良共が数十人校内にうろついている学生だ。
その内の一学年二組の教室、朝のホームルームを前に登校して来た生徒に混じり、異色を放つ輩が一人。首に竜の模様のあしらわれたチョーカー、左手にはクロムハーツのブレスレット。前ボタンを閉めない学ランの中は桜色の和柄Tシャツ、茶髪の尖ったツンツン頭。彼は朝飯にコンビニで買い漁ったカレーパンを貪りながら傍に立つ2人の話を聞いていた。
「ふーん、そんでお前らボコボコにされたってことか?」
「うっす…申し訳ねぇっす」
「舐めてかかったのもありやすけど、あいつメチャンコ強くて」
顔に絆創膏や湿布を貼って報告しているのは、昨日伊織に瞬殺された銀蠅トリオの内の2人(ヒロポン、しまぶー)だった。
「で、久米田の奴もやられた、と?」
「へい、俺達が気がついた時には野郎はもういなくて、代わりにクメちゃんがやられてて」
「しかも俺等より怪我が酷くて、念のためにって今日は病院に行ってやす」
2人の話を頭の中で少し整理しながら、残ったカレーパンを牛乳と一緒に流し込むと、彼の瞳が強くて燃え上がった。
「面白いじゃねえか!そいつが明日からここに来るんだろ?久し振りに本気の喧嘩が出来そうじゃねえか!!」
「真島さん、どうか俺等の仇を討ってください!」
「任せとけ…燃えて来たぞ!!」
彼の名は「真島 春夏」。煌團高校一年生二組の番長に当たる人物だ。
NEXT FIGHT 真島春夏
備考 工藤伊織
超必殺技《孤月砕蹴》→宙返りドロップキック
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