ブルーマンデー
車から出て職場までの5分間毎回昨日のように服を売れるか自問自答する。たまたま人が良かっただけか喋るのが流暢だったのか。昨日の私が私でない錯覚に陥るのだ。
考えがまとまらぬ内にいつもの職場。店内にはスワロフスキーやスタッズが散りばめられた新作のワンピースの他に冬なかなか売れなかったレザーが静かに買い手を待っている。モップで床の埃をかき集めながらふと鏡に映る自分を見た。
老け顔で無い分得をしたと思えば気が楽になるが髪の色を黒くすれば高校生と間違えられるくらい幼く顔に丸みが残っている。それに反抗しようとして明るくした毛先は今も綺麗な金色だが3ヶ月経ったおかげで髪をかきあげれば本来の黒く無個性な黒髪が見え隠れ。今日こそはヘアカラーを買わなければ・・・そう思ってもう1週間以上経つのはさすがにまずい気がしてきた。
その時裏口が開く音がして私はサッと鏡の私から目を逸らし手に持っていたモップを握り直した。「おはようございます!」
できるだけ明るい声を出して瑞希さんの反応を伺うが返ってくる返事は相変わらず不機嫌そうに、
「うん、おはよう」
だった。返事が返ってこない時もあるくらいなので今日はまだマシだ。そう思っていたら店内にネリーの曲が流れ始めた。
瑞希さんがレジを開ける時ついでにステレオのボタンを押したのだろう。
私は慌てて集めた埃と僅かにある値札を留めるためのモヤシの残骸を掃除機で吸い込んだ。
鏡についた幾重にもついた指紋を拭き終えた時にちょうど開店する時間になり私は店の扉を開けた。3ヶ月前に市役所を辞めた私がアパレル関係の仕事に就くきっかけはこれと言って無かった。
ただ誰にでも出来る役所仕事、周りには世代の違う人達の陰湿な職場、唯一楽しみだった以前の役所のパートの人が言い放った「邪魔」の一言。
私は一生こんな職場で我慢大会を続ける事が私には出来なかったのだ。
私の好きなこと。喋ること。音楽。そして服。
全てが揃ったファッション関係が私が本当にやりたかった仕事だった。
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