髪の毛染めたった
俺には黒歴史がある。カッコいいと思ってやっていたことが、実はとても恥ずかしいことだって気付いたのは、ごく最近のこと。だから俺は──。
* * *
「ねぇ兄貴……あたしのヘアカラー、勝手に使わないでくんない?」
高校生活が始まる一日前、俺が鏡の前で格闘していると、明るい茶髪の女の子が少しイラついた様子で声をかけてきた。やる気がなさそうな雰囲気だけど、隙がなく整った小さな顔だった。
「うっせぇな、減るもんじゃねーだろ?」
「それ一回分しか入ってないんですけど? てかなんで急に髪染めてんの? 高校デビュー?」
さっきまで不機嫌だった俺の妹、小谷野夏美が、今度は嘲笑ってきた。
「何でもいいだろ。つーかお前だって去年の夏、唐突にアタマ染めたじゃねーかよ」
「あ、あれはイマドキスタイルに変更しただけだし。そういうアニキは去年の夏くらいまで──」
「それ言うな、殺すぞッ!!」
「意味わかんないし……てかあたしのこそ殺すよ」
夏美に罵倒されることは予想の範囲内、本当は初めての染髪なんて美容院でするべきなのだろうが、生憎明日から高校一年生のクソガキである俺が、美容院でセットしてもらうような大金を持っているわけがない。だから素人にはハードルが高い気もするけど、自分で何とかすることにしたのだ。
……まっ、ヘアカラーを買う金もないから、夏美のヘアカラーを使わせてもらっているけど。
夏美のヘアカラーはかなり明るい色であったが、俺は一度も染めたことがないバージンヘアなので、明るい色で染めるくらいがちょうどいいと思った。
さて、一通り塗ったくったことだし、あとは説明書通り15分から20分程度放置するだけだ。
「ねー兄貴、早くしてくんない? あたしシャワー浴びたい」
観念したのか、夏美は自分のヘアカラーを使われたことに対してはもう怒っていないらしい。
「15分くらいかかるから、先入ってこいよ」
「もぉ……」
口では文句を言いつつも、夏美は従順にTシャツを脱ぎ始めた。どうでもいいけど、兄の前で平然と着替えるのをそろそろやめて欲しい。なんというか……最近、妹の裸と言えども成長してきたせいか、ムラムラします。
鏡のせいで俺が若干視線を逸らしていることに気づいたのか、夏美がニヤニヤと笑い始めた。
「あにきぃ~、もしかして興奮した? 一緒に入る?」
「誰が妹の裸で興奮するか! はよ入ってこい!」
「はいはい」
特に文句を言うこともなく、全ての服を脱ぎ終えた夏美は浴室に入っていった。
……まぁ、こういう冗談を言い合えるくらいには、俺と夏美は仲がいい。
最も、最近夏美が色っぽくなってきたのは事実だけど……。
「はぁ……」
鏡の前で、ついため息を吐いてしまう。夏美と一緒に入らなかったからではない。明日から始まる高校生活が待ち遠しいと同時に、不安に思うこともいくつかあるからだ。
……俺、間違ってないよな?
髪染める時点でお前はおかしいと言われたらおしまいだけど、少なくとも中学時代よりは遥かにマシなはずだ。そう、中学時代よりは……。
……いかん、嫌なこと思い出した。もう過去を振り返るのはやめよう。
俺はもう、高校生なんだ。
俺こと小谷野夏哉は過去の自分と決別し、高校デビューとやらをしてみせる。
だからまずは見た目から入る。こうして髪を染めてみたのだ。
俺の覚悟は本物であった──。
いかがだったでしょうか?
実は作者、お恥ずかしながら高校入学時も大学入学当初も夏哉君並みに調子に乗って、しかも色々空振りしておりまして…………誰か殺しておくれ。
次回もよろしくお願いします!
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