第三話 本選Ⅱ
「あー、スッキリしたー」
試合が終わり、ストレスも無くなってようやく自由になった俺は、大きく背伸びをしながら通路を歩いていく。
あのアスパラガス野郎、最後は漏らしていたけど……聖をアバズレ呼ばわりしたんだし、当然の末路だな、うん。同情もしねぇな。
とにもかくにも、次の試合まではある程度時間があると思うので俺はようやく休憩することができる。このまま観客席に戻ってもいいんだが、今の試合内容から察するに、戻ったら戻ったでまた休む暇が無いだろう。
ならば――――熱が冷めるまで、お土産チェック&出店のB級グルメ巡り! 財布と携帯は持っているからな……準備万端だぜ!
「うへへ……財布には母さんから貰った小遣い一万があるからな。お土産代に3000円使ったとしても、7000円は使える」
「……奢ってあげようか?」
「いや、それは流石に――――待て、どうしてここにいる」
「……さっきこっちを見ていたくせに」
「驚いて見ていただけだ。つーか、何でここにいるんだよアイン!」
財布の中を確認してにやけていると隣から知った声が聞こえたので振り向くと――――そこにはウチの学校の制服を着た黒髪のアインが俺を見上げながら立っていた。
ちょっと待て、なんだその髪は。銀色の髪はどうした。あと、どうして制服着てるんだお前は。
「……何でって……応援に来ただけだけど?」
「いや、お前俺の敵だよね? というか、ナンバーズ全員いたよな?」
「……公私混同はしない主義。今日は純粋に応援に来ただけ。暴れる気は無い」
いや、ここにお前がいるってこと自体が問題なんだよ。
つーか、やっぱりあのメールはアオイからだったか……。どうやって俺のメアドを知ったんだ?
「いくつか質問がある」
「……可能ならば答える」
「その髪と制服はどうした?」
「……髪はスプレーで染めた。水ですぐに落ちる。制服は貴女の学校に忍び込んで余ったいたのをいただいた。カモフラージュ」
「犯罪じゃねーか。で、どうやって俺がこれに出るって知った?」
「……あのファーストフード店で、龍華がクレアと揉めているときにアオイが鞄の中を漁って用紙を見つけた。その際にアオイが赤外線でアドレスを交換した」
「おい……おい。なんで漁った?」
「……そろそろヒーロー対抗戦の時期で、今年は貴女が出ると思ったからその用紙がないかを探った。見事にビンゴだった」
「ビンゴじゃねぇ。最後だ。どうやってこの会場を特定した?」
「……今朝、貴女のが学校に到着した時にスカートに発信器を付けた。あとはそれを追っただけ」
「どこだぁ!」
アインが無表情で答え、俺は必死にスカートに付けられた発信器を探す。
こいつら、サラッと犯罪行為に手を染めすぎだろ! いや、悪の組織だからそれが普通なんだろうけどさぁ! うわ、マジであった!
というか、学校に到着した時!? あの時お前いなかった――――あ、まさかカード使ったのか!?
くだらんことに余計な力を使ってんじゃねぇよおめぇはよぉ! というか、敵地のど真ん中にいとも容易く接近してんじゃねぇよ!
「ああもう……どうせ、【隠者】あたりのカードを使って透明化したってオチだろ、どうせ……」
「……どうして分かったの?」
「もういいよチクショウ! ……今日は本当に何もしないんだな?」
「……しない。だから頑張って」
「はぁ……分かった。絶対にばれるなよ。俺、今日は絶対に優勝しなくちゃいけねーんだからさ……お前たちの存在がばれて大会が無くなったらマジで泣くぞ」
もしこいつらの正体が判明したら会場内はパニックになるだろう。そして、当然ながら対抗戦は中止になり、当然ながら賞品もパーだ。つまりそれは、聖のプレゼントが手に入らないことを示す。
……まぁ、アインもこう言ってるし、大丈夫だろう。
「んじゃ、大人しく観戦してて――――」
「龍華ちゃーん! この前ぶりー!」
「うぉおぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あー、いい匂い……心安らぐぅ~」
「ええい、離れろアオイ!」
一抹の不安を抱えながらも、大丈夫だろうと思っていると、背後からアオイが抱き付いてくる。腹に回っている腕を見ると、こいつも俺と同じ学園の制服を着ている。
「ええい、離れろ! ったく、お前も――――お前は金髪かよ」
「うん! どうどう? 似合ってる?」
「まぁ、似合ってるな……」
アオイを引き剥がして後ろを見ると、そこには黒髪を金色に染めたアオイがいた。パッと見、学園内にいても「お、あの子可愛いなー」と思ってしまうくらい自然な感じだ。顔を知らない奴からしたら、普通に美少女にしか見えない。
「他二人は?」
「クレアはファイと一緒に他の試合を観戦中だよ。ねーねー、このまま一緒に出店で買い食いしようよ~。奢るからさ~」
「嫌って言っても離さないんだろ……。いいよ、一緒に食うよ……」
アオイに左腕に抱き付かれ、柔らかい物が腕に当たっているせいか抵抗できない。
くっ、卑怯な!
「……龍華。私の髪はどう?」
「ん? 普通に似合ってるよ」
「……そう」
「?」
チミは何がしたいのかね。
とりあえず、交戦の意思は無いのでしばらくは付き合ってやろうと思う。この二人の事だ。さっきの一回戦のことについてはそれほど騒がないだろう。正直、今は同レベルの強さを持ったこの二人といることが一番楽だ。
そう考えつつ、俺達は出店が並んでいる場所にやってくる。祭りとかにあるようなポピュラーなたこ焼き、焼きそば、トウモロコシ、その他色々な見たことも無いような出店もあり、少しばかりテンションが上がる。
お祭りなんて人生で2回しか行ったことがないからな……それも、聖と。一回目は確か、聖と手を繋いで色々と店を回っていたら警察に呼び止められてそのままパトカーまで連れていかれて事情聴取。
聖の説得により1時間後に解放されて……打ち上げ花火がほぼ終わっていた。あの時の聖の残念そうな顔は絶対に忘れられない。
あの警官は絶対に許さない。
その次の年にはそうはいかんぞ、と意気込んでネットで仮面ライダーのお面を購入。家を出た時からずっと装着していたが、今度は祭りの会場に到着した瞬間に取り押さえられた。
しかも、その時に取り押さえたのは一年前に俺を連行してへらへらと笑いながら事情聴取をしてきた自称ベテラン(笑)の警官だった。
そりゃあもう、怒った。二年連続で警察に連行されたんだ。花火までの時間はまだ3時間以上あったから母さんを呼んで聖を任せて警察署に向かった。
そして署長と会い、二度と俺と聖が一緒に祭りを楽しんでいるのを間違えるなボケ顔が分からないなら俺の写真を撮って署長室に飾ってある歴代の署長みたいにしっかりと飾って随時確認しておけこの野郎ふざけんなコラマスコミに訴えるぞこの野郎、と言ったところで警官に押さえつけられた。
後日聞いた話だが、自称ベテラン(笑)の警官は辞めたらしい。理由は教えてくれなかったが、祭りの後からえらく怯えていたらしい。やはり、パトカーに乗るまで視線を逸らさないで無言で睨んでいたのが原因だったんだろうか。
うん、だが今年はもう大丈夫だ。このふつくしい顔と女のボディがある限り、俺は捕まらない。つまり、聖になんでも買ってあげることができるというわけなのだ。
あ? クラスメイトと祭り? そんなもん、一度もねぇよ。そもそもクラスの集まりにさえ呼ばれたことねぇわ。
「……」
「龍華ちゃん? どうしたの?」
「いや……昔のことを思い出していたら、鬱になってきて……」
「……昔?」
「いや、俺、友達いなかったからさ……」
俺だって……友達と一緒に祭りとかに行って騒ぎたかったよ。
てか、二年前に聖と行った時に通報したの、クラスメイトだったらしいし。
……泣いてなんか、ないんだからね。
「龍華ちゃん、友達いなかったんだ……けど大丈夫! 今はボク達がいるよ!」
「……そう。龍華と友達にならなかったということは、それだけで人生の9割を損している」
「言っておくけどお前ら一応俺の敵だからね?」
いや、その気持ちは十分に嬉しいけどさ……というか、お前らはそんな考えなのに何で悪の組織なんてやってんの? 今からでも謝ってウチの学園に入学しろよ。先生に推薦状出してやるぞ。
いつの間にか俺の両手がアインとアオイに繋がれて逃げ道が無くなっていることに気が付きながらそんなことを思う。そういや、こいつらはどうして悪の組織なんてやっているんだろうか。やっぱり、世界征服がしたいからか?
「なぁ――――」
「あ、おじさん! チョコバナナ三人分ちょーだい!」
「……焼きそばも三人分。あと、お好み焼きも。ついでにモロコシも」
「……」
アイン達が悪の組織を名乗っている理由を聞こうとすると、アイン達は片っ端から出店の食い物を買っていく。流石に片手では持てないと思ったのか、俺の手を離して、その離した俺の手に食い物を持たせてくる。
やっぱりこいつら、普通に金持ってるんだな……どうやって稼いでるんだろう。一日中暇だからパートでもしてるんかな?
なんかヤだな、それ。
「ほらほら、あっちで食べようよ龍華ちゃん!」
「……熱いうちに食べるのが一番美味しい」
「お前ら異世界人なのに地球に馴染みすぎだろ」
両手に大量の食べ物を持った俺達は、そのまま近くにあるフードコートに設置してある客席に座って机の上に戦利品を広げていく。
「あー、こっちに来てもう二年ほど経つからね。あ、これ美味しー」
「……初めは苦労した」
「ふーん……」
と、食べながら話してくれる二人。お行儀が悪いわよ。
二年もいるのか。まぁ、それだけいれば普通に慣れるか。けど、アイン達と戦い始めたのは今年からっぽいし……それまでは何をしていたんだろうか。やっぱりコツコツと働いたりして生計を立ててたんだろうか。
「なぁ、アイン」
「……なに? 携帯のアドレスならあとで教える」
「いや、そうじゃねぇよ。ふと思ったんだがな……こうしてちゃんと生活もできてるし、力もある。それに俺の応援のためだけにこうやって危険を冒してまで敵地のど真ん中までやってくるし。……お前ら何で悪の組織なんてやってるわけ?」
「「……」」
そう、本当に興味本位で聞いただけなんだ。ただ、それだけ。
だから別に変な探りを入れようとか、そういったことは別にするつもりは無かったのだが……二人は俺のジッと見て動きを止めている。
「あ、いや……話したくないなら別に――――」
「……強い人と戦うため」
「え?」
「……強い人と戦うためだけ。それが私達の目的。それ以外には理由が……いや、もう一つある。人探しも目的の一つ。悪の組織を名乗っている理由なんて、その二つだけ。もっとも、一つ目はもう達成した」
「それが俺ってか……」
「まぁね。龍華ちゃんなら、大丈夫かな……あ、言っておくけど、ボク達は人殺しはしないあからね」
と、アオイは少し辛そうな顔をしながらちびちびとお好み焼きを食べていく。
強い人と戦うことと、人探し。やはりただの戦闘狂なんだろうか……いや、ただの戦闘狂なら、もうこの場で暴れている。ということは、何か目的があって強い人と戦っているんだろうか……。
そして人探し……異世界から来たのに、人を探しているのか? いや、自分たちの世界の人間がこの世界に来ていて、その人物を探している……ということなら分かる。だが、この広い世界でそう簡単に探せるんだろうか。
「ん、そうか。なんか、つまらんことを聞いて悪かった」
「……別に構わない。悪の組織をやっていたから龍華と出会えた。あとは、人探しだけ」
「どんな人?」
「……分からない」
「はぁ?」
少しでも協力できたらいいな、と思ってアインにどんな人かを聞いてみると、落ち込んだ様子でそう答える。
人を探してるのに分からないとか真面目に探す気はあるのかお前は。
「分からないっておまっ……どうすんのよ、それ」
「……当てはある。彼はきっとこの業界にいるはず。だから、戦っていれば彼の方から現れる……はず」
「この業界って……その人、ヒーローなのか?」
「……分からない。けど、9年前、8歳の時にこの世界に観光で来た時にヒーローらしいことを言っていた。だから、ヒーローになっていると思う」
お前、俺の二つ年下かよ。いや、今は同い年だけどさ。
「なぁ……それならさ、悪の組織じゃなくて普通にヒーローになればよかったんじゃね? 悪の組織で待つよりも、仲間として探す方がよっぽど早く、簡単に見つかると思うんだが」
「……! 盲点だった……」
「いや、普通に考えればすぐに思いつくよ」
どうしてお前はわざわざ茨の道を選んだんだ。
しかし9年前ときたか……その人がその当時に何歳だったかは知らんが、俺と同じ学生だったらもう卒業しているだろうな。というか、その本人がアインのことを覚えているかどうかすら怪しい。
なによりも特徴が分からん。何かこう、分かりやすい特徴があれば俺も先生に聞けるんだけどな……。
「特徴とかあったか?」
「……お互いに子供だったから、あったとしても消えている可能性がある。けど、同い年くらいだったから、今は学生の可能性が高い。加えて、龍華が住んでいる地域の人」
「なるほど。それだけでも十分に絞れるな」
「……あと、目が殺人鬼のようだった」
「おいそれ決定的な特徴じゃん」
めっちゃくちゃ特徴あるじゃねぇか、それ。そりゃあ成長すれば顔は変わるが、目の部分はそう変わらない。老人とかなら分からんが、まだ若い学生となればそう変わらないだろう。なら、そういった人物をピックアップすればいいだけだ。
……そいつ、きっと苦労してるだろうなぁ。俺も昔からさんざん言われてきたし。
「ま、俺も一応調べておいてやるよ。というか、何でその人を探そうとしてんの? もしかして初恋の人だから、とか?」
「……」
「チクショウ、そうなのかよ」
冗談半分で問いかけると、顔を赤くして俯くアイン。
死ね。その探してる人物は死ね! こんな可愛い子に惚れられているってことは万死に値する! 俺は今は女だから別にいいけど、それでも俺の一番のお気に入りなアインに惚れられているって時点で極刑レベルだボケ!
クソがぁ! そいつがイケメンになっていたらさらに殺意が湧くけど、とんでもないデブとかになっていたらイケメンの10倍くらいの殺意が湧くぞ!
そしてそいつを見つけたアインが顔を赤くして「……やっと、見つけた」とか言って抱き付いたらそいつに一文字切りをする自信がある。
結論。そいつは絶対に許さん。
+注意+
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