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何故私はこいつに恋をした? 作者:R

おいしそうな名前

 身長:163センチ
 女性の平均身長よりは高いけれど、男性の平均身長よりかは低い。
 髪型:ショート
 大学生になるまで、ずっとスポーツをしていたからベリーショートであだ名は『モンチッチ』だったけど、今は耳より下まで襟足はあるし、前髪も分けるほどの長さ。
 服装:リクルートスーツ
 ネクタイはしていない。まぁ、当たり前だ。でも、私はパンツスーツである。そして、5センチほどのヒールを穿いている。
「ヒールのせいか…?」
 身長が168センチくらいあるのが駄目なのか?いやいやいや、目の前の男は180近くかそれ以上の身長だ。…顔か。
『顔ではありません。髪の長さです』
「え」
 やっべ、筒抜けだった。身長とかばれたし。別にいいけど。
『この国では、女性の髪は長くなくてはいけません。短いことはありえないのです』
『なるほど…』
 そう言えば、王子も髪の毛が長かったな。ま、彼は男だけれども。
『申し訳ありません。私たちの価値観をあなたに押し付けてしまいました』
『え、あ、大丈夫です』
 じゃあ、あんなに乱雑な扱いをされていたのは男だと思われていたからか?
 ふとした疑問も筒抜けである。
『それもありますが、王族の傍に無闇に近付くものは徹底的に排除されますので、たとえあなたが女性だとわかっていてもあの対応でしょう……顔は殴られないと思いますが』
 ちょっとやりすぎた自覚はあるんだな…。
 なんて思っていると銀髪野郎はサッと立ち上がり、固まっている美少女メイドに手を貸していた。美少女メイドは顔を赤らめながら手を取り、立ち上がっていた。そして、私は放置でそのまま出て行ってしまった。
 おいおいおいおい、こうもあからさまな不公平はどうかと思いますよー。社会人として駄目ですよー。私が言える立場じゃないけど。
 美少女メイドがポーっとしている間に自分でさっさと服を脱ぎ、全裸になる。そして、勝手に脱衣所から抜け出した。
「うおー、すっげー…」
 ありきたりな感想しか私にはないが、それだけ浴場は凄かった。かなり大きくて広く、大理石のようなもので浴槽は作られていた。しかし、なぜだか全体的にピンク色…。
「そしてキツイ花の香り…」
 嫌いな香水の香りだな…。
 なんて思いながら仁王立ちしていると、いつの間にか入ってきていた美少女メイドに頭の上から湯をぶっ掛けられた。
「っぶえ!」
 桶だとか蛇口なんてものはないのに、彼女はどこかから私に湯をぶっ掛けてきた。手で掬って掛けたなんてかわいらしいものじゃない。滝で打たれたような強さだった。
「え、あ、…自分で」
 問答無用とばかりに睨みつけられ、なにやらスプレーのようなもので顔に液体を掛けられた。
「うえ…」
 なにすんだ、と言う言葉は出なかった。
「う…」
 視界がぐらりと揺れ、脚がガクガクとし、立っていられない。よろめきながら後退り、タイルに背を預け、ずるりと腰を落とした。
「っは、っは、っは、っは…」
 心臓が全力疾走をした後のように早鐘を打ち、呼吸が乱れる。
 な、なんだ…何をした。
 虚ろな目で美少女メイドを見上げると、彼女はさっき銀髪野郎に見せたような可憐な微笑みを見せた。その後、動けない私をごしごしと痛みが走るほど洗ったのは嫌がらせなんだと思う。
  ・
  ・
  ・
 動悸と呼吸の乱れは収まったものの、体が言うことを利かない。ぐったりとする私に美少女メイドは無理矢理服を着せた。
 ワンピースとか幼稚園児以来だよ…。
 なんて思うことは出来ても、立つことはおろか歩くことさえ出来なかった。そしてそんな私は今、甲冑その2に負ぶわれていた。
「すいまひぇん…」
 心なしか呂律も回らない気がする。
 甲冑その2に私の謝罪は伝わったのか、少し微笑まれた。顔は殆ど見えないし、甲冑が胸とか腹に当たって痛いけど、甲冑その1にぶん殴られたことを思い出せば、この人はかなりいい人だと思う。超いい人。今私の中で、この人が一番いい人。
『そのだらしない顔を引き締めてください。今から殿下と謁見ですよ』
 謁見と言われても…。
 実は後ろを歩いていた銀髪野郎にガッと頬挟まれ、背筋をしゃんと伸ばす。それに気付いた甲冑その2に優しく下ろされ(ようやく立てた)。そのまま脇に控えようとする甲冑その2の手を慌てて取って、ありがとうと言うことを念じてみた。
「………」
「………」
 困った顔をされた。
 なんだ、通じないのか。
 慌てて手を離し、ペコペコと腰を折った。そんなことをしていると背後のドアが急に開き、慌てたような銀髪野郎に頭を掴まれ、体を180度回転させられた。そこには金髪碧眼の男が満面の笑みでドアノブを握って目の前に立っていた。
「――――」
 なにやら言った王子に対して無反応のまま立っていると、頭蓋骨が軋んだ。
「ご、ごきげんよう!!」
 このままじゃ握りつぶされる危険性があったため、王子様と言えばという短絡的な思考の私に浮かんだ最上級のあいさつがこれだった。通じているわけがないのだが、王子に軽く笑われ手を取られた。その瞬間、再び頭が圧縮された。
「ぐう!」
 目の奥で星がちらつく。
「――――――――、――――」
 そんな私を助けるように、王子がなにやら銀髪野郎に言った。その言葉で渋々と言ったように放される手。
 さすが王子、部下の扱いわかってるぅ。
 そのままゆっくりとした動作で腕を引かれ、ソファに座らされる。
 私が薬物を使われているのを知らないでこの行動だったら、王子に惚れるわ。なんだこのレディーファーストっぷりは。もしやそういう育て方をされているのか。
 王子の隣に鎮座していたが、銀髪野郎に引っ張りあげられ、机を挟んだ反対側に座らされた。肩に置かれた手がギリギリと食い込んでいる。
「はははっ」
 王子、超笑ってるよ。ていうか、銀髪野郎笑われてやがるよ。
 肩でも、私に触れていたら心は聞こえるらしい。また電流攻撃をされた。
「ひぎゃ!」
 ぷるぷると震える私を見て王子はまた笑っていた。
「――、―――――」
「――――――、―――」
 銀髪野郎の咎める声にやっと王子は笑いを引っ込めた。そして、私にまた手を差し出した。その間に銀髪野郎が私の右側に座っていた。
「?」
 訳がわからないまま左手を王子に取られ、右手を銀髪にとられる。そして、銀髪野郎と王子が残った手を繋ぐ。
『なにこれ、宇宙人との交信?』
『会話成立のためだよ』
『だ、誰っ…!』
 犬みたいだと言う声が届く。
 もしや、これは王子か…?
『あなたはもう少し殿下を敬いなさい』
『はひ!王子殿下!!』
『いいよ、いいよ。ウィーンテッドって呼んでくれればいいし』
『ういーんてっど…』
 右手の骨が砕かれるかと言うほど握り締められた。
『ははは、凄い怯えた顔するなぁ。あ、正式にはウィーンテッド=セシア=ルクドリアっていうんだ』
『うい…ドリア』
 やけにおいしそうな名前だ…。
『ぶん殴りますよ』
『わ、私、森 桜って言います!今後ともご贔屓にお願いします!』
 両手をつながれたままお辞儀をするのって、客観的に見たらすっごいダサいよね。
『モリー?』
『あ、えっと、桜 森です』
『シャクゥ?』
『さ、く、ら…です』
 テメェ王子の言葉を訂正しやがったな…。的な目で隣の人物が睨んでくるので、これ以上は訂正しないで置こうと思います。
『シャクゥラ』
『はい、王子』
『…シャクでいい?』
『ええ、どうぞ』
 どうも“さ”が発音し辛いらしい。
『ほら、お前も』
『…クーラドヴォゲリア・サレッド』
『クー…サレッド』
 あ、駄目だ。殺られる。
 この気持ちが二人共に伝わり、王子が噴出した。
『おもしろいなー、ホント。二人は犬と調教師みたいだ』
 中型犬がいいな、と思うと王子の腹筋が崩壊しそうになっていた。
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