ぽぽぽっ……八尺様に魅入られて
■まえがき(2014/11/16)
本作は「2ちゃんねる オカルト板」の「死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?」スレッドに投稿された怪談「八尺様」の二次創作になります。
二次創作である本作は「小説家になろう」の利用規約に抵触する可能性がありますが、本作は投稿前に小説家になろう運営に問い合わせを行い「特に投稿に制限は行っておりません」との丁寧な回答を頂いたうえで投稿しています。
なお小説家になろう運営に送信した質問メールには、八尺様がどこで発表されたものかを明記し、一般的に都市伝説(メリーさん、口裂け女、ひとりかくれんぼなど)や、2ちゃん発のホラー(コトリバコ、くねくね)は著作権利者が曖昧であるがゆえに各種創作におけるモチーフとして自由に使われてきたこと、他に実例として第18回電撃小説大賞において金賞を受賞した「あなたの街の都市伝鬼!(電撃文庫) 聴猫 芝居 (著)」に登場するキャラクター「コトリ」が2ちゃんねるに投稿された怪談「コトリバコ」を元ネタとしていることなど前提となる情報を説明した上で、都市伝説やネット怪談が著作権を考える上で非常に難しい立場にあると、質問に至った経緯を記しました。
小説家になろう運営からメール転載の許可を頂いていないので、
回答メールの全文を転載することは出来ませんが、
纏めると
・作者不明の題材は版権元不明であり二次創作としての取り扱いは難しい
・ゆえに都市伝説や怪談等の投稿制限は特に行っていない
・しかし文面の明らかな転載である作品や原作となる版権作品から広がった怪談を題材とした作品は運営対応の対象になる場合がある
・出典元の確認は必ず行うように
との回答(2013/7/26)を頂きました
。
面識のない方から、別作者様の別作品における騒動に関連して本作に問い合わせを受けましたので、こちらに本作投稿までの経緯を記させて頂きます。
本作は二次創作であり、小説家になろう運営に投稿許可を頂いている。
その二点をあらかじめご了承の上でお読み下さい。
★追記(2014/11/17)
上記の小説家になろう運営に送った問い合わせでは、2ちゃんねるの書込規約のURLとリンク先から引用した規約文を記した上で判断を仰いでおります。
親父の実家は田舎にある。
国道沿いに中古車ショップと田んぼが並ぶ、ありふれた風景のプチ田舎だ。
俺はそんな雰囲気が好きで、小さい頃は親に連れられて、よく遊びに行っていた。
地元の夏祭りに参加したり、夜店で変なお面を買って喜んだり、現地のガキ大将と都会モンの威信を掛けた殴り合いバトルをしたりと、ガキらしく楽しんだ記憶がぼんやりと残っている。
そんな田舎へ、久しぶりに顔を出そうと思い立った。
今は、高校3年の夏休み。
何かと忙しく大事な時かもしれないが、だからこそゆとりを持つべきだ。
爺ちゃんの家までは、電車を乗り継いで数時間。
ただし、最寄りの駅から爺ちゃんの家まで徒歩40分なのが、田舎の恐ろしいところ。
真夏の炎天下、さすがに40分も歩きっぱなしはキツイ。
たまらず通りかかった公園のベンチで、小休止を取っていると、
『ぽぽぽ……ぽっ』
変な声を聞いた――
なんだろうと、声がした方へ目をやる。
公園の生け垣があり、その上で麦わら帽子が揺れていた。
麦わら帽子の先端だけを、生け垣の上から覗かせて、ゆっくりと横にスライドしていく。
歩くスピードで遠ざかる麦わら帽子は、やがて見えなくなった。
さっきの『ぽぽぽ』という変な声は、生け垣の向こうから聞こえたけど……あれ?
この生け垣。
どう見ても、高さが2m以上ある。
あの帽子をかぶってた人、どんだけ背が高いんだ?
「ぽぽっぽ…………」
俺が首を傾げていると、また不気味な声が聞こえてきた。
またか。
やれやれと、俺は声の聞こえた方向に視線を向ける。
そこには、やたらと背が高くて、真夏の太陽より眩しい、
マジで文句なしの美少女がいた。
「ぽぽぽっ……」
美少女だった。
マジで美少女だった。
長いまつ毛と黒い瞳が印象的だった。
どこか控えめな顔立ちは、清く尊く美しくを体現する大和撫子。
純白のワンピースに麦わら帽子というファッションが、清楚で可憐な印象をさらに強めている。
オマケに、細身のスレンダー体型で、髪型は腰まである黒髪ロング。
まさに理想の田舎美少女、これはポイントが高い。
だけど、やたら背が高かった。
すごく、背が高い美少女だった。
俺は男なのに150cm台というチビだが、麦わら帽子から伸びた黒髪ロングを揺らす純白のワンピースの彼女は普通に180cm以上ある。
――うわ、でけぇ!
美貌とデカさで俺を驚かせた、文句なしの田舎美少女は。
「ぽぽぽっ…ぽ」
すごく……挙動不審だった。
目的不明のまま、公園入口で棒立ち。
不気味な「ぽぽぽっ」は、なんのことやら。
あはは、驚いてるのかな?
視線は俺に釘付けで、大きな瞳を「くわっ」と見開いてるのが……怖くて怪しい。
うん、怪しすぎる。
美少女――問題ない。
黒髪ロング――大好物だ。
清楚で可憐――ストライク。
背が高い――許す。
大きく見開いた瞳――すげぇ怖い。
あと気のせいか、
さっき生け垣の上に見えてた帽子は、公園の入口と反対側に歩いてて……まさかの瞬間移動?
そんなことを考えていると、
「ぽぽぽっ……ぽっ」
ニタァァ――と。
田舎美少女は、不気味に口を歪めて笑った。
ぎこちなく、わざとらしい。
どこか無理をしている、記念撮影に緊張した子供が浮かべるような笑み。
あまりの不気味さに、自分の顔が引きつるのが分かる。
「ぽっ…ぽぽ」
それで終わりだった。
背の高い美少女はクルリと背中を向けて、挨拶もせずどこかに走り去っていく。
……
…………なんというか、よく分からない出来事だった。
……
俺はあまり気にせず、爺ちゃんの家に向かった。
爺ちゃん婆ちゃんは、俺の来訪を心から歓迎してくれた。
居間でお茶を飲みながら、俺は二人と話をする。
学校の事とか、父親の様子、話すことは山ほどあったが、ふと会話が途切れたとき。
何気なく、あの女のことを話した。
「さっき公園で変な女を見たんだ。麦わら帽子を被った女で」
俺の話を興味なさげに聞いていた、爺ちゃんだが、
「それでさ、すげー背が高くて」
――ピクッ
と、爺ちゃんのこめかみが、俺の説明の一部分に反応して動いた。
「なあ。その女、どれぐらい背が高かった?」
爺ちゃんが、問いかけてくる。
真剣に、淡々と、どこか焦りを混じらせて。
「2mよりも高かったか? 本当に帽子を被っていたのか?」
質問内容が、段々と具体的になってくる。
「その女は、ぶぶぶ…や、ぼぼぼ…とか、そんな声を出していなかったか?」
「言ってたよ。ぽぽぽ…って」
爺ちゃんの顔色が、スイッチを切り替えたみたいに青ざめた。
俺は、何かとんでもないモノを見てしまったようだ。
まだ「ぽぽぽ」という変な声は、爺ちゃんに話してなかったのに。
それなのに、変な声について質問をしたのは、きっと「ぽぽぽ」が、ここらじゃ有名人だからだろう。
それも――悪い意味で。
渋い表情を浮かべる爺ちゃんが、俺に告げてきた。
「なあ。今夜は泊まっていけ……いや」
自分の発言を否定して、爺ちゃんは言い直した。
「今日は、お前を帰せなくなった」
爺ちゃんは「神社の鶴屋さんに電話する」と部屋を出た。
居間からは電話内容は聞き取れなかったが、口調から何か深刻な事が起きたのが推測できた。
しかし、相談先が警察ではなく神社であること。
それが薄気味悪くて、俺は真夏だというのに寒気を感じた。
ポーカーフェイスの婆ちゃんが語りかけてくる。
「まあ心配せんで今日は泊まっていけ。きっと爺ちゃんと鶴屋さんがなんとかしてくれる」
婆ちゃんは、ポツリポツリと語り出した。
「八尺様に魅入られちまったようだの。だんが安心せえ。魅入られたからって必ず連れて行かれるワケではねぇ」
八尺様に魅入られた――
不穏な単語に、俺は体をこわばらせる。
婆ちゃんが教えてくれたのは、以下のような話だ。
この辺りには「八尺様(はっしゃくさま)」という厄介なものがいる。
八尺様は大きな女の姿をしていて、名前の通り八尺ほどの背丈があるらしい。
「ぼぼぼ」と、変な笑い方をする。
喪服を着た若い女だったり、和服姿の老婆だったり、作業着姿の年増だったりと。
目撃者によって、見える姿が異なる。
異常に背が高いことと、頭に何か載せていること、それに特徴的な笑い声は共通している。
ずっと昔に旅人に憑いて、この辺りに来たという話もあるが、定かではない。
なお八尺様は、街道に設置された地蔵によって封印されている。
地蔵の結界に阻まれて、この地区の外に移動することができない。
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。
八尺様に魅入られるのは成人前の若い人間、それも子供が多いらしい。
俺は同年代より背が低いから、年齢が高めでも八尺様に魅入られたのでは?とは、悪意なきばあちゃんの推測。
最後に八尺様の被害が出たのは、今から30年ほど前で――
「きっと助かる」
話の締めくくりに婆ちゃんが言うと、居間のふすまが開いて。
電話を終えた爺ちゃんが言った。
「鶴屋さんの代理が来てくれるそうだ。残念なことに鶴屋さんはぎっくり腰で動けない。だから、まだ若いらしいが弟子を送ってくれた。そそっかしいトコはあるが、素質は折り紙つきだから信頼してくれとのことだ」
俺の知らないところで、話がどんどん大げさになっていくのが分かる。
八尺様、魅入られる、厄介なもの、
まるで……
真剣な面持ちで、爺ちゃんが語りかけてきた。
「信じられんだろうが、お前は人智を超えたバケモノに命を狙われている」
何かの冗談みたいだった。
田舎の暇人どもが、都会モンな俺を裏で仕組んでハメてるのかと。
そう思いたかったし、そうであって欲しかった。
「相手はバケモノだが、ワシらは黙ってお前を連れて行かせたりはせん」
それから数分間。
爺ちゃんから八尺様の物語を聞かされたが、ほとんど耳に入らなかった。
慰めや、励まし。
耳に入ってこない言葉が、延々と繰り返される居間に。
――ピンポーン――
チャイムが鳴り響いて。
「入りまーす! 乱暴に失礼しまーす!」
トーンの高い、若い女性の声が聞こえた。
「ふむ、来たようじゃな」
爺ちゃんが、短くコメントすると、
「いきなり失礼しまーすっ!」
――ガラッ。
居間のふすまが開かれる。
俺は目を疑った。
居間に現れた鶴屋さんの代理は、小学校高学年ぐらいの女の子だった。
これだけで驚きだが、さらに驚いたことに、彼女の衣装は、目にも眩しい緋色の袴なのだ。
そう、巫女さん。
緋色の袴(はかま)と弓道着みたいな上着の、テンプレ衣装な巫女さんが現れたのだ。
「師匠の代理で来ました、鶴屋冥子(つるやめいこ)でーすっ!」
巫女さんだった。
それも、小学生ぐらいの巫女さんだった。
目付きが鋭くて、少し生意気そうなツラした、文句なしの美少女巫女だった。
だけど、ひとつ許せないことが。
この巫女さん、髪型を金髪ツインテールにしているのだ。
そこは、黒髪ロングだろ。
魂が慟哭した心の叫びは、どうやら届かない様子で、
「むむっ! 見つけたわよっ!」
「えっ、俺?」
「そうよ! オマエよ! あんたよ! どチビ!」
「うるせーよ! 初対面のクセに人が気にしてるトラウマ抉るんじゃねぇ! あとお前だって小学生だろうが!」
「なにが初対面よ! それにあたしは! こー見えて女子高生!」
「嘘だろっ!?」
「リアルよ! マジよ! これは現実! 八尺様に魅入られたのは――お前かァァ!」
――バキィィィィ!
小さな巫女さん、細腕フルスイングッ!
ひらひらの紙きれがついた巫女棒(名称不明)で、そいつは俺の脳天をぶん殴ってきた。
「ってて……って、何しやがるんだ、コラァ!」
「厄払いよクソたわけェ! 巫女がコイツで愚民の脳みそひっぱたくのぐらい、ネアンデルタール小人なあんたでも知ってるでしょ!」
「知らねぇし! 愚民じゃねぇし! そもそも小人とか言うんじゃねぇ! 身長が俺のコンプレックスなのを初対面で見抜いて、真っ先に虐めに活用すんじゃねぇ! あと厄どころか意識まで棒きれで吹っ飛ばす勢いだっただろ! てめぇはっ!」
「ハンっ! 命だけは勘弁してやるわ!」
「上から目線が激しいなっ、オィっ!?」
「夏期講習でクソ忙しいのに、いきなり呼び出しくらったストレスのせいよっ! 高校3年の夏だっていうのに、大学受験に失敗したらどうすんのよ!」
「知らねぇし、大学受験とか嘘だろっ!? どう見ても小学生な」
「っさいわね、どチビ!」
「クソぉ……」
「あらあらぁ~、そこのおチビさん? もしかして冥子ちゃんに逆らうつもりかしら? また殴られるのをリクエスト?」
「ぐぬぬ……」
「コレ手作りかつ材料費バリ安だから、脳みそぶち叩いて、何個ぶっ壊れても構わないし」
「材料費に興味はないが、紙切れの部分が夏休み開始前に配られたプリントなのは、さすがにどうかと思うぞ……」
「ふん、毎年配られるけど誰も見ないことで有名な『健全な夏休みを過ごす方法プリント』の有効活用例よ」
「エコなのはいいとして、そいつで殴られた俺に支払う慰謝料の件だが……」
「たとえ死んでもっ! 除霊中の事故で済ませば! オールオッケー!」
「満場一致でアウトだッ!」
「偉大なるヤオロズ・ゴッドの御名の元、巫女は何しようが許されるのよ、ふふーん」
「得意げに鼻を鳴らすな……金髪ツインテールのロリ巫女が」
「ったく。八尺様みたいな超S級の怪異に狙われるなんて、あんたどんだけお馬鹿なのよ。うん、おバカ。超おバカ。ノーベル賞のおバカ部門にノミネートされそうなぐらいバカ。伸びない身長に悲観して自殺を決意するのはいいけど、八尺様に魅入られるちゅー、くそアクロバティックな自殺方法にチャレンジすんじゃないわよっ! このおバカッ! 命を大事にしないヤツは大っ嫌いなのっ、死ね! まぁ超霊能力者で誰もが羨む超絶美少女、性格グッドで優しくキュートな人の姿をしたエンジェル巫女で禍払い専門の武装巫女でもある、あたしこと鶴屋冥子(つるやめいこ)が――」
「まあ、そんぐらいにしとけや」
爺ちゃんの呆れた声で、ロリ巫女こと冥子は「はっ」とした表情を浮かべる。
「……というわけよ」
「よく分かったよ……俺がバカだって」
「あんたがバカでチビなのは宇宙の真理として、八尺様に魅入られたのは仕方ないわ。どうにかして連れて行かれるのだけは回避しましょう」
「頑張ってくれ、期待してる、そして俺は、トイレに行ってくる」
「心配だからついていくね」
「おう、悪いな」
俺はトイレにトコトコ歩きながら、
「……待てよ、ついてくる?」
「そーよ。あんたが用を済ませてる間、ずっと見張ってるだけ。何か問題ある?」
さも当然といった口調で、トチ狂ったことを抜かす巫女に、
「いやっ! 問題ありまくりだろっ!?」
「その問題は却下。あんたの命に比べれば些細な事ね。いいこと、この手の怪異は狙われた人物が1人になった時が一番やばいのよ。トイレなんてドンぴしゃね。個室で1人の時、八尺様に襲われたらどうするのかしら?」
「その時は助けてくれ。大声で叫ぶから。ドアの鍵もかけない。これでいいだろ?」
「ダメ」
「俺がズボンを下ろすトコなんて、見たいか?」
「がりゅぅぅ……」
「後悔しても知らねぇぞ……」
「覚悟なら出来てるわ……たとえどんな汚いものを見て、どんな深い傷を心に負おうと、八尺様からあんたを守る使命を達成するためには」
「勝手にしろ……」
そんなことを話していると、トイレに到着した。
すこし恥じらいを覚えるが、別に放尿シーンを見られても、どうということはない。
小学生の頃は、野原で立ちションとか平気でしてたし。
「ドアは開けっ放しにしてるから、そこに立ってろ」
「変なことしたら、承知しないわよ」
「どんなことだよ」
もう色々と諦めた俺が、尿意に負けてチャックを下ろすと、
「ふーむ、ほぉほぉ、隙間から出すのね、うんうん、あっ剥ぃ……何も見てない、わたしは何も見てない……しかしなるほど、そうやって狙いを定めるのね。男って便利」
「黙ってろ……」
「ワクワク☆ドキドキ待ってるんだから、さっさと出しなさいよ」
「いちいち出す気の失せるコメントすんな」
金髪ツインテールのロリ巫女に、アレをジロジロ見られながら放尿する。
なかなか経験できないレアな体験だが、うれしさは皆無で情けなさはマックスに近い。
「うぅぅ、どうして俺はこんなことを……」
口では嘆くが、押し寄せる尿意には勝てない。
巫女さん監視のもとで、
チョロチョロ――と、
便器に向かって、涼しげな音を立てていると。
「ぽぽっ、ぽぽぽ……」
トイレの小さな窓から。
公園で聞いた、あの声が聞こえてきた。
慌てて小窓の外に目をやる。
爺ちゃんの家を囲む垣根から、麦わら帽子の先端が見えた。
小刻みに動く麦わら帽子の下には、きっと白いワンピースを来たアイツがいて。
――ガサッ…ガサッ……
生け垣が揺れた。
枝葉が軋んで、垣根の葉っぱが散った。
上から先端だけを覗かせる、麦わら帽子もゆらゆらと揺れている。
そして、
「ぽぽっ…ぽ」
もう間違いない。
魅入った人を取り殺す八尺様は、垣根の向こう側にいる。
――ガサッ…ガサッ……
垣根の揺れが、激しさを増していく。
アイツは怒っている。
なぜか、そんな気がした。
「――大丈夫、平常心。今はやるべきことをやりなさい」
耳元でポツリ、聞き取りやすいアニメ声。
うろたえる俺に、かすかな緊張を孕んだ声で、冥子が囁きかけてくる。
「悪い気配はしない。たぶん大丈夫よ」
「あぁぁ……あの声だ……公園で見た……垣根の上に……麦わら帽子が見えて」
「分かった。垣根の向こうにいるのね。声はあたしにも聞こえる。でも気配は感じないの」
そう言ってる内に、無事に出しきった。
ふと気づけば、垣根の向こうにいた八尺様は姿を消していた。
「冥子、アイツだよ……俺が公園で見かけたのは」
「ふーん、公園でね。その話はあとで詳しく聞かせて。ただ、さっき現れた八尺様からは、なんというか悪い気配がしなかったの」
「???」
イマイチ要領がつかめないことを言う冥子。
「ようするに、さっきの八尺様は悪さをするつもりがなかった」
「じゃあ、何をしに来たんだ?」
「もしかしたら、あんたにアピールしに来ただけかもね。ずっと見ている、逃さないぞ――て」
真夏だというのに。
汗ばんだ背筋に、ブルっと寒気が走った。
「耳なし芳一って、知ってる?」
冥子が、そんな質問を投げかけてくる。
ここは爺ちゃん家の2階にある和室で、全ての窓とふすまを閉めきっている。
冥子は「大事な儀式を行うので入ってこないように」と、爺ちゃんに忠告していた。
さて、俺はこの部屋でどんな儀式をしたのか?
もちろん、ロクでもない儀式だった。
「知ってるけど、次はなにすんだよ……」
日本酒でぐっしょり濡れたシャツに、俺はため息を漏らす。
この部屋に閉じ込められてから、ほんとマジでロクな目にあっていない。
足元を見れば、悪霊が嫌うイワシの生首、鬼が避けるヒイラギの葉、幸運をもたらすミイラ化したうさぎの足、霊験あらたかな「注連縄(しめなわ)」で亀甲縛りにされて、女王様が奴隷に鞭を打つように「巫女さん棒(名称不明)」で何度も尻を叩かれたり……ほんとロクな目にあってない。
金髪ツインテールの女王巫女こと、亀甲縛りがやたらウマい冥子が言った。
「次はそうね、この場で全裸になって貰おうかしら?」
「ふざけんなっ! 全力で断るっ!」
さすがの俺もキレて、反射神経の勢いで全力拒否。
対して、冥子は、
「別にいいわよ。たぶんあんた死ぬけど」
「そもそもだっ! 人のプライベートな放尿シーンをジロジロ観察したあげ……死ぬ?」
「あんたが死ぬのを回避する。その為の耳なし芳一作戦よ」
それから、冥子がしてくれた説明を要約すると。
古典怪談「耳なし芳一」から着想した作戦内容は
「全身にお経を書くことで、八尺様に俺を見えなくさせる」
なるモノだった。
「作戦内容は理解できた……が、元ネタが昔話で効果は不明、しかもぶっつけ本番かよ」
「しかたないでしょ。八尺様に魅入られた人の文献は少なくて、手探り状態なんだから。やれることや思いついたことは、ダメで元々積極的にチャレンジするの。さあ全裸になって四つん這いになりなさい」
「くそっ……」
俺は渋々ながら、服を一枚一枚。
「むむっ」
上着を脱いで、
「ほぉ」
ベルトを外してズボンを脱いで、
「へぇー」
おもむろにパンツを脱いで――って、
「ジロジロ見るな……俺にだって恥じらいはある」
「いいじゃん。別に減るモンじゃないし」
「俺の精神力は、ガリガリ減ってるよ……」
「精神がすり減るのは、きっとこれからよ。ふふふーん」
口ぶりは余裕そうでも。
実はほっぺを真っ赤に染めて、恥じらいまくっているのはかわいい。
そんな冥子が、ポスカでうさぎやネコのイラストが書かれたギャル臭い肩掛けカバンから取り出したのは。
筆ペンとカミソリ……カミソリだと?
嫌な予感がした。
すごーく嫌な予感が。
とてつもなく嫌な予感が。
「まずは準備からよ。これから……」
もう頬どころか顔全体が真っ赤に染まった冥子が、カミソリ片手に宣言するのだ。
「あんたの……体毛を剃るわ」
「嘘だろ?」
「マジよ。毛が生えてたら、お肌にお経が書けないでしょ?」
「おのれ正論を……毛を剃るなら、もちろん髪の毛も?」
「汚いワキ毛も」
「腕毛とか、すね毛も」
「モチ剃るわね。一本残さず」
「眉毛は?」
「剃る」
「まつ毛は?」
「うーん、それは残しても大丈夫」
「じゃあ……ちん毛は?」
「剃るわ」
陰毛を剃る。
俺の陰毛を剃る。
小学校高学年の女の子にしか見えないけど、実は自分と同年代の金髪ツインテールの幼巫女に、俺は陰毛を剃られそうになっている。
なっなにを言ってるか分からねぇかもしれねぇが、俺も何が起きているのか分からねぇ……
アタマがどうにかなりそうだった……
恥ずかしいとか実は嬉しいとか、そんなのまったく関係ねぇ……
もっと――
「別に拒否してもいいわよ。八尺様にアレを取られてもいいなら」
「それは困るな……」
「どうせ使うアテはないでしょうけど(ボソっ)」
「毎日使ってるわい!」
「男の子って不潔……っ(カァァ――)///」
「俺でも放尿ぐらい毎日するし! 明らかに別の意味で毎日使ってると勘違いしてんだろ!」
「うん、詳しく説明すると」
「すんな! 話を陰毛に戻すぞ! 仮に俺の陰毛を剃らずに耳なし芳一作戦を決行したら、八尺様には……何もない空中に俺のアレだけが浮いてるように見えるのか」
「うん。それはそれで怖いでしょうね」
「否定はしないが、空中に浮かぶアレを見つけた八尺様は――」
「もちろん、収穫するでしょうね」
「ひっぃぃ!!?」
「ターゲットを発見した八尺様は、もぎもぎフルーツ♪ もぎもぎしたーら♪」
「ガク・ブル……アレなし芳一の誕生かよって、マジで笑えねぇから!」
「明日を笑って過ごすために、とっとと始めましょう……陰毛剃り剃り、ハァハァ」
「待てっ、早まるなっ、息を荒げて新たな性癖に目覚めるなっ! 最初のメインターゲットを股間に見定めるんじゃねぇ! まだ他に手段があるだろっ! むしろ他の手段を探せ! 迅速に!」
「動かないで……手元が狂うから」
「言葉のキャッチボールを放棄すんなっ! 何か別の方法はないのか! 八尺様に襲われても助かった人がいるんだろ! その時と同じ手段で」
「それはいま準備中。本当は今すぐにでもお地蔵様の結界を通過したいトコだけど……八尺様は結界内に留まるモノは積極的には狙わないけど、結界の外へ逃げようとするモノは必ず奪いに来る習性があるみたいなの。これは過去の事例からも明らか。八尺様に魅入られた人物は、そのほとんどが結界の外へ逃げようとしている最中に連れてかれてる」
「つまり、結界内に留まっていれば、安全なのか?」
「安全じゃないわね。あくまで「狙われにくい」だけ。地蔵の結界を越えない限り、3日と持たず連れてかれるわ」
「トンでもないのに魅入られちまったな……」
「ほんとよね。だからこそ、全力で陰毛を剃る必要があるの。ちなみに脱出作戦の決行は明日。まずあんたの血縁者を集める。これはめくらましね。血筋が近いものが一箇所に集まれば、八尺様のターゲティングを惑わす効果があると期待して。はたして本当に効果があるのかは怪しいけど、何もしないよりマシ。ただ、いくら緊急事態でも、今すぐ親類を集めるのはムリだから……今夜は、ここで一夜を明かす必要がある」
淡々と、自分の感情を押し殺して。
頼られたものの責任を感じているだろう冥子は、俺に八尺様の説明を続けてくる。
「夜を待てば、あなたの父親を含めて十分な数の血縁者を集められる。だけど、怪異が最大の力を発揮する夜間に移動するのは危険すぎるわ。だから今晩は、あの手この手で八尺様を乗り切る必要がある」
「で、その手段が陰毛を剃ることなのか?」
「そうよ。生き残るために陰毛を犠牲にするの。それは辛い選択かもしれないけど、きっと」
「他の方法はないのか……さすがに悩むぞ。命がかかってるとはいえ」
「自分の命と陰毛っ! どっちが大切なのよ!」
「両方に決まってんだろっ! そもそもホントに効果あるのかよ! 全裸にお経を書いてステルスとか! あと耳なし芳一って昔話じゃねぇか! 明らかに効果なさそうなんだが!」
「なら、別の方法にする?」
「別の方法?」
全裸で抗議を続ける俺に、カミソリ片手に頬を赤らめた冥子が言葉を続ける。
「八尺様はね、子供を狙うの。あんたぐらいの年齢を上限にね。このことから推測できるのは――」
「推測できるのは?」
「あんたが童貞ってことよ」
なん…だと……っ!?
俺が童貞なのがバレ……たのは別にいい。
だが、
「……どうして分かった」
俺は、童貞オーラを隠して生きてきた。
身だしなみに気を使って、ソレ系のオーラが出ないよう細心の注意を払っている。
だが、冥子には見破られてしまった。
童貞の事実を今後も隠し通したい俺は、今後のためにもその理由が知りたかった。
「簡単なことよ。八尺様に魅入られて連れて行かれるのは、決まって子供だから。これが何を意味しているか? 八尺様は「穢れなきモノ」を選択的に連れて行ってるという推測よ。穢れには色々な意味があるけど、そのひとつに「性体験の有無」があるの。八尺様の狙う人物が穢れなき人物であるなら、あなたはきっと童貞に違いないと予想したわけ……間違ってないわよね? あなた童貞? 童貞でしょ? 童貞よね? それも八尺様に魅入られるぐらいの選びぬかれた真性童貞なんでしょ?」
「もう勘弁してくれよ……」
「ハッキリと答えなさいよ! 童貞かどうか! これは大事なことなのよ!」
「どどっ…童貞で」
「ぷっ」
「鼻で笑うんじゃねぇよ!」
「まぁ分かりきってたけどね」
「だったら、人のハートを抉るなっ!」
「念の為に確認しただけよ。ということで、あんた童貞を捨てなさい。今すぐに」
「はぁ?」
「童貞を捨てるの。つまりあなたが穢れちゃえば、八尺様にとってあなたは魅力的じゃなくなるでしょ?」
羞恥に頬を染める冥子が、マジなツラして、ラリったことを言ってくる。
今すぐ童貞を捨てろ。
死にたくなければ、俺が大事に守ってきた童貞を捨てろ。
今すぐ童貞を捨てないと死ぬかもしれない、手遅れになってからでは遅いぞ――と。
「あんた、彼女とかいないの? どーせ居ないでしょうけど」
「そうだよ! どーせ居ねぇよ! ドチクショウめ!」
「それは困ったわね……こんにゃくとかでも、童貞は捨てられるかしら?」
「こんにゃくで童貞を捨てられるかの議論とは別で、その行為をするには人として大事な何かを捨てる必要があるな……」
「うん。こんにゃくで童貞を捨てるのにチャレンジすれば、マジでキモい的な意味であんたを汚せそう……モチ神道における「穢れ」とは別でね」
「お前は俺に、八尺様すら避ける救いようのないド変態になれというのか……」
「ええ。だけどこんにゃく程度じゃ物足りない気が……なんというか予想の範囲内で、変態レベルがイマイチ足りない気がするのよねぇ……そうだ、あんたはカップヌードルオナ」
「もう勘弁してくれ……どうせ死ぬなら、綺麗な体のまま死にたい」
「諦めるんじゃないわよ。人が必死に考えてあげてるのに。つまり簡単よ。童貞を捨てればいいの。だから捨てればいいじゃん」
「理屈では分かるが、そう簡単に捨てら――」
「わたしで」
シュルリ――と。
緋色の袴(はかま)をほどきながら、金髪ツインテールの幼巫女は言った。
「待ってて。いま脱ぐから」
そうか。
俺はいま全裸だから、こいつが服を脱ぐだけでスタートできる……てっ!?
そういう問題じゃないから!
「待て、早まるな!」
「女の子の服は自分で脱がしたい? それとも上は着たままがいい?」
「お前はドコで、ンな複雑な男の心理を学んだんだよっ!? 服は脱がしたいとか上は脱がないとか、実は詳しいだろオィ!?」
「ほら……あたしって普段は女子高に通ってる現役のJKじゃん」
「うん、初めて聞いた」
「でね。女子高ってそういう知識だけは無駄に集まるのよ……聞いたことあるでしょ? 男の知らない女子高の実態」
「噂だけなら……」
「たぶん噂そのまんまよ……シモネタのキツさと頻度は共学の比じゃないし、この季節の教室の匂いとか凄いんだから……足の匂いと、制汗スプレーの匂いと、安っぽい香水の匂いと、2週間ぐらい洗ってないカビ生えた体操服の匂いが混じって」
「もういい、気分が悪くなってきた」
「男がいない環境だと、女ってドコまでも堕落するのよね……というわけで」
――パサリ、
巫女さんのトレードマーク、緋色の袴(はかま)が落下する。
ピンクのリボンが付いた下着が丸見えになる。
「ったく。ジロジロ見ないでよね……」
上着の裾を「ギュッ」と握りながら、頬どころか耳まで真っ赤に染めた冥子は、
「わたしも……まだ…なんだから……乱暴にしないでよね」
「ゴクリ……」
飲み込んだツバが喉を流れる。
タラリと、脇の下に変な汗が垂れる。
空気の流れに乗るのは素敵だが、大事な理性を失ってはいけない。
無表情を演じる俺は、
「――自分をもっと大事にしろ」
「なによ……いくじなし」
理性を抑えながら言った。
心臓はドキドキしっぱなし、股間は反逆しっぱなし。
きっと俺は、この選択ミスを嘆いて、これから何度も枕を濡らすだろう。
だけど、色々やばいから!
「なあ、他の方法はないのか?」
「ないこともないわ。それも信頼と実績のある方法が」
最初から、それを選べ。
俺の心の叫びは、幼巫女がボソリと呟いた。
「女の子に恥をかかせて……サイテー」
という声で、見事にかき消された。
「消極的な方法だけど、結界を貼ったわ」
二階の一室に、俺と冥子はいた。
即席の結界にでっち上げられた部屋は、対八尺様用のバリアーが貼られているらしい。
四隅に盛り塩が置かれて、全ての窓が新聞紙で目張りされている。
「トイレは、これで済ませること」
どこから入手したのか、冥子は白鳥を模したおまるを指さす。
「マジかよ?」
「マジよ。もうすぐ日が暮れるし、出入口は封印するし。あとこれ」
古ぼけた御札を、一枚渡される。
「もしもの保険よ。これでも握りしめて、朝が来るまでガタガタ震えてなさい。この部屋の中でね。もし部屋から出たら――八尺様に連れてかれる。ようするに死ぬから」
淡々として、瞳が全然笑ってないのが、怖かった。
「大丈夫よ。八尺様の力は未知数だけど、今からあんたが籠城する部屋は強固な霊的結界に守られた要塞に改造済みだし、仮に八尺様の力が結界より上でも、その御札で朝ぐらいまでなら持つと思うから」
「もし、結界が持たなかったら?」
「……善処するわ。繰り返すけど、明日の朝までここから出ちゃダメ。窓も開けちゃ駄目だし、ふすまも開いてはダメ。誰がなんと言ってもね。トイレはおまるで済ませて、ひたすら朝が来るまでガタガタ震えてるの。話はここまで。あたしは封印の仕上げをするわ」
そう言って、冥子は部屋の外に出る。
彼女の言う封印の仕上げとは、部屋の出入口を封鎖することなのだろう。
ビリビリと、ガムテープが引き出される音を響かせながら、念を押す用に冥子は言った。
「朝が来るまで、扉も窓も絶対に開けないこと。開けたら命はないと思いなさい」
テレビは見ていいと言われたので、特に面白くもないテレビを眺めていたのは覚えている。
退屈なテレビ番組は、疲れきった俺を眠りに誘ったようだ。
ふと目を覚ませば、あたりは暗く真夜中だった。
テレビ画面は砂嵐をざぁーざぁー映していた。
どうやら、寝オチしていたらしい。
寝ぼけた頭で思い返せば、今日一日だけで色々な目に遭遇した。
たまたま立ち寄った公園で背の高い美少女に魅入られたら、それが人の命を奪うバケモノ「八尺様」で、金髪ツインテールの幼巫女にどつかれ、無事に童貞を守りきった俺は、死ぬかもしれない夜を過ごしている。
冷静に考えれば、今日の出来事はとても信じられない。
アナログテレビが地デジに移行するような時代に、人の命を奪うバケモノが存在するなんて。
だけど、八尺様はいる。
そうでなければ、爺ちゃんの慌てぶりも、冥子の暴れっぷりにも、説明がつかない。
ドッキリにしては手が込んでいるし、都会モンに対する嫌がらせにしては本気すぎる。
そんな事を、俺がぼんやりと考えていたら、
――コン、コン。
誰かが、窓を叩く音――
反射的に、窓の方に視線を向ける。
新聞紙が貼られていて、外を見ることは出来ない。
見えないことが、逆に想像をかきたてる。
今も続く「コン、コン」に合わせて、窓のサッシがカタカタと震えている。
風で揺れるのとは異なる、窓ガラスを手で叩いているような震えだった。
――コン、コン。
俺のいる部屋は、爺ちゃん家の二階にある。
二階の窓が、誰かに叩かれるはずがない。
もちろん、はしごか何かを使えば叩けなくもないが、それはあくまで可能なだけ。
普通はやらない。
――コン、コン
……ガタッガタッ。
「ひっ!」
情けない悲鳴、無意識に出た、窓ガラスが、台風の時より、ガタガタと、激しく揺れる。
まるで、誰かが揺さぶっているみたいに。
『ぽぽっ…ぽっ』
あの声だった。
ガタガタと揺れる、窓の外から聞こえた。
恐怖に駆られて御札を手に取るも、指の隙間から風化した紙がボロボロと崩れ落ちた。
もしもの保険と言われた御札は、端からチリチリ燃えていたのだ。
線香みたいに赤々と燃えて、徐々に灰になる。
だけど、不思議とオレンジ色をした部分に触れても熱さは感じない。
これは燃えているんじゃない。
壊されてるんだ。
『ぽぽぽっ……ぽぽっ』
――ガタガタッ
――ドンドンッ。
窓枠の震えは、止まらない。
握りしめた御札は、もう半分が灰になっている。
ふと部屋の四隅に盛られた塩に目をやると、山盛りの頂上が黒く変色しているのが見えた。
俺を守る結界は、八尺様に壊されつつある。
御札は半分ほど燃え尽きて、部屋の四隅に安置された伯方の塩も黒く変色した。
果たして、結界は朝まで持つのだろうか。
もしも結界が破られたら……俺はどうなってしまうのか。
考えると怖いことばかりが浮かんできて、俺は情けないことに泣きだしてしまった。
今すぐに、こんな場所を逃げ出したい。
でも、結界の外に出たらどうなるかは、今もガラスをドンドンッ叩く音を聞けば分かる。
もういやだ、だけど何も出来ない。
走り出したい衝動を押さえるように、ジリジリと灰になっていく御札を握り締めた。
窓の外から、声が聞こえてくる。
『――今すぐ助けるワ、ここを開ケて』
それは冥子の声……助かった。
「分かった、いま開け……」
今の声は。
廊下ではなくて……窓の外から聞こえてきた。
『あたシが来たカラ大丈夫、今すぐ窓ヲ開ケテ』
確かに冥子の声だ、でも微妙にアクセントが狂っている。
なんというか、録音した肉声を機械で合成してデッチ上げたような、どこか違和感のある声だった。
『――どウシたの、早く開ケナさいよ』
「開けたら死ぬわよ」
冥子の声が、同時に響いてきた。
出入口がある廊下側と……八尺様のいる窓の外から。
「開けたら、そいつ入ってくるわよ」
その声は、廊下側から聞こえてきた。
「冥子か。でも」
「トンでもない妖気を感じて、部屋からガタガタ異音、あんたがすすり泣く声、話しかけていないのに誰かに対して「今すぐ開ける」とか言い出せば、どんなアホでも何が起きてるか気づくわよ」
『――開ケテ、窓ヲ開けて』
廊下と窓から、ステレオ別音声で冥子の声が聞こえてくる。
廊下の冥子には、窓の冥子の声は聞こえていない。
「何度も言っちゃうけど、朝が来るまでガタガタ震えてろ――それがあんたに出来る唯一のことで、あんたが選べる最良の選択よ。もし万が一にも八尺様が結界をブチ破ったら、その時はあたし自らふすまを破って……どうにかするわ。よーするに、あたしはいつでも結界を破ることが出来る。破ることが出来ず、中の人に『アケろ』とお願いしてくるのは――誰か、分かるわよね?」
『――ネぇ、開けテ、開けなサイよ、入れナイでしョ』
新聞紙で目張りされた窓が、冥子のふりをした何者かの声に合わせてガタガタと震える。
『――今すグ、窓ヲ開けテ……まドを開ケろ。アケロ、アけろ、あケろ、ぽっ…ぽぽぽっ』
窓の外にいるのは、やっぱり冥子じゃない。
正体を暴露した八尺様は、しばらく窓枠を叩いていたが。
徐々に叩く力が、ドンドンからコンコンへと弱まり。
『ぽぽぽっ…ぽぽっ』
やがて、窓枠は叩かれなくなった。
「……ふぅ。ひとまず大丈夫。八尺様の妖気が消えたから。だけど朝が来るまで結界は保持すること」
廊下側から、これはたぶん本物な冥子の声が響いてくる。
不安で誰かと会話したい俺は、冥子に小さな疑問をぶつけてみた。
「なぁ冥子。八尺様って、なんなんだろうな?」
「さあね。タダモンじゃないのは確かだけど――最初に断っとくわ。これはあたしの推測ね。八尺様は忘れられた神の一種、江戸時代や平安時代じゃなくて、弥生時代や縄文時代の――まだ生贄の儀式なんかが平気で行われていた時代に、自然信仰が高じて神格を持った存在……それが八尺様のルーツだと思う。八尺様は、きっと忘れられたんでしょうね。人々から信仰を失って、誰にも祀られなくなって、やがて記憶から消えゆく存在で、それが我慢できなかった。だからこそ、自ら畏怖される存在になろうとした。何年かに一度だけ人の命を奪うのに大きな意味はなくて、ただ『自分が忘れられなければいい』ぐらいの目的だと思う。よーするに、あたしら人間に定期的にちょっかい出して『自分はここにいるぞっ』て、自己アピールしてるだけなのよ」
ヒトに忘れられた瞬間、存在も消える。
冥子が語るに、妖怪や神はそういうものらしい。
「よーするに、八尺様の目的は自己アピールで、あんたの命が欲しいわけじゃないの。さっき感じた妖気だけど、あれガチで神レベルの霊圧だったもの。あんなのが本気を出したら、んなちゃちぃ結界なんて瞬殺よ、瞬殺。どっちにしろ、地蔵の結界の外部に出る時はガチで殺しに来るハズ。それが八尺様の習性みたいだし、甘く考えない方がいいわ」
「なるほどな。あと冥子」
「なによ、ドチビ」
「どうしてお前は、俺なんかに付き合ってくれるんだ?」
それは、もうひとつの聞きたいことだった。
基本的に冥子と俺は他人だ。
見ず知らずの俺に命をかける義理なんてないハズ。
「あんた、まさか覚えてないの?」
「ん?」
「ったく……昔ね、あんたとあたしは夏祭りで会ったことがあるのよ」
「夏祭りで会ったことが?」
そういえば、昔に夏祭りで地元の子供達と派手なケンカをしたことがある。
近所のガキ大将が、同じクラスの女の子の傘を盗んで、
それを知った俺が、女の子の傘を悪いガキ大将から取り戻してやろうと思い立ち。
正義感から決戦を挑んで……
「まさか、あの時の」
「ようやく思い出したの、おバカ」
ふすまの向こうから、不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「ったく。わたしはあの時のことを今でも覚えてるし、ずっと、そのぉ、あのねぇ、はにゅゅゅぅぅ!」
「はにゅぅ?」
「なっ…なんでもな……ぁぁっ、もう……でりゅ」
廊下の方で、何やら怪しい動き。
何かに耐えているような、何かを抑えこむような、何かを必死で我慢して――
うん、だいたい予想できた。
だけど、それは言わないのがマナーの気がした。
でも、今は状況が状況だ。
手遅れになったり、悲惨な間違いがあっては困る。
高度な判断のもと、俺は冥子に言った。
「お前、トイレ我慢してるのか?」
「ギギギ」
沈黙と歯ぎしりが、俺の推測が正解なのを告げていた。
ふすまの向こうにいる冥子の姿は見えない。
きっと瞳に涙を浮かべながら、足をピッタリ閉じてモジモジしてるに違いない。
俺は言った。
「早く済ませてこいっ」
「クソ馬鹿……あたしがトイレに行ってる間に八尺様が来たらどうするのよ……あいつがマジになったら、ンな結界なんて速攻で潰されるのよ……はぅぅぅ」
「それは分かるが、夜明けまで、だいぶ時間があるぞ?」
「んなの……気合と根性で耐えてやる」
「推定であと4時間ぐらいだな」
「んみぃ……ゥ!!」
冥子の戦いは、それから数十分に渡って続いた。
最初は「妙な意地を張るな」「努力のベクトルが間違っている」「俺は大丈夫だから、お前はトイレに行け」と急かすも、ふすまの向こうの冥子は言葉のキャッチボールを放棄して「ぁふぅぅっ」「ひっぐ…ひぐ」「もぉ…らめぇなのぉ」と口走りだしたので、必然的に俺の口調も荒くなり「手遅れになってもしらんぞ!」「走れ冥子!」「訪れるのは絶望だけだ!」と命令するも、ふすまの向こうからは「動いたら出りゅのぉ……」「もほぉ……限界ぃ」「ぅぅぅ……えっぐゅ」と、なんかガチでヤバそうな声が聞こえ出したので、俺は優しく「まだ耐えられる?」と問いかけ「うぐ……にゅにゅん」という肯定らしき声が返ってきて、10秒ぐらい待ってから「まだオッケー?」と問いかけると「ひっぐ……えっぐ」泣きべそが返ってきて、今度は15秒ほど待ってから「もうダメ?」と聞くと、ふすまの向こうから「……うん、ここでだす」覚悟を決めた冥子の決意表明が返ってきたので、俺はできるだけ無感情に「廊下に花瓶が飾ってあったから使え」とアドバイしてやった。
――それから数分間。
――ふすまの向こうで、ソレは行われた。
――音で推測するしかないが、まあいいだろう。
――何も見ていない。
――ふすまの向こうで何が起きたのかは知らない。
――それでいいじゃないか。
気づけば、外でスズメがちゅんちゅん。
――朝が来た。
もういいだろうと、俺が結界の張られたふすまを開くと、
「うぅぅ……」
瞳にたっぷり涙を浮かべた冥子が、俺のことをギロリと睨んできた。
傍らには花瓶があるが、その中身を見てはいけない。
「おはよう……」
平和な光景に安堵した俺は、人生で最恐の夜を乗り切ったのを悟った。
1階に降りると、ばあちゃんが「よかった、よかった」と、涙を流してくれた。
爺ちゃんは「車に乗れ」と、短く告げてきた。
辺りに漂うピリピリとした緊張感は、脱出作戦の始まりを示唆していた。
庭には、昨夜の内に集まっていたのか。
親父を始めとした親戚たちが、心配そうな表情で待っていた。
よく顔を知っている人から、なんとなく覚えている人に、まったく記憶にない人まで。
きっと、この場にいる全員と、濃い薄いの違いはあれど血縁関係なんだろう。
普段つながりを感じなかった親戚同士の暖かさに、俺は不覚にも涙が出そうになった。
「皆さん、ありがとうご……」
自然と口から出た、お礼の言葉が詰まる。
集まった親戚の中に、居るはずのないヤツがいて。
そいつは、清楚な顔つきで、白いワンピースを着て、細身でスレンダーな体型、腰まで伸びた黒髪が印象的で、麦わら帽子をかぶった、やたら背の高い美少女。
親戚の中に、八尺様が混ざっていた。
「ぽっ…ぽぽぽっ」
つかつか、と。
親戚に紛れた八尺様が、俺に歩み寄ってくる。
その手には古ぼけた傘があり、口からは「ぽぽ…ぽっ」と。
「あっ……ぁ」
恐怖で震えて、喉からまともに声が出ない。
そんな俺を、周りの親戚たちは、不思議そうに眺めている。
「ぽぽぽっ…ぽぽ」
八尺様は、俺の真正面で止まり。
俺の顔を確認するように覗きこんでから、キュートなボイスで語りかけてきた。
「ぽぽ、ぽぽぽっ……ポン太くんですよねっ!」
「はい?」
日本語を喋れる? 八尺様が?
恐怖が吹き飛び、代わりに訪れるのは疑問符ばかり。
「めっ…冥子」
「なによ?」
「コイツ……ははっ八尺様」
「はぁ? なにバカなこと言ってんの? 彼女はあんたの遠い親戚のひとりでしょ? ついでに、あたしと同じ女子高に通うクラスメイトで、小学校から同じクラスの親友」
「なん…だと……?」
いや間違いない。
彼女は、昨日公園にいた八尺様だ。
でも、俺が公園で見た八尺様は「ぽぽぽっ」しか喋らず、気持ち悪い笑みを浮かべて……
――あれ?
なんか俺の前にいる八尺様、頬を赤らめて涙を浮かべてるんだが?
泣きそうな八尺様に反応して、冥子が小声で囁きかけてくる。
「おバカ。なんであんたは地雷を踏むのよ。これはもう一種の才能ね。彼女、背が高いのがコンプレックスなの。それをよりによって八尺様呼ばわりとか……さっさと謝りなさい」
「だけど、昨日公園で……」
「女を泣かして反論すんじゃない、デリカシー皆無のチビ男。ただでさえ無駄な時間はないのに……ったく、ぶつぶつ」
「でも……そうだっ! ねえ、キミって昨日公園で……そう! 俺たち、昨日公園で会ったよね?」
追い詰められた俺は、あろうことか八尺様に助け舟を求める暴挙に出た。
俺に質問されて、明らかにテンパる八尺様は。
頬を染めて、汗をダラダラ流して、
「は、はいっ! 確かに会いました! ききっ昨日公園近くを散歩していた時、ぐっ偶然に見かけちゃって……それより」
ほら、ちゃんと日本語喋れるじゃん。
確認すべきは、そこじゃない気もするが、言葉で意思疎通が出来ると安心してくる。
日本語オッケーな八尺様は、俺の反応をオドオド伺うように、やや遠慮がちに聞いてくるのだ。
「ぽぽっ…ポン太くんですよね? 小学校の頃、夏祭りで一緒に遊んでくれ……ハッ! 違うんですかぁ!? ちちっ違うならゴメンナサイ! 昔お世話になったポン太くんにソックリで……そっそれと、ぽぽぽっポン太くんは、この家に旅行で来たって言ってたし……それに、面影も記憶に残ってるポン太くんソックリで……ま、間違いないですっ! あなたはポン太くんですっ! ぽぽぽっポン太くんなんです!」
「……ミスターポン太。あたしに詳しい説明をプリーズ」
「すまん。説明しようにも分からねぇんだ……」
ひとりで勝手にヒートアップして、腕をブンブン振りながら、たまに噛みつつ、いまいち要領が掴めないことを語りだす、白いワンピースの八尺様……ではないらしい、やたら背の高い美少女。
どうやら、当時小学生の俺は、彼女に何か恩を売ったらしい。
うっすらとしか覚えていないけど、確かに夏祭りを見て回った記憶はある。
あと、ポン太くんは当時放映してた「タヌキ忍者 ポン太くん」というテレビアニメの主人公で、夜店でお面を買ってもらった記憶がある。
そのお面を装着して、ポン太くんになりきった俺は、
「タヌキから人間に戻るため、困ってる人を百人助けるんだ!」
と、
地元のガキ大将に傘を盗られて泣いていた、同い年ぐらいの女の子を見つけて、
………
……
…
「――ッ! 思い出した! あの時の!」
「は、はいっ! ぽぽぽっポン太くんに助けて頂いたのが、わたしなんですっ!」
「ははは……そういうことか」
全てを思いだした。
当時の俺はイタイことに、お面を被って、アニメキャラになりきっていた。
そして、
女の子の傘を奪った、ガキ大将。
ここら一帯をシメる『女ガキ大将』だった、当時小学生の鶴屋冥子に――俺はヒーロー気取りで戦いを挑んで、ズタボロのフルボッコにされたのだ。
だから、たぶん。
昨晩に冥子が言いかけるも、尿意で中断した「ずっと、そのぉ、あのねぇ」の先は、
「冥子……」
「うん……あの時はしょーじきスマンかったわ……」
顔の形が変わるまで俺を殴った、お詫びがしたかったらしい。
「それとね、あの戦いがキッカケで、サッキーと仲直り出来たから……」
「そっちの事情は知らん……」
ちなみに当時のバトルは、俺の戦略的勝利だった。
女ガキ大将の冥子にボコされても、男の根性で傘だけは奪い返したのだ。
しかし、ケンカの巻き添えを食らって、女の子の傘は大破。
俺の顔は、冥子の拳を使った整形手術で酷い有様。
女子とケンカして負けたのが、あまりにカッコ悪かったので。
俺は、ポン太くんのお面を被ったまま、女の子にぶっ壊れた傘を届けて、弁償代わりに無傷だった自分の傘を「お前の壊れてるから、これ使え」と差し出した。
別れ際に女の子から名前を聞かれるも、まさか本名を名乗れるはずもなく。
とっさに名乗ったのが――ポン太くん。
つまり、
「昨日公園で、ぽぽぽ…って、言ってたのは?」
「い、いきなりの再会で驚いちゃって……口が回らなくて、ポン太くんって言えなくて……」
「ぽぽぽ……っか。あとアレ。ぎこちなくニタァァ~って笑ったのは?」
「えーとですね、なんかポン太くん「わたし見てヒいてるなー」って……ほら、まずは安心してもらおうと、精一杯の笑顔を浮かべようとしたら……ああいう風に」
「すげぇー怖かったよ……あの笑い方」
「うぅぅ。自分でも何か間違ってると思ったら、急に恥ずかしくなって……気づいたら、なにも言えずその場から逃げちゃって……でも、あの時のお礼と借りた傘を返すのをどうしてもちゃんとした形でしたくて……昨日もあの後、この家に来てるハズと、玄関まで来たんですけど……家の周りで予行演習しようとして「ポン太くんですよね? 昔お世話になりました。借りていた傘をお返しします」と言おうとしたら……やっぱり緊張して「ぽぽぽっ」から先が、どうしても出てこなかったりで……恥ずかしくなって垣根を揺すったりして、でもチャイムを鳴らせなくて」
「なあ、昨日トイレで用を足してた時、八尺様が出たよな……」
「出たわね……あたしは妖気を感じなかったけど」
「あと、垣根の向こうで、身長180cmぐらいある、麦わら帽子をかぶった女が、垣根ゆすりながら「ぽぽぽっ…ぽぽ」って呟いていたよな?」
「その声ならあたしも聞いたわ……まさか、テンパった知り合いの声だとは思わなかったけど」
「つまり、八尺様の正体は?」
俺が問いかけると。
彼女は照れくさそうに、
「てへっ、勘違いさせちゃいました?」
かわいらしく笑って、ぺろっと舌を出した。
「……解散じゃな」
爺ちゃんのひとことで、親戚一同は安堵の溜息を漏らす。
やれやれフェイスの親父が、俺の肩をポンポン叩きながら言った。
「死なずに済んでよかったな。お前には話してなかったが、俺の同級生もひとり八尺様に魅入られて死んでるんだ。まあ、こういうオチで良かったよ。うん」
「安心するには、まだ早いわよ」
親戚一同のざわめきの中で、その声だけはクリアに聞こえた。
シーンと静まり返った親戚の中で、爺ちゃんが代表して重い口を開いた。
「しかし鶴屋さん。先ほどの話を聞く限りだと、八尺様の正体は」
「ええ。コイツが公園で出会った八尺様は、彼女で間違いないわ。そうよね、サッキー?」
「うん。昨日に公園でポン太くんに出会ったのは、わたし」
「へー。サッキーって呼ばれてるんだ」
「えへへ。わたし、本名が桜(サクラ)なんです」
「そこ。二人で和むの禁止。あんた、八尺様に命を狙われてる自覚があんの?」
「だから、八尺様は」
「反論も禁止。聞かれたこと以外は口を慎みなさい。サッキーに聞くけど、公園から逃げた後、ここに来てぽぽぽ…っとか、垣根の前でくだらない予行練習してたのよね?」
「うん。ぽぽぽ…っから先のポン太くんが、恥ずかしくて言いづらくて」
「オッケー。その場には、あたしも居合わせてた。確かにあの場で、ぽぽぽ…っという声を出していたのはサッキーよ。サッキーの身長、ついに180cm突破したんだよね? 見た感じだと、垣根の高さは170cmぐらいだから、あそこに立てば頭だけが見えるわ。うん。これも辻褄があう。だけど、あんたが公園で八尺様を目撃した時、たしか『八尺様が公園の入口にワープした』とか言ってたわよね?」
「ああ。それがどうした?」
「そこが重要なのよ。公園の生け垣の上に麦わら帽子だけを覗かせた背の高い女が、ぽぽぽ…っと変な声を響かせながら、生け垣沿いを歩いて見えなくなった。そう証言してたけど――ありえないのよ。あそこの公園、生け垣の高さは2mより上なのよ? つまり、身長180cmのサッキーが生け垣の向こう側を歩いても見えるはずがない。次は、サッキーに質問ね。昨日の昼間、ここへ来たのは分かったけど、まさか深夜にも、お宅訪問してないわよね?」
「してないよ」
その返事で、俺の顔から血の気が引いた。
八尺様の正体が分かって安心しきったのか、すっかり忘れていた。
つい数時間前に起きた、とんでもない恐怖体験を。
淡々とした口調で、冥子が問いかけてくる。
「さて問題です。昨晩あんたに情けない悲鳴を上げさせたのは――なんでしょう?」
冥子のチェックメイトに、いい返事が浮かんでこない。
そう、八尺様に魅入られた、俺の戦いは。
まだ、終わっていない。
「八尺様の見た目は証言によって変わるけど、共通するのは頭に何かを被った背の高い女で、その時代にあった服装をしていること。これは推測だけどね、八尺様が誰かを魅入ろうとする時「たまたま近くにいた帽子をかぶった女性の姿を模倣している」のだとしたら? たぶん、あんたが公園の生け垣越しに見た麦わら帽子。ソイツがホンモノの八尺様だったのよ。その八尺様は、たまたま近くを歩いていた、麦わら帽子をかぶって白いワンピースを着たサッキーを模倣していた。そして八尺様が立ち去った後、サッキーとあんたが公園で鉢合わせた。これで全てのピースがつなが――」
冥子の推理が炸裂して、いま核心に迫ろうとしていた。
まさに、その時だった。
『ぽぽぽっ…ぽぽ、ぽっ……』
その不気味な声は、何の前触れもなく聞こえてきたっ!
「目を閉じてっ!」
冥子が叫び、俺の顔に手を押し当ててくる。
「絶対まぶた開くんじゃないわよ。今回は結界を抜けようとしてるからガチ、油断したらマッハで連れてかれると思いなさい……集まった皆さん! 今すぐ出発して地蔵の結界を抜けますっ! 大至急、車に乗り込んでください!」
暗闇の中で、冥子の指示が聞こえる。
目を閉じて何も見えなくても、ジリジリとした太陽の熱気と、みんなに緊張が走ったのは感じ取れた。
そして、
『ぽっ…ぽぽぽ、ぽ……』
あの声が近づいてくる。
魅入った俺を、どこかに連れ去るために。
「ぁ……ぁぁ」
「昨晩もお世話になったお札よ。叩き売りでもン百万にはなる超貴重品の最後の一枚。握ってブルって目を閉じてなさい。さぁラストアクションの始まり! 車に乗り込んでトンズラするの!」
冥子に押し付けられた紙切れ。
その紙切れは、握るそばからボロボロと崩れていく。
「サッキーも乗り込んで! うん、もう来てるわ。サッキーには見えないと思うけど、すぐそばに……って、なによこの反則級の妖気っ!!? 濃度がありすぎて、まるで水の中を泳いでるみたい! 扉を閉めて! 焦らず安全運転で車を出して」
冥子に手を引かれて乗り込んだ、ワンボックスカーのエンジンが始動して動き出す。
どうやら俺は、車内の真ん中に座らせられ、
助手席に冥子、隣は爺ちゃんと桜さん、運転手は親父らしい。
「ここが正念場ね」
緊張を孕んだ声で、助手席の冥子が呟いた。
その時、
――コツコツ、
窓ガラスを手で叩く音が聞こえ、爺ちゃんが「うっ」と声を漏らす。
八尺様の姿や声は他の人には感じられなくても、窓を叩く音は聞こえてしまうようだ。
「追いつきやがったわ……アイツ、車と併走してる」
助手席からの不吉なつぶやきに、横に座っている桜さんが、
――ひしっ。
俺の腕を、ぎゅっと握りしめてきた。
きっと彼女も怖いんだろう。
とんでもないことに巻き込んでしまった。
――コツコツ、ドンドンッ
窓を叩く音に混じって、車全体がゆすられる衝撃が加わる。
車が揺れるたびに、横の桜さんが「きゃぁ」と小さな悲鳴をあげる。
「安全運転、そのままっ」
冥子の出す指示にも、どこか焦りが混じり始めた。
窓を叩く音は激しさを増していき、走行中の車内は、不規則にゆさゆさと揺さぶられる。
俺の恐怖は、とっくに臨界点を超えていた。
そのせいだろうか。
あれほど念を押されていたにも関わらず、俺は少しだけ目を開いて。
そして、見てしまった。
『ぽぽぽっ、ぽぽ……』
景色が後ろへ流れる窓の外に、同じ速さで追従する白いワンピースを。
窓から見えるのは、白いワンピースのお腹の高さぐらいまで、
そこから上は、ウインドウの外にあって、見ることは出来ない。
俺は数秒ほど、大股歩きで車と並走している、ソレに目を奪われていた。
やがて、八尺様が車内を覗きこむような仕草をし始めて、
――ぬぅ、と、
死体みたいに灰色の腕が、車のウインドガラスを、まるで水の膜を突き抜けるように。
「うわっ!」
俺は目を閉じた。
目を閉じる直前、視界に入ったお守りは、もう半分ぐらいが灰になっているのを見た。
「冥子! あいつ入ってきた! 車内に!」
なりふり構わず叫ぶ。
だって、
八尺様は、
もう、
俺の耳元、
わずか数センチの場所で、
『ぽぽぽっ、ぽぽ、ぽぽぽ……』
あの声を、
出して
いるんだから……
「ダメだ、エンジンが止まる」
「慣性でいい、できるだけ前進して」
エンジンが止まって焦る親父と、それに指示を飛ばす冥子。
握りしめた指の中で、お札がボロボロと崩れていく感触。
真横ですすり泣く桜さんが、さらにいっそう俺の腕を握りしめてくる。
『ぽぽぽっ、ぽっ……』
「ぁぁっ……ぁ」
耳元で聞こえる声が、俺を恐怖で狂わせる。
限界点を突破した恐怖の前では、もはや悲鳴すら出てこない。
体はカチカチに硬直して、浅くて早い呼吸は止まることなく、汗がだらだらと垂れて、フル稼働する心拍音が、耳奥でバクンバクンと反響する。
『ぽぽぽっ……ぽぽっ、ぽぽ……』
首筋に、ひんやり冷たい指が当てられる感触――首を絞められてるっ!
間違いない! これは八尺様の手だっ!
冗談みたいにヒンヤリして、ゴムみたいにぬっとりとした、大きな指。
それが、俺の首を徐々に締めあげてくる。
「ぁっ…ぅ」
指の力は、まだ強くない。
だが、このペースで力を強められたら、すぐ俺の呼吸は止まる。
『ぽぽっ、ぽ…………――』
異変が起きた。
とつぜん、嫌な気配が遠のいていく。
耳元でハウリングする八尺様の声もプッツリと途切れる。
まるで、電源スイッチを切ったように。
俺の首を締めていた、不気味な指の感触もなくなった。
「あのね……ポン太くん。わたし、ずっとあの時のお礼を言いたかったの」
真横で、桜さんが震える声で呟いた。
「あの時のお礼?」
エンジンが止まり、ついに完全停車した車内で。
桜さんは、静かに語りだす。
「でもね、このままだと、お礼を言う前にポン太くんが連れて行かれそうだったから……わたし、八尺様に心の中でお願いしたの――ポン太くんの代わりに、わたしを連れて行ってくださいって」
「まさかっ!」
「うん……今わたしの横で笑ってる……八尺様が……ぽぽぽって」
「おバカ! 御札をサッキーに渡して!」
「おうっ!」
俺は素早く、桜さんの手のひらに随分と小さくなったお札を握らせた。
「車の外へ!」
ドアを開いて、桜さんを抱えて車外に飛び出す。
「あれが地蔵かっ」
八尺様を封印しているお地蔵様は、走ればすぐという場所に見えていた。
「走るぞ! 俺と一緒に」
「だめ……」
桜さんは、地面にヘたりと座り込んでしまう。
その首筋を見て、俺は愕然とした。
巨大な手のひら形のアザが、首を締め上げるように出来ていたから。
青黒いアザは、少しずつ濃度を増しているように見えた。
「担いで運びなさいっ!」
冥子の指示に我を取り戻して、座り込んだ桜さんを担ごうとする……が、背が高いだけあって重い。
だけど、それだけじゃ説明できない重さだ。
ふと、桜さんの足首を見ると、首筋と同じような巨大な手形が。
八尺様は、桜さんを逃がさないらしい。
「上等じゃねぇか……」
俺の中で、何かがプッツンと弾けた。
もう、自分はどうでも良かった。
今ここで動かなかったら、金輪際オトコを名乗る資格はない。
だから、やるべきことはひとつ!
俺は、心の中で八尺様に啖呵を切った!
――おぃ!
――聞けよ、デカ女!
――俺の代わりに、その女を連れてくつもりらしいな!
――だけど、俺を逃がしてもいいのか!
――最初のターゲットが、まんまと逃げ出しても構わねぇのか!
――へっ、気に喰わないだろっ!
――だからよ、今日は特別大サービスだッ!
最後のセリフは、自然と口から滑り出てくる。
俺は、見えない怪異に叫んだっ!
「俺の命もくれてやる! だからもう一度、姿を見せやがれ、電柱野郎っ!」
『ぽぽぽっ…ぽぽ』
視界が、いきなり白いワンピースで覆い尽くされる。
チクショウ!
コイツ、随分と近くにいやがったな!?
白いワンピースに麦わら帽子の八尺様が、二回りぐらい小さな桜さんの首を片手で締めて、もう片手で足首を押さえつけている。
「うっ……そ、そう両手が塞がってちゃ、俺は掴めねぇだろっ! そいつの首を絞めてる間に、俺は地蔵の向こうにトンズラしちまうぜっ!」
精一杯の挑発、八尺様に効くとは限らない。
だが俺の挑発は通じて、八尺様の両腕が桜さんから離れて、
「今だ、結界の向こうに!」
「うっ……うんっ! ポン太くんもはやく!」
地面に倒れていた桜さんが起き上がり、八尺様から狙われることなく真横を走り抜けていく。
「来いよ、デカブツ……オレは特上の朝飯だぜ……っ」
言葉だけは威勢がよくても、足はがくがく震えている。
詰め寄る八尺様に、俺はハッタリを込めた視線を向けた。
『ぽぽっ、ぽ……』
狙いを俺だけに見据えたのか、八尺様がゆっくり歩んでくる。
白いワンピースを着て、前髪で顔の大部分が隠れた姿は、呪いのビデオな映画に出てくる某怨霊を彷彿とさせるが、巨躯の生み出す威圧感は井戸幽霊の比でない。
俺の背後を走り抜ける桜さんの気配、八尺様が見えない皆は狼狽するばかり。
背後で、冥子が叫ぶ。
「――抜けたわ、早くっ!」
「おうっ!」
――バッと、後ろを振り向いて全力疾走。
走りだす直前、八尺様が大股で走りだすのが見えた。
逃げるやつを狙う習性か。
対峙した時とは違って、ヤツの本気を感じる。
だけど、お地蔵様まで30mほど。
本気で走れば、たった数秒の距離だ。
『ぽぽぽっ…ぽっ……』
後ろから、八尺様の声が聞こえてくる。
チクショウ、ヤツのほうが断然疾い。
このままだと、追い付かれる。
だけど、ゴールはすぐそこなんだ。
お地蔵様まで――
あと15m
『ぽぽっ……ぽっ』
八尺様の足音は聞こえない。
でも、気配で距離を詰められるのを感じる。
デカイだけあって歩幅が半端ないのか、鈍重な見た目に合わず俊敏。
頼む、間に合ってくれ。
全力疾走、生存への脱出、
お地蔵様まで――
あと10m
『ぽぽぽっ…ぽぽっ』
ヤバイ、すぐ後ろで声が聞こえた。
デカイ指が絡み付いてくる。
八尺様の指が、俺の首を締め上げるように――
「グゥ……」
ジワジワではなく、首の骨をヘシ折らん勢いだ。
「ガ……ハッ」
呼吸が止まるというより、吐き出る場所のなくなった空気が、喉を圧迫するような激痛。
……
…………ダメだ、薄れ行く意識、視野が暗くなる、
……
「ガツンと来るわよ! 男なら耐えなさい!」
冥子の声、脳天直下に衝撃。
眼前に火花が散って、飛びかけた意識が明瞭さを取り戻す。
視界の片隅には、見事にへし折れた名称不明なあの巫女棒を構える冥子――助かった。
立ち上がる、走りだす、あと数秒の距離、
お地蔵様まで――
あと5m
『ぽぽっ…ぽぽぽっ…ぽ』
結界のお地蔵様は目の前、たった数歩の距離
――あと少しで終わる!
最後の力で、走りぬけようとすると――ガシッ。
――足首を掴まれた!?
気づいた時には、転倒して地面を転がっていた。
もう立ち上がろうともせずに、這いつくばってお地蔵様まで進もうとする。
だが、信じられない馬鹿力で足首を引っ張られて、逆に八尺様の方に引き寄せられてしまう。
――チクショウ、ここまでかっ!
万策尽きた俺が、弱気なことを考えると、
「ポン太くん! これを使って!」
お地蔵様の境界に立っていた桜さんが、小さな紙切れを投げてきた。
風にヒラヒラと舞うそれは、すぐ目の前に落ちて。
俺は、勝利を掴んだ。
桜さんが投げた、勝利のソレを。
もう指の爪ほどに小さくなった御札を、俺はがっしり掴んだっ!
「へへっ、最高だ」
イケル
この御札なら
きっとイケルはずだっ!
根拠はない
だが、間違いない!
俺は、パッと後ろを振り返って
「しつけえんだよぉ、ストーカ女っ!」
振り向きざま、
渾身の右ストレート、
八尺様の顔面(ツラ)を、
起死回生の御札を握りしめた拳で――ブン殴った!
『ぽぽっ……』
効果は不明、だけど手応えはあった!
八尺様の声に、変化はない。
でも、俺の足首を掴む力が緩んで……振りほどく!
「早くこっちへ!」
桜さんが古びた傘を――
昔に手渡した記憶のある、子供用の傘を伸ばしてくる。
俺は無我夢中で、古びた傘を掴むと、
――ガシッ。
掴んだ傘ごと、桜さんに引きづられて、
生存のゴールライン、お地蔵様の結界を超えた。
「終わったの……?」
「ハァハァ……」
振り返ると、結界の張られた地蔵の手前に、
ぽつんと、
立ち尽くすだけの八尺様がいた。
手を伸ばすだけで、届くような距離にいる。
だけど、八尺様はお地蔵様の先にいる俺には触れようとはしない。
数秒ほど、俺と八尺様は見つめ合い。
『ぽぽぽっ…ぽぽっ……っ……―――― 』
特徴的な、あの鳴き声をひとつ
それだけを残して、八尺様の気配が薄れていく。
揺らめくかげろうみたいに、グニャリと輪郭をにじませたかと思うと。
すぅーと、
真夏の空気と混ざって消えてしまった。
これで、俺が八尺様に魅入られた話は終わる。
後日談になるが、俺の巻き添えで八尺様に魅入られた桜さんは一人暮らしを始めた。
結界内部にある自宅には、もう住めないし戻ることも出来ない。
実家から離れて暮らすのは、当然だった。
あの事件をきっかけに親しくなった俺と桜さんは。
その後、同じ大学に進学した。
今は彼氏・彼女という関係で、二人で仲良く同棲生活を続けながら学問に励んでいる。
これは、俺が魅入られたのか?
それとも、桜さんが俺に魅入ってしまったのか?
それは分からないが、俺と桜さんは今では恋人同士。
楽しく愉快な恋人ライフをエンジョイ中だが、手をつないで街を歩くのは苦手みたいで。
いつも彼女は、恥ずかしそうに頬を「ぽぽぽっ///」と染めている。
これで、後日談は終わり……に見せかけて。
実は、もうひとつ後日談がある。
つい先日のことだが。
爺ちゃんから、とある電話が来たんだ。
「八尺様を封じている地蔵様が壊されてしまった。それもお前の家に通じる道のものがな」
と。
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