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Act Wraith 作者:zyun

mission39



聞き覚えのある長閑なメロディに、ポツンと呟く猫女。
「ブランデンブルク協奏曲第3番、第1楽章……」
「だね。だから何って感じだけど」
真鍮製のドアノブを引く手に体重を預けて、早く中に入れとばかりに目で促す金髪美少女。
「バッハの曲だな」
「ほぅ。詳しいな帳……だが、今は……」
キィィ。青眼が仄白く光る。凛々しい表情を更に引き締める金髪の美男子。
「気をつけろ。この強力な障気は……恐らく四天王だ」
「の、ようね」
「……そうか」
ボッ。猫女の総身から白む蒸気が立ち昇る。
「昴流のかたき……断じて許すまじ」
「その調子だ帳、一気にケリをつけるぞ」
小悪党を狩るつもりなど眼中にない。だが、相手が四天王となると話は別だ。カブラ街を暗黒街へと貶めた許すべき黒幕、そして昴流を幽閉した忌むべき残賊ざんぞくでもある。
アンバーを一時的ショートに追いやった先刻の上空からの高出力パルスレーザー砲。帳の中では決して許されざる蛮行だった……だがそれでも、……アレは昴流の仕業だったと信じたい。
”……昴流”
先刻アンバーから聞かされた意味深長な台詞も気にはなるものの……旧友ともは今もまだ無事だと信じたい。地下にて健在だと信じたい。だが今は……目の前の「宿敵」を狩ること以外、他に何も考えられない。
「いいか帳。俺たちが背後から援護する」
「分かった……突入するぞ、ドアを開けろアリシアッ!」
「オッケィ! 頑張ってね帳ッ♪」
ギィィ。蝶番の軋む音を立てて重々しく開く鋼鉄製の大扉。その僅かな隙間をすり抜ける様にして一陣のくゆる熱風蒸気がドアの内部に突入する。
「出てこい、四天王!」
怒声を発して中に突撃するメス猫半獣人。転がり込んだ先は中央のやや突き出たステージド真ん中だった。待ち伏せらしき攻撃は無い。内部は勾配天井の薄暗がりの大空間が広がっている。
”……コンサートホール?”
1~2階吹き抜け構造の鉄筋造り。広さは床面積五百平米程度のやや中型のイベントホールだ。見渡す限りのスペースには客席が設置されており、数名の「観客」らしき何処か見覚えのある影が鎮座している。
”あいつら……まさか……”
その内の一人に帳は見覚えがあった。かつて帳と剣技にて死闘を演じた好敵手ライバル
”……リオン・シェラザード?”
間違いない。確かに昴流直属の忠実な家臣たちの姿が客席に並べられている。
”十鬼衆……どういう事だ?”
壁面に整然と並び立つ蛍光灯がホール内装や飾り付けられた調度品を絢爛に照らし、側面に設置された電動照明が綺羅びやかにステージ中央を彩っている。ステージ下方に設置された巨大スピーカーからは先刻のクラシック曲「ブランデンブルグ協奏曲」の録音演奏が緩やかに流れている。
「さぁ~皆様、お待たせ~致しましたッ!」
カッ! 謎の男のマイク音響と共に、転がり込んできた猫女に突如として真っ白なスポットライトが浴びせられる。
「うっ!」
眩い光を不意に浴び、両手で顔を覆いギュッと目を閉じるメス猫半獣人。
ガシャアンッ。突如天井から真鍮製の鉄柵が降り落ちてくる。
「チッ」
ステージという檻の中に閉じ込められてしまう猫女。ステージはたちまち外部から隔絶されてしまった。
「くそ、帳ッ!」
ゴンッ。鉄柵を殴り付けて歯噛みする青龍の傍らで訝しげに目を眇める朱雀。
「あの声は……」
スピーカーを通じて闊達な男の愉しげな声がイベントホールに流暢に響く。
「レディース・エーン・ジェントルマンッ☆」
ボシュッ! ステージ側面に設置されたスモークマシンが巨大な霧吹きスプレーの如く薄紅色に染まった白煙を噴き上げる。訳も解らず混乱する猫女。チラと見返った後方では、青龍とアリシアが険しい顔つきで周囲を慎重に窺っているのが微かに解る。
「そこを動くな帳ッ!」
青龍の低い叱責と共に、プシュッ。プシュッ。プシュッ。サイレントスナイパーライフルの乾いた銃声が帳の周囲に撒き散らされ、何者かを頻りに撃ちぬいている。スポットライトに目が眩んだままの猫女は状況が飲み込めぬままその場で硬直している。
「チィッ。ライフルが効かん!」
謎の男の謳う様な声がホールに燦然と反響する。
「イッツ・ア・ショウッターイム☆」
ジャララララ。ドラムのローリングがくぐもった低音を軽やかに刻む中、シャーン! シンバルがクラッシュ音を鳴り渡らせると同時に……カッ。ステージ全体がライトアップされ、その全貌を顕した。
「くっ!」
五感を狂わされたままの猫女はステージ中央で顔を覆ったままで、図らずも棒立ちの格好となる。
パッ! パッ! パッ! 舞台床面からはフットライト。側面からはフロントサイドライト。真上からはボーダーライトが煌々と灯りゆき、光量が一気に増した。
「サバイバァ~ル・ショォーーーウッ☆」
マイク音響が殺伐としたホールに活気を添える。
♪デデデデ♯デデデデ♭デデデデ♯ドッドッドッドッ♪
スピーカーから流れていた緩やかなクラシック曲が一転、テクノビートを随所に織り混ぜたノリにノッた大音響のディスコサウンドへと変化する。
「囲まれてるよ帳、早く蹴散らしてっ!」
喧しいダンスミュージックの最中に、アリシアのキンキンした鋭い叱咤が帳の混迷した意識を瞬時に呼び戻す。
「……ッ!」
はっと目を瞠る猫女。檻の中。ライトアップされた華やかなるステージ中央。全裸のメス猫半獣人は、ナイフや刀剣、チェンソーなどの様々な凶器を携え、今まさに躍りかからんと身構える不気味なマネキン人形達に四方を囲まれていた。

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