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北苑中学校シリーズ

水 夢  ( す い む )

作者:藤沢みや











『恋をしてはダメよ』
 水泳部に入って、四百メートル自由形の正選手に決まった時に、顧問の清崎先生が言った。










 静かな水面に、波紋が広がる。
 響くのは、広いプールの中、汀が奏でる水音だけ。
 コースの端に手をついて、頭を振る。
 ビニールのキャップに覆われた頭は少しだけ雫をばらまき、体から水滴が零れ落ちる。
 ―――今ので十。
 北苑市立北苑中学校のプールは西三せいさん大会が行われる碧中学校の五十メートルプールと違って、一般的な二十五メートル。
(どうして、市の五十メートルプールは閉鎖されたんだろう)
 溜め息を吐きたい。
 杉原汀は四百メートル自由形の正選手だ。
 昨年の中学一年生から選手。
 高学年の三年生だからといって、タイムがよくなるわけじゃない。水泳は泳ぎ込んだ経験プラスαが求められる。
 決して体格が良いからといって選手になれない。
 身長なんかじゃタイムは変わらない。
 競われるのはコンマ一秒の世界。
 日頃から西三河地区大会である通称西三大会の会場となるような五十メートルプールで泳ぎ込んでいた方がいいに決まっている。
 この夕闇の時間、汀以外の水泳部員は既に帰宅していた。
 なぜか顧問の清崎は、汀にだけ「追加で千」と言うことがある。千メートルの追加。二十五メートルプールを往復して五十メートル。千メートル泳ぐためにはこのプールを二十回往復しなければならない。
 男子も女子も帰宅をして、普段なら狭く感じる広いプールをひとりで泳ぎ続ける。
 1コースから、往復する度にコースを移動して泳いでいく。これを水泳部ではサイコロ泳ぎという。
 1、2、3、4、5、6、7、8、7、6。
 汀は5コースに移って泳ぎ始める。
 だらだらと泳いでいても練習にはならない。
 だが、顧問の思惑のわからない自主練習は戸惑うだけで、やる気の破片はとても小さいまま。
 期待されていて追加をされるのか、ただ一方的に嫌われていて追加されるのか‥‥‥清崎の考えはわからないが、短い会話のやり取りから、それ程嫌われているとは思えない。
 現に、清崎は職員室から時折プールを覗いている。
 ぱしゃり。
 水を纏った手が水色のプールの壁に着く。
 目の前には数字の5。
 汀は4コースに移る。
 4。
 4は水泳選手にとっては憧れの数字。
 レースの一番早い選手がこのコースを泳ぐことが出来るのだ。
 予選のタイム順に4、5、3、6、2、7のそれぞれのコースに選手が並ぶ。1コースと8コースは空けられることが多い。
 市の競技会では4コースで泳ぐことが出来た。
 四百メートルの自由形なんて長いだけで二百メートル個人メドレーのような華やかさもなく、百メートルバタフライのような迫力もなく、ただ淡々と時間が過ぎていくだけの種目。
 長くて辛いだけで目指す選手も、北苑中のように水泳部員の少ない部ではいない場合もある。
 汀が選ばれたのは、百や二百メートルの自由形の選手の次に四百メートルのタイムが早かったのと、泳ぎ終った後に息が切れていなかったから。ただそれだけ。
 それだけで、汀は一年から正選手だ。
 3コースに移る。
 その時、フェンスを飛び越えてプールに落ちるモノクロの球体。
 汀はコースレーンを潜り抜けて目の前に表れた物体に瞳を丸めた。
 ゆっくりと手を伸ばして、モノクロのサッカーボールを包んだ。
「悪い!!」
 フェンス越しに叫ぶ少年がいる。
 同じクラスの尾崎‥‥‥広篤。時代劇に出てきそうな名前だとクラスメイトにからかわれていたような気がする。
「あれ、杉原? ひとりだけ?」
 にぱっと尾崎が笑って手をヒラヒラと振る。
「うん。居残り練習」
「へえ、熱心だな〜。俺も。俺も居残りしてんの」
 自分を指差して尾崎は満面の笑顔を浮かべる。まるで、褒めて褒めてとねだる子犬のような雰囲気。
 ボールを見下ろして、汀は瞳を瞬かせる。
「このボール、そのまま投げると水浸しだから、泥が着くよ?」
 ボールを顔の前に掲げて聞いてみる。
 まあ、でも拭いてくれと言われても自分用のバスタオルしかないから拭くのは遠慮したい。
「あ〜。いいよ。部室に布があるから。とりあえず投げて!」
 こっち、こっち〜。と両手をぱたぱたさせて尾崎が笑う。
 そう、いつも尾崎はこう。
 いつもいつも笑顔で、ぱたぱたしてる。
 感情の起伏を自分でも感じない、なにを見てもあんまり感覚で感じられない自分と違って、尾崎はずっと、楽しそう。
「じゃあ、投げるから」
 プールの中から思い切りボールを八月下旬の空に投げる。
 薄闇に煙る赤紫の空にモノクロのボールが放物線を描く。
「うお!冷てっ」
 汀が放り投げたボールは地面に着くことなく、まるでロープで操られたかのように尾崎の両手の中に収まった。
「さんきゅー!!」
 冷たいボールを手にして尾崎がへらへらと笑う。
 なんと返せばいいのかわからずに、汀は無言で手のひらだけ振り返す。
 そして、また息を大きく吸い込んだ。
 プールの壁を大きく蹴る。
 自分の体を沿うように水流が通り抜ける。
 なぜか、少しだけストロークが大きくなった。










「なあなあ、クロールってどうやって泳いだら早くなる?」
 次の日の、夏期出校日。
 終わった夏休みの宿題をカバンから取り出していると、尾崎が目の前の席の椅子に背もたれを腹で抱えるようにして座って笑う。
 汀は瞳をぱちぱちと二回、瞬かせた。
「尾崎は、泳げるの?」
 曖昧過ぎる質問にとりあえずは質問を投げ返す。
「ほどほどに」
 適当な返事に汀は小さく溜め息を吐いた。
 両の手のひらを腕ごと前に突き出す。
「足は、親指と親指がこすれるような感じで動かすの。その時に膝は曲げちゃだめ」
 ぱたぱたと腕を動かすと、尾崎が真似をする。
「足先の泡は小さくなるような感じで、太腿から動かす」
 汀の言葉に尾崎はうんうんと頷きながら聞いている。
「後は、手は頭からお腹の中心を掻いて、後ろに流し切らないで肘を曲げて、こういうふうに水面を突き刺すの」
 曲げた肘を、耳の近くから頭の上に手のひらを突き刺すように動かす。その動きをまた尾崎がうんうんと頷きながら見ている。
「呼吸は顔を半分くらい出す感じ。全部を出そうとすると体が捻られてリズムがおかしくなるし、負担がかかるから」
「へ〜。杉原はすごいなぁ」
 すごいもなにもスイミングスクールに通ったことのある人なら誰だって知っていることだ。と、思う。
「ありがとうな。明日、芦野たちと市営プールに行くんだ。試してみる」
 よいせと椅子を跨いで、尾崎はひらひらと手のひらを振って、今名前の出た芦野たちの元へ行ってしまう。
 その後ろ姿を見送った汀は、頬杖をつく。
 尾崎は雰囲気が可愛い。
 背だって小さくて、ふわふわの栗色に近い髪の毛。サッカーをしているけどあまり日に焼けない体質なのか色も白い。
 逆さパンダの自分とは正反対。
 ゴーグルをつけて泳ぎ続けているので目の周辺だけ色が白い。
 水泳部部員はほとんどが逆さパンダだからあまり気にならないが、こんなふうにクラスメイトに囲まれると水泳部部員の日焼けは一種、異様だ。
 そして、日々泳ぎ続けているせいで汀の肩は筋肉でモリモリ。
「汀、尾崎くんとなにを話していたの?」
 前の席の野間勢理のま せりが席についてにやにやと笑う。
「クロールの泳ぎ方」
 短く答えると勢理はつまらなさそうに唇を尖らせた。
 そういえば、勢理は逆さパンダじゃない。
「ねえ、なんで勢理はゴーグルしないの?」
 勢理は汀と同じ水泳部で、バタフライ二百メートルの正選手だ。西三大会にはタイムが及ばずに参加できない。
 もうひとりの正選手の桜庭先輩は市の競技会をダントツで優勝している。次の西三大会での上位入賞、県大会出場への期待もかかっていた。
「ゴーグル?」
 大きくない瞳を瞬かせてから、勢理は照れ笑いを浮かべる。
「ああ、スタートの時にゴーグルが外れちゃうの。だから、かけてない」
 えへ〜と笑いながらの答に汀は微笑を返す。
(なんだ、日焼けを気にして外しているわけじゃないんだ)
 自分で思ったことに、汀は自分で驚いていた。










 尾崎は、あれから時折サッカー部の帰りに汀を待っている。
 不思議なことに。
 毎日のように追加される練習を終えて、部室を出て鍵をかけ、職員室の清崎に返す、そして職員室のある東棟から出てくると、植え込みを囲う石の上に尾崎が座って待っている。
「あ、杉原〜」
 間延びした呼びかけにもすっかり慣れてしまった。
 ほっそりとした尾崎と、がっしりとした自分。
 ふわふわの髪の尾崎と、ゴワゴワの髪の自分。
「杉原って、髪の毛の色、地毛?」
 かくっと首を傾げて尾崎が問う。
「ううん、塩素」
「エンソ?」
 意味がわからずに瞳を真ん丸にする尾崎に苦笑を返す。
「プールに、よく先生が丸くて白いの入れるでしょ? あれ」
「ああ、あれ」
 プールの底にたくさん沈んでいる白く丸い粉の塊。
 小さな頃からずーっと、ずーーっっとプールに浸かり続けていた汀は‥‥‥水泳部員は産毛まで色素が抜けて金髪に近くなる。
 特に汀は髪の毛も男子よりも短いくらいにしているせいか、明るい薄茶色をしていた。栗色の尾崎の髪の毛がやわらかい色をしているのに対して、汀の髪の毛の色はどこか人工的な色だ。
 この髪の毛の色では風紀委員の先生とよく揉めたものだ。
 汀は生徒手帳の中に担任お手製の証明書を入れている。ブリーチをして色を抜いたのではなく、部活と、別に通っているスイミングスクール、土日に通うスポーツクラブのプールの塩素のせいで色が抜けてしまっているという証明書。
「尾崎は?」
「へ?」
 きょとんとした表情で尾崎が聞き返してくる。
「尾崎も、髪の毛の色、明るいでしょ? なにか言われない?」
「あ〜。俺はばーちゃんがイタリア人だから」
「‥‥‥す、すごいね」
 にっこりと微笑まれて言われれば信じるしかない。確かに言われてみれば尾崎はなんだか海外の血が混じっていそうだ。
「な〜んて、うそぴょん」
 にぱっと笑って舌を出す。
「うそぴょんって、あんたいくつ‥‥‥」
「え〜。ツッコむところ、そこなのぉ〜」
 尾崎が苦笑をする。が、すぐにふんわりと微笑んで小首を傾げた。
「俺のばーちゃんがイタリア人なのは本当。凄くはないけど本当だよ」
「そっか‥‥‥わたしのおじーちゃんはネアンデルタール人なんだよ」
「そっか‥‥‥」
 気付けよ、尾崎。
「うそぴょん」
 あまり感情を乗せるのが上手じゃない汀は苦笑いを浮かべながら尾崎の口調を真似して見せた。
「ネアンデルタールって国の名前じゃないから」
 汀のからかいに、尾崎はおどけて「ひどいな〜」と子供のようにばたばたを手を動かす。
 その様子に、不意に思う。
 ―――なんで、尾崎はわたしを待っているんだろう。
 自意識過剰だと思われてもかまわない。
 尾崎は、わたしが帰るのを待っている。
 何度も続けばそれが偶然なんかじゃないのはわかる。
 サッカー部の練習が終わった後、彼は自主練習をしているが、その練習が終わるのが、ほぼわたしが泳ぎ終わって着替えが済み、顧問に鍵を返した直後だなんてありえない。
 尾崎は、わざと、わたしが帰るのに合わせている。
 なんで。
 なんで。
 なんで?
 浮かんだ疑問に首を振る。
 違う。偶然だ。
 きっと。
 耳の奥に清崎の言葉がこだまする。
『恋をしてはダメよ』
 ―――恋?
 違う。違う。違う。
 こんな、可愛い男の子なんて恋愛対象なんかじゃない。それ以前にあまり感情が動かないわたしが恋だなんて、ありえない。
 そう、ありえない。
 だって、帰る時に交わす会話は尾崎が一方的に喋っているけれど、恋なんていうような甘やかな話題とか雰囲気なんて皆無だ。
 特番ばかりのつまらないテレビの話、最近変わったCMの話。同じクラスの友達の話。夏休みの宿題の進行状況。お互いの部活の話。
 いつも一緒の同性の友達との会話と変わらない。
 だから、ありえない。
 そう、ありえないんだから。
 汀はふるりと頭を左右に振った。










 タイムが落ちた。
 あからさまに落ちた。
 これじゃ、市の競技会の予選にさえ落ちるタイムだ。
 西三大会の三日前。部内でのタイム計測で汀は己の不調に絶句した。
「杉原、タイムを見た?」
 顧問の清崎の質問に汀は「はい」と小さく頷くことしかできない。頭を思い切りバットかなにかで殴られたかのような衝撃にくらくらする。あんなに、毎日毎日居残りして泳がされているのに、タイムが落ちている。
 どうして。
「杉原、最近‥‥‥あなたは同じクラスの男子と帰っているでしょ?」
「‥‥‥はい」
「恋をしたらダメって言ったの、覚えてる?」
 清崎は手元のタイムが書かれた紙を見て苦笑を零す。
「はい」
 短く頷くと、清崎は汀を見て額を押さえた。
「そう、覚えているのならいいから」
 踵を返して清崎はバタフライ二百メートルの正選手、桜庭の元に行ってしまう。
 恋をしたらダメ。
 それは、タイムが落ちるという‥‥‥意味だったのだろうか。
 練習が終わった後、なにも言わない清崎に自ら千メートル追加していいか尋ねてみた。
 清崎はなにも言わず、聞かず、ただ了承の言葉をくれた。
 そして、汀は今、水面にただ浮かんでいる。
 目の前に広がるのは薄紫の空。灰色の雲。気の早い一番星が輝き、残り五メートルを示す三角の旗が頭上に浮かんでいる。
 のそのそと背泳ぎをする。
 尾崎を、尾崎と認識してから、わたしは変わったのだろうか‥‥‥細くて、すっきりとした尾崎と並ぶと日に焼けて筋肉質な自分の体が恥ずかしい。ゴーグルで日に焼けない目の回りの白さが薄気味悪い。人工的に脱色された髪が気色悪い。髪の毛だけじゃなく、産毛や睫毛まで色が抜けているのって気持ちが悪い‥‥‥
 そう、思うけど、ゴーグルをつけるのをやめたわけじゃない。居残り練習だって変わらずやっている。
 他の水泳部員よりも千メートルも余分に泳いでいる。
 なのに、なぜ。
 わたしは尾崎に恋なんてしていない。
 可愛いと思うし、表情がくるくる変わるのを見ているのは楽しいけれど、でも、こんな気持ちは恋なんかじゃない。たぶん。
 手のひらが壁についた。
 汀は両足を持ち上げてターンをする。
 背泳ぎのこのターンをやりたくて、懸命に練習をしたのが懐かしい。
 ゴーグルを外すことなくスタートをするコツや、平泳ぎでターンをした時にどうすれば一番潜ったまま進めるか、クイックターンが一番早く的確にできる距離‥‥‥四泳法全て泳げる水泳部員は少なくて、残っては競うようにして練習した時期もあった。
 汀は、プールから出ると、今日の部活でタイムを計るために部室から持ち出した大型の計測機の電源を入れる。
 青い矢印が音を立てずに動き出す。
 4コースの飛び込み台に立つ。
 ゴーグルをはめて、両足の指を飛び込み台の端にかける。倒れるギリギリまで屈み込んで計測機を見つめ、秒針が空を指差したのと同時にプールに飛び込む。
 三掻きに一回の息継ぎで二十五メートルを折り返す。四百メートルの時は負担が大きいのでしないクイックターンをして、思い切り壁を蹴る。四百メートルと五十メートルの差は水の押し分け方だ。五十メートルは水を押し退けるようにして突き進む。力づくで掻き進む。後半は息継ぎを極端に減らす。
 四百メートルとは違う。四百メートルの時は、自分のペースとの戦いだ。水も押し退けるのではなくゆっくりとスペースを作るようにして進む。魚に自分を近付ける泳ぎ方をしなければならない。
 汀は普段の魚に似せた泳ぎをやめて、人間として水を強引に割って突き進む。頭の中は真っ白。
 タイムのことも、三日後の西三大会も、清崎のことも、尾崎のこともなにもない。
 目の前はゴーグルのグレーを通した青。
 掻き分ける水の泡がスローモーションで流れ去っていく。
 ゆらゆらと歪んで見える底面のライン。片方の目だけで認識する外界。
 水を含んだ空気。
 口の中は酸素よりも水のが多い。
 水面を手刀で切り裂く。
 足は親指と親指がこすれるように、太腿から全体を使って水を蹴る。
 目の前に壁。
 勢いよく壁を叩いて計測機を振り返る。
 ―――出したタイムは、以前に計った時よりも速かった。
「っは」
 掠れた声を上げて汀は笑う。
「なにが、ダメ、よ」
 グレーの世界を外して、紫の夕闇を見上げる。
 赤い雲が地平線に飲み込まれていく。
 ビニールのキャップを外す。
 尾崎よりも短い髪の毛。空気のまったく入らないキャップを外した頭が、なんだかほっとしているようだ。
 汀はキャップもゴーグルも手から離して、その場に潜った。
 そして壁を蹴る。
 ゆっくりと手を伸ばして、体を反転させる。
 鼻から細く息を吐き出して、空を見上げる。
 波紋に揺れる、夕闇を映した水。
 水に包まれる。
 コポコポと音が聞こえる。夏の日差しに温まった水はまるでゼリーのように肌に纏わりついてくるような気がする。
 鼻から出す息が絶えて、汀は底を蹴った。
 空気のある世界は水の中よりもべったりとしている。
 熱い酸素が今度は体に纏わりついてくる。
 水に濡れて額にかかっても、目にかからない前髪を掻き上げて空をもう一度見上げた。
「杉原〜」
 フェンスの向こうから、間延びした声が聞こえる。
「尾崎」
「まだ、帰らないのか〜?」
 細くて、白い尾崎に向かって、汀は手を挙げた。
「尾崎、悪いんだけど‥‥‥タイムを見てもらっていいかな?」
 ゆったりと笑って頼んでみると、尾崎は一度瞬きをしてから微笑んだ。「いいよ〜」という間延びした声がやわらかく耳に届く。
 この、四百メートルのタイムがよかったら、西三大会に応援に来て欲しいと頼んでみよう。
 そう、心に誓って、水の中で夢を見る。
 ―――白い尾崎がプールサイドに降り立つ。
 わたしは、彼を水の中から見上げて微笑んだ。
 尾崎に魚の泳ぎを計測してもらう。
 そのために、底を蹴ってプールサイドに飛び出した。
 夕闇の空気に水の粒が舞う。
 そして、わたしは4コースから水に帰る。










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