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観光大使 作者:ににこ

常識とは

「世界には5色の色がある」
そんな口調でルナが話し始める。
「空の青、新緑の緑、火の赤、太陽の黄色、大地の茶色、で5色だ」
絵里子は首をかしげる。
なんとなく言いたいことは分かるが、それ以外の色も実際目の前にあるし、光の三原色を知っている絵里子にとってそれは笑い話だ。
「勿論今は研究が進みそれ以外の色も作り出す事ができるが、古代神話ではこの5色が世界の色だ」
あー神話ね。神話って結構無理があるもんだよね。ふむふむ。
「だから人もこの5色の髪を持って生まれるのが普通だ」
そう言われ、絵里子は周りを見渡す。
確かにルナが言う通り、濃淡の差はあるがその5色の髪の色ばかりだ。
どうせ神話なんて後付けなのだ、神話ありきの髪の色ではない。
髪の色ありきの話なのだ。

「私のこの髪は異端だ」
そう言ってルナは自分の髪を引っ張る。
「この世界にこんな色は存在しない。だから嫌われる」
「・・・」
続きの言葉を待っていると、そのままこれで終わりだとばかりに口を閉じるルナに、絵里子は激しくつっこむ。
「え?それだけ!?」
もっと何かすっごい理由があると思ったのに、ありえない髪の色だからってだけ??
せめて呪いを受けた色だとか、病気だとか、珍しい民族の生き残りの証だとか・・・ないの?

きょうび、そのありえない色にわざわざ染める人が多く暮らす世界で育った絵里子にとって、その理由はあまりにもあっけない。
というか、茶色以外の4色でも絵里子にとっては十分不思議なので、ルナのピンクがどれ程異端なのかが、ピンとこないのだ。

確かに、よく考えてみれば、人間は自分達と違うものを排除しようという傾向がある。もしルナが向こうの世界で産まれていたとしても人生は大変なものになるだろう。

就職とか出来なさそうだよね・・・。
絵里子はピンクの髪でスーツを着て、真面目な顔して営業周りをしているルナを思い浮かべて、顔を緩める。
契約取れないだろうな・・・むふ。

いっその事警官とか?交番にピンクの髪のお巡りさんがいたら人気者になりそうじゃない?イケメンだし。
ん?嫌、待て、そうかイケメンなんだから、モデルとかでいいんだ。ピンクの髪が話題になり注目度は抜群。本人に相当才能がないわけじゃない限り食っていけそうだ。

何だやっぱりピンクの髪はたいした障害じゃないじゃん。日本じゃなければもっと髪の色に寛容だろうし、先天性なら尚の事問題ない。むしろそれは武器になりうる。だからやっぱり最初の「それだけ?」の反応は間違っていなかったのだ。
万能だなイケメン!
話がずれた事に気づかず、絵里子はひとり納得してうなずいている。



隣でその百面相をみていたルナは何とも言えない気分になっていた。

最初に見たときは見事な焦げ茶の髪に眼を奪われた。
なまじ、自分の髪にコンプレックスがある為、人の髪の色には敏感だ。
顔を見ればまだ幼い少女のようだったが、体つきは大人の女性のものである。
そのアンバランスな感じに、なんとなく背徳感が煽られドキっとした。

しゃべり始めても理性的なしゃべり方で、やはり大人の女性なんだと確信した。
と同時にニヤリとした笑みとともに「夜会が嫌いなのか」と嫌味を言われたので、ムカッと来た。
つい冷たい態度をとってしまう。

その後も変な言動が続いた。
だが、話が進むにつれて、相手が嫌味や貶めの為に言っているのではない事だけは伝わってきた。
ただの変人か?
と思ったら、どうやら記憶喪失らしい。
記憶喪失とはこんな常識中の常識も忘れてしまうものなのだろうか?

異端の色だと説明してやると「え?それだけ?」と言われた。
それだけ?
・・・・それだけか。

この色は自然界には存在しない。ただ何百年も前に有名な画家が書いた絵にはこの色が使われている。
この世の歪に住む悪魔を具現化した絵だった。そして、その悪魔の頭髪にこの色が使われている。
しかもこの色素はある動物の死骸から精製される。
なんていう付加価値はあるのだが、言ってしまえは”色が変”というただそれだけの事だ。

そうか”5色の色ではなければ人間ではない”という常識がなければこの髪の色もただ他人と違う”それだけの事”なのか。
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