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イデアの少女 作者:さいはて

イデアの髪の色2

 前方には、夕焼けをバックにした二又の路が映える。
その僕から見て右手側、家につながってない道に、見覚えのある髪の色を見た。
暮色の空にその銀髪はきらびやかに光沢を放った。まさしくイデア。今日うちに転校してきたヴェールス・イデアその人だった。
「隣にいる男の人、誰だろね? 」
「隣って、イデア以外に誰かいるの? 」
 何度も言っているように、僕は人に対し無関心だ。正確には自分の興味ある人以外に無関心なだけかもしれないが。
「次郎ってホント人間に興味ないよね。隣にいるじゃん。オールバックで眼鏡かけてる、うちの制服着てる男」
「見たことある」
よく見るといた。人は自分が意識したものしか認識できないのだ。ってなにかの本に書いていた。男がイデアの肩をつかんだ。イデアはいやそうにしているようにこちら側からはうつった。あるいは誘い受けかもしれない。
「けっこう有名だよ?うちの学校で唯一、デモ活動を行っている高校生ってので」
思い出した。
 たしか、名前はジャンポール斎藤とかいった。
春風学園高等部の3年で、環境保護活動に参加しているらしいってのは聞いたことある。
具体的にはどんな活動なのかしらないけれど。
全然興味ないけれど。
「警察を呼んだ方がよくない? 」
 由香の意見に賛成だ。いまの誘い受けかも知れない、というのは冗談で、実際のところ、別れ話を持ち出された彼氏が、取乱して彼女に言い寄って……の図にしか解釈できないのだ。
 由香の手がすばやくスマートフォンを叩く。スマートフォンは携帯に比べて文字を入力するのに時間がかかると僕は思っている。由香も慣れていないのか、何度もやり直している。
「あれ、これ、どうだったかなぁ。まだ使い慣れていなくて……」
スマフォを前に難渋している由香をしり目に、イデアと目が合った。
ちょっとつり目気味の赤い瞳が僕を見据える。
これは不利だ。二対一なのだ。にらみ合い合戦なるものがあったとしたらこちら側が圧倒的に不利だ。
「何を見ているんだね!」
 声を発したのは男のほうだ。
彼の眼は斜視が入っており、僕に顔を向けていながら、瞳は外側を向いている。
「い、いえ、なにも。あのぅ、なにかあったんですか」
「君たちには関係のないことだ。さあ、イデア。私と一緒に来い!」
男は握力測定をするかのように強くイデアの手首をつかむ。
一瞬だが、イデアの顔が歪む。
「ちょっと乱暴じゃありませんか!」
 僕が叫んだと同時に、四角いスマートフォンほどの大きさの物体がロンパリ男のこめかみに命中した。事実、それはスマートフォンだったのだ。
「こういう使い方もあるんだね」
由香は舌を出して言った。
「いや、激しく使い方を間違ってるぞ」
結局警察に通報はできなかったらしい。なんのためのスマフォだよ。スマフォは人の頭に投げるために作られたわけじゃない。
「何をするのだね! 」
男は額をさすりながら、もともとしわくちゃだった顔を、さらにしわくちゃに歪めて言った。
「アンタこそストーカーみたいなことしといてよくいうわ! 」
由香が口答えしたが、議論や話しあい、口喧嘩は得意な方じゃない。どうなることやら。
「ストーカー? 冤罪だよ、私はね。この娘をあるべきところ、つまり私のところへつれて行こうとしただけさ」
「……思いっきりあやしいし、思いっきり有罪確定でしょ。それは」
僕も由香の意見に同意する。どう考えても少女を強引に連れ去ろうとしているようにしか思えない。
「とりあえず彼女から離れなさい! 」
由香が怒気を強めるも、ロンパリ男は夜中の羽虫の泣き声を聞くかのごとく平然としている。
「イデア、君の意見を聞きたい」
由香や僕にでなくイデアに訪ねる。
イデアは黙りこくっている。
「わたしに資格があるのかどうなのかはっきり言いたまえ!」
資格?

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