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この手に惹かれて 作者:長谷川 レン

1 異世界で白銀と会いました

髪色を知らされました。

「ところでラクト。君は行く宛てがあるのか?」
「あると言えばある」
「何? 今この世界に来たばかりなのではないか?」
「つまりだな……」

楽兎は一息入れると、ランに向き合って、手を合わせた。

「連れてってください!」
「…………。つまりあるっと言うのは……?」
「ランと一緒に行けばとりあえず今はいいかなぁ……なんて……」

ランの表情を見るとやれやれと呆れた顔をしている。

「こちらも初めから君を誘おうとしていたのだ。私の村はルビーと言う国の一番北にあるジュベッタ村だ。ここから数時間でつくだろう」
「へぇ。是非行ってみたいな」

そう言って立ち上がり、ランを先頭にして歩き始める。
道中、村の説明が入る。

「王国の他の村ほど賑わっていない村だがな。それでも景色がいい村なんだ。木々に囲まれ、湖だってある。まぁ王都からは多分、最初の防衛線と言うところなのだろうが、私にとっては自慢の故郷だ」

ランが誇らしげに話すのを見て楽兎はいっそう胸を躍らせる。
村独特の雰囲気を楽しめそうだと思う楽兎。

(日本では無かったからなぁ。自然に囲まれてるところなんて探すほうが困難だ)

狼たちが元いた大草原の方に引き返していくのを黙って見過ごし、そういえば、とランを見る。

「ランは魔力解放……ってやつで髪色が変わってんだよな?」
「ああ。そうだ。それがどうかしたのか?」
「元に戻ったら何色になるんだ?」

楽兎的には日本人でもあるので黒だったらいいなぁなどと思っていたが、ランはフッと笑った。

「ここら辺には特に危ない魔物などがいるわけでもないしな。いいだろう。魔力を納めよう」

そういうと、徐々にランの髪色が変わってくる。
白銀に輝いていた髪は徐々にくすんでいき、最終的には……、

「赤色?」

先ほどの輝くような色と違い、今は火を思わせるような髪色をしている。

「ああ。母が赤髪でな。私はそれを色濃く受けついているそうだ」
「へぇ。赤色って珍しいな」
「そうでもないぞ? むしろ黒の方が珍しい」

ん? これはあれか?
ファンタジーの世界は日本の様な黒は悪魔の使いだとか……。

「少なくとも私は黒髪の人を見たことは無い。みんなも見たことはないんじゃないか?」
「えっと……それで?」
「それで……とは?」
「何か無いの? 黒い髪を持つ者は~とか」
「特に無いが? そういうのがあるのか?」
「…………」

そこは所詮ゲームだったらしい。
黒だからって別に特別なわけではないようだ。
ガッカリ感と安心感が一度に乗ってきた。

「しかし……どうしたものか」
「ん? 何が?」

言葉をこぼしたランが楽兎を見上げる。
身長差では楽兎の方が少し上だからだ。

「いや、ラクトの事をどうやって説明しようか迷っているのだ」
「俺は別に異世界から来た楽兎。でいいんじゃないか?」
「異世界なんて誰が信じてくれるのだ?」
「え? だってランは……」

するとランは楽兎の前に歩み出た。

「私は、その……。見ていたからな……」

そっか……。こいつは見ていたんだ。

「ん? でもそれって狼に追われていたとき……」
「さぁ早く行くぞ。もう少しでつくからな!」
「ちょ、おまっ! 話し逸らしただろ! 今逸らしたよな!?」
「知らん。少なくとも私は村までがもう少しだって言っただけだ」
「そ、そうか……」
「納得するのか……?」

最後にボソッと呟いた事は聞こえなかった。
ランは楽兎はもっと突っかかってくるかと思っていたのだが、潔く引いたので若干拍子抜けだったりしていた。
そうしていると流れて行く木が青々としているものに移り変わっていくのがわかった。
温度も少し上がり、少し暖かいぐらいの気温になった。
まだ木は生い茂っているが、先ほどよりは力のある感じがした。

村が近いのか、風に流れて人の声が聞こえるような気がする。
だけどそれは……。

ランの歩みがそこで停まる。

「ん? どうした?」
「しっ。何か聞こえないか?」
「人の声のことか?」
「なに?」
(えっと、俺、何かまずいこと言ったかな……?)

ランが楽兎を睨むようにして見上げる。

「何故人の声が聞こえる? 私の村はそこまでにぎわって……ま、まさか!」

とたん、ランは風を足に纏わせて走り出した。

「お、おい! たく、しょうがねぇな!」

楽兎はランを追い、脚を全力で動かし走ってく。
ランの走りはかなりのもので、楽兎が全力でも簡単には追いつかなかった。
目で目視できる足に纏わっている風は気のせいではないだろう。
いつも間にかランの髪は赤から白銀に変わっていた。
だけど、

――変わっていたのはランだけでは無かった。

走っていくごとに暑くなっていく。
いや、熱く(、、)なっていく。

「おいおい、嘘だろ?」

嫌な予感がする。
目の前がどんどん明るくなっていく。
今の時間はせいぜい夕方だろう。
ここまで明るくなると言えば……。

――ゴウゥゥゥゥ

「う……そ……」

火の海。
村であっただろうその場所は放たれている火に呑まれている。
なんてひどいものだろう。
家々が燃え、その中から今さっきまで鳴き叫んでいた子供の声は消えていた。
助けてと叫んでいた声も消えていた。
なぜなら、路上に転がっているのは…………死体。
そして……、

――その横には長い槍を持った、黒い甲冑の大男がいた。
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