10日放送の「クローズアップ現代」(NHK)で、ジャーナリストの立花隆氏が、番組の特集内容に異論を唱えた。

番組では「広がる“読書ゼロ”〜日本人に何が〜」と題し、日本の読書人口がスマートフォンやインターネットの普及を背景に減少しているとし、その影響について特集した。

番組前半部分の取材VTRでは、筑波大学の逸村裕教授が登場し、小論文作成の際、本を読む学生と読まない学生との間でどのような違いが生まれるか実験した。

その結果、ネットのみ利用して小論文を書いた学生はネットと本を併用した学生に比べ、自身の意見が弱い傾向があることが分かった。

逸村教授は「学生の情報収集力は上がった。しかし情報に流され、自身の意見をまとめる力は弱くなっているのでは」と実験結果について論じた。

また、東京大学の酒井邦嘉教授によれば、人間は本を読むことで、視覚から得られる情報で終わることなく、さらにイメージを働かせて想像力を養うことができるのだそうだ。

酒井教授は読書体験について「自分で得られた情報から、さらに自分で自分の考えを構築するというプロセスが入るため、人間の持っている創造的な力がフルに活かされます」と語った。

VTR後のスタジオトークに移ると、ゲストの立花氏は「今のコンテクストだと、スマホを否定的にとらえていますよね」と断りつつ「要するに、スマホの向こうに何があるかが大事な問題であって。スマホの向こうに、ネットを通して、ほとんど人類が持っている知識があるんですよ」と説明した。

そして「引き出し方いかんでどんな情報でも取れるんですよね。だから、スマホだからこう、みたいな議論ってのは相当成り立たない」とそれまで番組内で紹介してきた内容をほぼ全否定した。

立花氏は酒井教授の説についても「視覚がまずきてみたいなね、そういう感じはまったくないですよね」「ある本、ある文章を通してその人の脳を刺激する仕方ってものすごく違うわけですよ」と、ここでもVTRで紹介された内容について否定しつつ異議を唱えた。

国谷裕子キャスターが「若い人が読書をしなくなることで、知的劣化が起こるのではと多くの人が心配しています」と水を向けると、立花氏は「知的環境そのものの変化の中で、むしろこの変化を利用してどんどん自分の知的能力をふくらませていってる人たちが、一方でものすごくいるんです」「一概には言い切れない」と切り返した。

さらに国谷キャスターは、小論文作成の実験VTRでも“驚くべき結果”として紹介された、インターネットの閲覧スピードについても触れた。

学生は、ネット検索の結果を見出しと150文字ほどの概要を見て、わずか1秒で必要な情報かどうかを判断しているとVTRで解説され、国谷キャスターも若い人のネット閲覧速度が「もの凄く速くなってきているんですね」と立花氏に語りかけた。

すると立花氏は苦笑しながら「そりゃそうでしょ」と一言発し、続けて「たとえば本や新聞広げて、この記事をちゃんと読むか、あるいはさっと目を通すだけにするか、その判断ってのは恐らく1秒以下くらいでやってるはずなんですよ。日常生活において」「そのこと自体はそんな驚くべきことじゃない」と一刀両断した。

そんな立花氏は番組後半には、読書の効用についても「ネットだけだと掘り方が浅くなるんですよ。もうちょっと深い情報を得たいと思ったら、本なりその他もろもろがありますから」と語った。

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