東日本大震災の津波被災地で住まいの再建がようやく進み始めている。

 許認可などの手続きの一部は特例として簡素化された。必要な資金は国の復興交付金でまかなわれ、職員不足が深刻な自治体を国や他の自治体からの応援組が支える。

 「住宅再建支援や工事の加速化を図る」(自民党)「安心して住み続けられる住宅を、まちづくりと合わせて整備する」(公明党)「人材・資材の不足・高騰への対応に万全を期す」(民主党)……。

 衆院選での各党の政権公約や政策集には、「細やかな施策」「被災地の視点」といった言葉とともに、暮らしの再建を意識した目標が並ぶ。

 新たな街で生活するのは被災者だ。「住民が起点」という基本をおろそかにすれば、復興はおぼつかない。

■会合重ねて合意作り

 仙台市の南、宮城県岩沼市の玉浦西住宅は、300を超える被災地の防災集団移転事業のうち、住民が1千人に及ぶ大規模移転の先頭を走る。その原動力は、被災した六つの集落が一つにまとまる過程で、住民同士が徹底的に話し合ったことだ。

 ふるさとと同様に曲がりくねった小道。地元の堀を模したせせらぎ。東北地方に特有の防風林「居久根(いぐね)」を設け、公園には芝生を張りたい……。

 震災から8カ月後の2011年11月、大学教授ら専門家の手を借りつつ住民だけの会合を始めたところ、次々と案が出てきた。大小さまざまな会合は、住民同士が意見をかわし、合意を作っていく場となった。

 翌年の夏、市が各地区の代表者からなる正式な検討委員会を設けた。そこで示された原案は整然と区画された新興住宅街のような未来図。住民は驚き、反発した。「国の復興交付金を使う以上、管理費がかさむものは難しい」と「公平性」を強調する市の担当者もまじえた委員会は、1年半に28回を数えた。

 国民全体が負担する復興交付金を野放図に使えないのも確かだ。時に市に意見をぶつけ、協力してまとめた最終案では、曲がる街路は一部にとどまり、せせらぎは緑道になった。一方で、住民の活動を知った民間団体などから寄付や助成を得て、居久根や芝生を実現するメドが立ちつつある。

 住民会合を引き継ぐ形で発足したまちづくり協議会の会長、中川勝義さん(76)は、自分たちで考えて、市と対等の立場で臨んだことがカギだったと感じている。来春にも全ての入居予定者がそろう見通しだが、六つの集落が一つになる「コンパクトシティー」への挑戦は続く。

■進む人口減と高齢化

 こうした取り組みが被災地のあちこちで、全国各地で、広がっている。行政と住民の協働。関係者が一堂に会する円卓会議。呼び名は違っても、行政と対等の立場で住民が自ら考え、行動する点が共通する。

 少子化で人口は減り、高齢化が進む。「消滅自治体」が話題になるほど状況は厳しい。住民と自治体、地元の企業や団体が力を集めて乗り切るしかない。そんな危機感が背景にある。

 地域の住民を代表し、中央の政府と向き合うのは自治体だ。財源や権限を巡る国と地方の関係の見直しが不可欠になる。政治の役割と責任は大きい。

 「自由度の高い交付金を」(自民)「自治体に権限・財源を移す」(民主)。各党が訴えるのは長年の課題ばかり。問われるのは具体論と実行だ。

■問われる政治の覚悟

 まずは交付金である。財政難が深刻な中で、財源をどう確保するのか。

 かつて小泉政権は、ひも付きの補助金を減らし、国から地方へ税源を移すことを掲げた。地方交付税交付金も加えた「三位一体改革」である。

 ところが、改革は地方側の「手取り」を減らす結果となった。自治体の不信を招き、その後の地方分権論議に影を落としたことを忘れてはなるまい。

 次に特区。自民党は地方創生特区を設けるという。

 安倍政権が鳴り物入りで立ち上げた国家戦略特区の一類型のようだが、戦略特区には既に人口2万6千人弱の兵庫県養父(やぶ)市も指定されている。10年余り前にできた構造改革特区も、「地方の発案を生かす」と言いながら、国の頭の固さに自治体の不満が絶えない。まずは既存の制度の改善と活用が先決だ。

 財源や権限を守りたい中央省庁の抵抗は強い。その省庁から情報を取り、影響力を行使しようとしてきた国会議員も、今のシステムに依存する。政治には、改革を通じて自らのあり方を問い直す覚悟があるか。

 「活性化」「再生」……。これまでさまざまな言葉が使われ、今度は「創生」だという。

 地方を巡る議論を、衆院選や来春の統一地方選を意識した聞こえのよいかけ声に終わらせてはならない。