ボンタイ

社会、文化、若者論といった論評のブログ

「ヤバい時代」を生きる若い日本人が学ぶべきこと

 このところ、戦争体験世代の文化人が日本の今の政治状況へ警鐘を鳴らすメッセージを出している。貴方が平成生まれ世代の若者なら、ぜひじっくり聞く必要があると思う。

 亡き菅原文太氏は映画スターとして華やかな成功をおさめながら、晩年は田舎で農業にいそしんでいた。「映画は虚業だが、農業はウソじゃできない」とインタビューで答えていた。たぶん、莫大な富を得て、あらゆる贅沢を体験し、世界中も行き尽くしたりすると、「まっとうに生きることとは何か」を考えるようになるのだと思う。そうやって行きついた先が農業であり、安倍政権に反対する政治活動だったのだろう。

  大正生まれの瀬戸内寂聴氏もことし「90年の人生で今の時代が一番ひどい」という考えを湯浅誠氏との対談堀江貴文氏との対談テレビ番組などで強調している。自身の経験した戦争前夜の頃とダブるのだという。「だんだんとものが言えない空気」ができあがって閉塞感が増してきている。安倍首相をはじめ多くの日本人は戦後生まれだから分からないことだ。

 隠居して湯河原で陶芸家をやっていた細川元首相が急に選挙に出てきたのも、もしかしたら時代の危なさを察してのことかもしれない。彼も戦争体験世代だし、ここまで紹介したすべての人が脱原発や現政権への反対で一致している。大橋巨泉氏あたりもそうかもしれない。

すべての政党が同じ政策に賛成するのは、不吉な兆候である。今の状況は、戦前に近衛文麿のつくった大政翼賛会に、すべての政党が合流した歴史を思い起こさせる。戦時中に行われた「翼賛選挙」では、国民は大政翼賛会を圧倒的に支持したのだ。

社会主義化する日本を野党も止めない「翼賛選挙」:朝日新聞デジタル

 一方で、戦後世代の経済学者である池田信夫氏も、今の選挙状況を大政翼賛会とダブるとしている。賢者であれば今の時代はヤバいと考えるのが全うだと言える。 


 そんな中、イギリスの有力紙・ガーディアンがネット上で今回の総選挙についての意見を呼びかけている。ガーディアンは日本語版のサイトを設けておらず、余りに異例の出来事だ。ネット上では、「日本のマスメディアの信用性が下がったこと」が原因ではないかと勘繰る声が広がっている。

 

 それもそのはずで、今の日本のマスコミはすでに「大政翼賛会化」しているも同然だ。

 自民党の有力国会議員3人のネオナチ写真騒動も、最初に報じたのは欧米メディアである。日本では後になってネットメディアが伝え、その後共同通信が配信することで一斉に各媒体が取り上げた。そもそも欧米メディアが報じたのも、日本のネットユーザが英語で積極的にメッセージを発信した後のことで写真そのものはネオナチ活動家のサイト上に何年も前から上がっていたものだ。

 日本の政権与党の国会議員の不祥事なのに、日本のマスコミが自ら取り上げなかった。海外の有力メディアがいくつも紹介するようになってやっと「ネオナチとの写真が海外メディアの間で話題に」と他人事の文脈で報じるようになった。今の日本で健全にメディアが機能している状況にあるとはあまりにも思えない。在特会元幹部と山谷えり子国家公安委員長の関係性の問題も同様に欧米メディアが報じてから日本のマスコミが伝えるようになった。それも具体的に突っ込んだ分析をしているのは国内メディアなら週刊誌・夕刊紙・ウェブニュースサイトなどで、在特会問題自体、詳細に伝えている新聞社は神奈川新聞や東京新聞などのローカル紙に限られている。NHK・共同時事通信・新聞全国紙・民放テレビキー局などの主流メディアは示し合わせたように口をつぐんでいる。

 

  海外メディアだって、ネットで直接現地から自国や世界中に向けた情報を摂取するのが一番いい。

 たとえばアメリカの有力経済紙のニューズウィーク誌の日本版は安倍政権になって以降、いわゆる「愛国ポルノ」的な内容がやたら増えている。

 バックナンバー一覧の表紙だけ見てもお察しだ。韓国や中国をやたら貶す企画ばかりで、逆に日本は世界に誤解されていて世界に褒められているすごい国なのだと言う企画や、アベノミクスで経済がよくなるという安倍政権ヨイショの企画が物凄く多い。

 それらは日本版が独自に企画・編集したもので、本家アメリカ版などは全く違う紙面構造になっている。韓国版ニューズウィークは韓国内での反日愛国ナショナリズムを煽っているので、おそらくその国の程度ごとにあわせた最もベターな紙面構造で売るというローカライズ路線なのだと思う。

 つまり、今の日本ではこのような排外的な御用メディアであるほうがよいというわけだ。経済紙を最も読むであろう働き盛りの中年男性の民度が低下しているのだろう。

 

 

 世の中を回している中年層がダメ人間しかいないという現実がある。

 平成の20年以上常の不景気を建て直せなかった彼らから学ぶことはしょうじき、何もない。彼らは「昨日から引き継いだ今」をただ怠惰に生きることしかできず、世の中を前進させるという発想は政治家にすらない。だから日本は低迷するし、途上国がどんどん力を付けている中、欧米先進国がこの間当たり前にこなしてきた進化(たとえば手書きの履歴書をなくすとか、田舎や低所得者層が当たり前にケーブルテレビを見られるようにするとか、古い企業はさっさとリストラをするとか、そういう小さいことから大きなことまで)を何もできずにいる。この無能たちが自分たちの未熟さや無責任さから、極度に内向的なナショナリズムに流されたり、煽ったりするわけである。

 

  「ヤバい時代」を生きる若い日本人が学ぶべきことは、戦後世代の中年層はガン無視することである。彼らから教わることで一生涯価値ある知識は何もない。彼らの受け売りとなれば、自分まで日本の悪化の片棒を担ぐことになり、ますます将来は暗くなる。

 中年層がそれでもよいとしているのは、すでに生活基盤があって、子どもがそれなりに成長し「あとは会社に定年までしがみついて年金を貰って死ねればそれでいい」状態だからだ。若い世代は、公務員だろうが終身雇用は確約されておらず、年金も破綻することは分かり切っている。

 

 「ヤバい時代」を生きる若い日本人が学ぶべきことは、戦前に生まれ育ち、戦後に焼け跡を世界第二の経済大国まで作り上げた70代以上の高齢者から温故知新を学ぶことだ。彼らが有能だったからこそバブル崩壊後20年以上の不景気でもなお高度に機能している豊かな社会があるわけで、世の中を良くするヒントはいくらでももっているはずだ。当時の概念を今に置きかえるとしっくりすることは山ほどある。

 そしてもう1つ重要なのは海外から学ぶことである。たとえばヘイトスピーチの法規制は先進国ならどこでも当たり前のことである。今の先進国のトレンドは「多文化主義」だ。いかに民族少数派、障がい者、性的少数派などのあらゆる少数集団や異なる存在や劣位の人たちを公平に暮らす多様性に富んだ社会を作るかということで、こういう社会の質の向上はアジア周辺国でも進んでいることだ。そこでは差別はあってはならないということ。弱者に負のレッテルを押し付けたり、不遇の状態をそのままにすることはあってはいけないのだという合意が当然ある。それに抗う存在は一部の底辺の極右だけだ。

 

 だが、国民総中流時代の昭和の常識にとらわれ続けて内向きな我欲しかない日本の馬鹿な中年は、会社の飲み会でパワハラやセクハラを平気でやってきた民度から何も向上していない。匿名ネット上には差別的な言説や特定の弱者の「悪質性」や「問題性」を誇張する表現が多い(たとえば生活保護の不正受給者や在日コリアンの起こした犯罪事件をやたらとひけらかして生活保護者や在日そのものに憎悪感情をまき散らすようなこと)こうした人間の中には学校教員や市役所職員や自衛官もいるし、官僚や国会議員でヘイトに流されている人もいる。公職者すらその民度がデフォなら日本は前進しないのは当然だ。そりゃあヘイトスピーチデモが野放しにされるわけである。「在日が特権を持っている」と言う妄想や「乙武はカタワの分際で俺すら行けないオシャレなレストランに行ったあげくにいちゃもんつけやがって」という卑しい感情を、マトモな立場にいる中年が持っているのだから。

 

 しかし、彼らの方がいまの若者より先に定年になるし先に死ぬのだ。少子化だろうと若い世代にいずれバトンが渡され、社会の主導権を握ることになる。その未来のためにも、中年の「問題点」を反面教師にすることはあっても、負の要素に流されてはいけないだろう。

 今のNHK記者クラブ・通信社系のマスコミの閉鎖的で画一的で低級な情報空間や在特会を生み出す源泉になった2chやはてなのネット原住民の冷笑や憎悪に躊躇のないゴミのような情報は、できれば若者は観ない方がいいだろう。テレビ離れ、パソコン離れ上等である。

 そのかわり、図書館や書店に行き、昔の人の知識に学ぶのである。海外書籍の翻訳版をじっくり読み込むのである。ケーブルテレビやスカパーを通じて、「チャンネル銀河」の大昔の名作番組や、「BBCワールド」の報道や素晴らしいドキュメンタリー番組を観るべきだろう。マスメディアは若者の間で流行っていることを若者の感覚で伝えているわずかなコンテンツだけ娯楽的に消費していればそれでいいのだ。