日本の保守勢力が群がる頼りない「親日」アメリカ人たち——「テキサス親父」トニー・マラーノとマイケル・ヨン

12/11/2014 - 11:31 am | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

以下は、『週刊金曜日』2014年12月5日号に掲載された記事「お粗末じゃないか“テキサス親父”」の元原稿です。この原稿を書いたとき、事情によりコンピュータにアクセスできず、iPadで文章を書いたのですが、普段使っている文書作成ソフトを使えなかったため文字数を確認できず、予定されていた文字数を大幅にオーバーしてしまいました。

その後、編集者の方と一緒に分量を削りに削って最終稿を仕上げたのですが、その際いつもより多めに編集者の方の手を借りてしまったので、100%自分の記事だとは言いづらい状態になってしまったので、今回は出版された原稿ではなく、元原稿(にあとから少し手を入れたもの)をここに公開します。「お粗末じゃないか〜」というタイトルも、短いスペースに工夫して編集者の方が考えてくださったものなのですが、自分のスタイルと少し違うので、ブログ公開版のタイトルは別につけさせていただきました。

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十一月二十一日、米国ホワイトハウスは、十三万人近い賛同をを集めた「グレンデール市の公園に設置された慰安婦像を撤去せよ」との請願に対し、シンプルな回答をウェブサイトに掲載した。「一般的に、公園における記念碑等の設置は連邦政府ではなく自治体の管轄です。地元の関係者に問い合わせてください。」

以前本誌(『週刊金曜日』2014年6月13日号)で報告したように、この像をめぐっては日本人保守勢力などによって「像の設置は自治体による連邦政府の外交権に対する侵害である」とする裁判が起こされており、その連邦政府自身が公式に「像の設置は自治体の問題」と明言したことは保守派にとっては打撃だが、回答自体はごく当たり前のものだ。とはいえ、昨年十二月に提起されて以来、ホワイトハウスへの署名活動は、ソーシャルメディアを通して保守派によって拡散され、運動動員の道具となってきた。

この署名を提起したのが、ここのところ日本の保守系メディアで注目を集めている「テキサス親父」こそトニー・マラーノ氏だ。いちおう肩書きは評論家となっているが、もともと動画サイトで自分の考えを発表していただけであり、米国の論壇での活動実績はない。それがいまでは日本の保守系メディアに複数の連載を持ち、たった一年の間にいくつもの著書をベストセラーに送り込む人気者となっている。いっぽう、保守系以外のメディアではほとんど相手にされることすらなく、影響力に比べてまともに扱われた試しがない。

マラーノ氏が日本のネットメディアで注目を集めたのは、署名をはじめる少し前のことだ。かれはグレンデールの慰安婦像を訪れ、落書きを描いた紙袋を慰安婦像の頭に被せた写真を撮り、ネットで公開した。紙袋を被せた理由は、『WiLL』(2014年9月号)に掲載された本人の弁によれば、慰安婦は容姿が醜かったと米軍の公文書に記載されているからだ、という。こうした挑発的な言動は、すぐに一部の保守派の喝采とともに多くの人の反発を呼び、その騒動がメディアに取り上げられる。そのタイミングを狙って署名活動ははじめられたのだ。

もともと過激な反捕鯨団体への批判をしていたことから日本の保守派に見出されたマラーノ氏の日本におけるエージェントとして契約を結び、テキサス親父日本事務所を運営する会社経営者・藤木俊一氏によると、マラーノ氏のこうした行動は、すべて藤木氏の指示によるものだという。「新しい歴史教科書をつくる会」会報(2014年3月号)に寄せた報告で、藤木氏は次のように説明する。

「資金も力も政府からのバックアップも無い中で、署名を完遂するには、まず合法的なやり方をもって韓国側に火を付け大炎上させて、それが日本に飛び火すると言うシナリオが必要でした。そこで考えたのが『写真一枚で韓国を大炎上させる作戦』だったのです。その作戦とは、グレンデール市にある慰安婦像に目鼻口をかいた紙袋を被せ、それを揶揄した写真をネットに拡散。…韓国世論が炎上すれば、日本でも話題になり10万筆の署名も夢ではないというものです。」

さらに十月には、マラーノ氏はグレンデール市議会に出席し、誰でも自由に数分間の発言が認められる制度を利用して、日本軍「慰安婦」とともに第二次大戦後に韓国政府によって「慰安婦」にされた女性たちのための碑も設置すべきだ、と発言した。そしてかれは、それを『アサヒ芸能』ウェブサイトの連載(2014年11月4日号)では「碑文の『性奴隷』という言葉は嘘」であり、韓国政府は米軍相手の「慰安婦」をドラム缶で輸送したのだから「ポンコツ像(慰安婦像のこと)の横にドラム缶像を建てるべき」と主張した、と誇張して宣伝したことで、ネトウヨと呼ばれるネット上の慰安婦否定論者たちからさらなる喝采を浴びた。

わたしは、かねてからこのマラーノ氏という奇妙なアメリカ人に興味を持っていたのだが、知人らとともに今年の夏に設立した団体、「脱植民地化を目指す日米フェミニストネットワーク(FeND)」のサイトフェイスブックページにマラーノ氏ほか藤木氏、山本優美子氏(なでしこアクション、元在特会)、目良浩一氏(慰安婦像裁判原告、歴史の真実を求める世界連合会)らそうそうたるメンバーが勢ぞろいした「『慰安婦の真実』国民運動」記者会見の写真を掲載し、「日本の『慰安婦』否定論の顔」というキャプションをつけたところ、マラーノ氏本人がコメントを寄せてきて、何度かやり取りすることができた。

Faces of CW Denialism

マラーノ氏の当初の言い分は、自分は「慰安婦」の存在を否定しているわけではないのだから、慰安婦否定論と呼ぶのは間違いだ、というものだった。しかし歴史否定論というのは、ある歴史的事象について重大な事実を否認することをさすので、この反論は当たらない。ナチスドイツによるホロコーストはあったけれども本来の目的は虐殺ではなく国外追放だったとか、ヒトラーらナチス幹部は虐殺を知らなかった、あるいは犠牲者の人数は数千人に過ぎなかったという論者たちも、ホロコーストの存在自体を丸ごと否認する論者たちと同じく「ホロコースト否定論者」と呼ばれるのと同じだ。

そう反論されると、こんどはわたしたちFeNDは「慰安婦」について一九四四年に米軍が作成した報告書について知らないのではないか、と言ってきた。マラーノ氏が慰安婦像に紙袋をかぶせる口実とした記述に加え、「慰安婦はただの売春婦に過ぎない」「彼女たちは比較的贅沢な暮らしをしていた」といった文面を含むこの報告書は、よく慰安婦否定論者によって選択的に引用されている。しかし全体をきちんと読めば、多くは未成年だった女性たちが騙されて連れてこられ借金を負わされて売春を強要されたことや、借金の返済とともに食料や生活必需品を慰安所経営者から高額で購入させられたため生活が苦しかったこと、慰安所の運営や規則、スケジュール、料金などを軍が直接管理していたことなどが明らかとなり、決して日本軍の責任を軽減させる内容ではない。

マラーノ氏はこうした反論に一切答えることができないばかりか、「自分が慰安婦像に紙袋を被せたと言った証拠はあるのか、名誉毀損だ」と非難を繰り返した。『WiLL』に掲載されたマラーノ氏の記事を直接引用しても、その内容を否定する始末。さらに、グレンデール市議会の記録動画を観る限り「性奴隷は嘘」「米軍相手の慰安婦」「ポンコツ像/ドラム缶像」などとは一切言っていないようだがどうして『アサヒ芸能』の記事ではそのような発言をしたと書いたのか、と聞いても、答えてくれなかった。こうまで支離滅裂だと、テキサス親父名義で発表されているコラムや著書を本当にかれ自身が書いているのかすら怪しくなってくる。

なお、マラーノ氏との議論の中、Shun Fergusonこと「テキサス親父日本事務局」の藤木氏も一度だけコメント欄に登場し、日本軍が騙しや誘拐による「慰安婦」の勧誘を抑止しようとした証拠の文書がある、と言ったが、それはもしかすると日本内地だけを対象とした一九三八年の陸軍副官の通達ですか、と聞いたところ、その後返事はなかった。マラーノ氏と違い、引き際をわきまえているらしい。

ここまで見てきて分かるように、マラーノ氏は評論家を名乗るほどの知識も見識もないただのテキサスのオヤジに過ぎないが、それでもかれの存在には注意する必要がある。それは、かれ自身がどうというのではなく、かれに続いて「日本の味方」を自称するアメリカ人「評論家」がこれからも出てきそうな雰囲気だからだ。というのも、本誌(『週刊金曜日』)十月三十一日号に掲載された山口智美氏の論考でも紹介されている通り、日本の保守勢力は、「慰安婦」問題の「主戦場は米国」を合言葉に、米国の研究者や政治家・メディア関係者に接触し、かれらに同調してくれるアメリカ人の同士を作ろうとしている。わたしが直接話を聞いた範囲でも、日本研究の専門家でかれらにアプローチされた人は何人もいる。

いま、そうしたポスト「テキサス親父」に一番近いのは、米軍出身のジャーナリスト、マイケル・ヨン氏だろう。かれはこの数ヶ月、世界中を周って一次資料を集め検証した結論として、「慰安婦」問題はまるまる虚偽であり、米国の同盟国である日韓を離反させるための中国など敵対勢力による詐欺的陰謀である、とまでソーシャルメディアで言い切っている。ここのところ『産経新聞』にも何度か登場しているから、お馴染みかもしれない。

米軍に極めて近い立場のヨン氏が、「慰安婦」問題による日韓の離反を懸念していることはよく分かる。しかし、だからといって「慰安婦」問題について「一部誤解されている」どころでなくまるっきりの虚偽だと言い出すのにはどういう背景があるのか気になっていたのだが、マラーノ氏とのやり取りの数日後、こんどはFeNDのフェイスブックのページにヨン氏が登場した。かれが持ち出した根拠は、やはり一九四四年の米軍報告書、そして八月に朝日新聞が吉田清治氏の記事を撤回したことだった。

せっかくの機会なので「あなたは世界中を飛び回り一次資料を収集したと言うのに、どうして日本で少なくとも二十年以上前から論じ尽くされた論点しか提示できないのか、あなた独自の取材で見つけた新事実なり、新たな論点がないのか」と聞いてみたが、「自分が事務所を置くタイでは慰安婦は問題になっていない」「慰安婦問題は米国の戦略を妨害しようとする工作だ」と言うばかり。いったいどこでどのような取材をして、どのように議論の深化に自分が貢献できると思っているのか分からないが、保守系メディアではもてはやされつつある。

誇り高き愛国者であるはずの保守派がこうした頼りない素人同然の「親日外国人」をこれほどまでありがたがる理由は理解しかねるが、かれらが米国の知識人(と呼べるのかどうかも怪しいが)の中でも例外中の例外であることは忘れてはいけない。これからも「米国の知識人が慰安婦問題を否定」といった記事が保守系メディアに掲載されるだろうが、それで「慰安婦」問題をめぐる国際的な論調が後退することはおそらくない。かれらに騙された日本の一部の読者たちが、世界から孤立していくだけだ。

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