露INF「違反」:米、経済制裁や軍事での対抗措置検討
毎日新聞 2014年12月11日 11時07分
【ワシントン和田浩明】ロシアが中距離核戦力(INF)廃棄条約に違反して核弾頭搭載可能な地上発射巡航ミサイルを開発したと米国務省が今年7月、認定していた問題で、ガテマラー次官(軍備管理・国際安全保障担当)は10日、米下院の公聴会で証言し、ロシアに対する経済制裁や軍事分野での対抗措置を検討していることを明らかにした。ロシア側は違反事実を認めず米国の「違反」を非難しており、事態打開は困難な情勢だ。
米国は今年7月、ロシアがINF条約が生産や保有、試験発射を禁じている射程500〜5500キロの核弾頭搭載可能な地上発射巡航ミサイルを開発したと正式発表。ロシアに問題のミサイルの廃棄や開発・保有中止を求める交渉を重ね、9月にもモスクワで高官レベルの協議を行った。
しかし、ガテマラー次官によると、ロシアは問題のミサイルの存在すら認めず、条約違反はないと主張しているという。同次官は、世界の核兵器の9割以上を米露が保有していることに触れ、両国には「特別な責任がある」と強調。米露共に条約の維持では一致しており、ロシア側から交渉などを通じ譲歩を引き出す努力を続ける意向を示した。
同次官はINF条約違反やウクライナでのロシアの親露派軍事支援は「信頼を損なっており、対処が必要だ」と指摘。「経済措置」を検討していると明らかにした。また、軍事分野でも「INF違反でロシアが大幅な優位に立たないよう選択肢を評価している」と述べた。
同席した国防総省のマキオン筆頭副次官(政策担当)によると、違反ミサイルを欧州かアジア太平洋地域にロシアが配備した場合の脅威について、米軍の統合参謀本部が軍事的評価を実施。これに基づき「広範な軍事的対応」を再検討したという。
マキオン氏は事態の悪化は望まないと述べた上で「ロシアが意味ある関与をしなければ、米国や同盟国の利益と安全を守るため行動せざるを得ず、そうなればロシアの安全も損なわれる」と指摘した。
◇中距離核戦力(INF)廃棄条約
米ソ両国が射程5500キロまでの中距離核ミサイルの全廃を決めた史上初の特定核兵器の全廃条約。1987年12月、当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が署名し、東西冷戦終結の流れを加速させた。双方は91年までにすべての中距離ミサイルを廃棄。ソ連崩壊でロシアが条約を継承した。