NPO ピープルデザイン研究所代表理事 須藤シンジ
 
テレビをご覧のみなさんは、田中さん、鈴木さん、高橋さん、佐藤さん、あるいは渡辺さんという苗字の友人は何人いますか?一方で、心や体に障害のある友人は何人いますか?現在日本でなんらかの障害者があると言われる人は約6%。先にお聞きした苗字のかたとほぼ同数いらっしゃいます。障害者が健常者と“共生して暮らしている”とすると、これらの苗字の友人の数だけ、障害がある友人がいてよいはずです。しかし、現実には健常者と障害者の多くは、「分かれて」暮らしています。私は、こうした現状を変え、健常者と障害者が一緒に暮らす社会、「超福祉」社会を、作り上げたいと考えています。今日はこの、「超福祉」社会についてお話いたします。

私が代表を務めるNPOでは、先月、行政や大学などとも連携し、都内で「超福祉展」という展示会を開きました。
 
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7日間で1万3千を上回る人々が訪れ、「こんな福祉機器の展示会はこれまでになかった」と多くの反響をいただきました。車椅子を中心に、福祉にまつわる技術やサービスなどを展示したのですが、普通の福祉展とはちょっと違います。
 
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こちらは車椅子です。大手電動機メーカーの最新モデルです。
女性誌などでも注目されている、人気・服飾デザイナーと組んでメーカーさんが作り上げました。
優雅で流れるようなシルエットです。
ドレスを着て乗りたくなるようなデザインが特徴です。
 
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一方、ベンチャー企業が作り上げたこちらの2つの車椅子は、操作性に特徴があります。
左のものは体重移動だけで乗りこなすことができます。右のものは、片手の手元で簡単に操作でき、狭い空間やデコボコ道でもスムーズに走ることができる四輪駆動です。試乗した来場者からは「すごい!」「私も使いたい!」との声があがっていました。
 
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こちらは、義手や義足の展示です。デザインのテーマは「着替える義足」です。いずれも3Dプリンターで出力されたものです。機能にこだわった「見せるため」の商品として提案しました。

 私たちが、展示品にこだわったのは「かっこいい!」「かわいい!」と誰もが使ってみたくなる、触ってみたくなるものです。諸外国を見ると、実に多種多様な車椅子を中心とする福祉機器が多い国もあるなかで、日本国内で目にするそれは、色や形、機能がかなり限定されています。また車椅子にまつわるイメージも、正直「かわいそう」という印象が強いのは否めない事実ではないでしょうか?
車椅子や義手、義足などの、いわゆる福祉用具を見て、「できれば使いたくない」と感じる方も多いでしょう。
そんな福祉機器が、もし、「かっこいい」「かわいい」という印象を伴う、誰もが「欲しいもの」に変われば、それを必要とする方や、使っている方への偏見に似た「負い目」や「印象」は大きく変わるはずです。

デザインには、こうした変化をもたらす力があります。例えばメガネ。私は子供の頃、眼科で処方され、医療用具としてメガネを受けとりました。どのメガネを選ぶのか、選択肢はほとんどなく、ビン底のように渦巻いた黒縁メガネを受け取って、「できればかけたくない」と思ったものです。できれば使いたくない、使う人にはなりたくない、ある種の「負い目」。心のバリアです。
あれから40年。現在はどうでしょう?メガネはファッションにかかせない雑貨になりました。アイウエアと呼ばれ、目が良い人でもおしゃれをするためにメガネを着替えています。人気のファッションビルには必ずメガネ屋さんが入っています。メガネのデザインが変わり、そしてメガネという概念が変わったからではないでしょうか。
 私達の提案する超福祉とは、「負い目」というものに似た「心のバリア」を「憧れ」へ転換させる提案です。従来の福祉には、ゼロ以下にある人たちをゼロに引き上げようとする視点があるように思います。一方で、私たちの目指す「超福祉」の視点は、そもそも全員ゼロ以上の地点にいて、その違いを認め合おうとするものです。さらに言えば、ハンディキャップがある人=障害者が、あるようには見えない人=健常者よりも「かっこいい」あるいは「凄い」と尊敬される未来をさして「超福祉」と呼んでいます。

私がこうした活動を始めるきっかけは、20年前、次男が重度脳性麻痺を伴って生まれたことでした。期せずして私達家族は福祉サービスの受けてになりました。当時使用していた装具や福祉用具は機能重視の気が滅入るものばかりでした。「福祉」と呼ばれる日常から、正直なところ息子の明るい未来は全く想像できなかったのです。それを使う当事者として感じる「負い目」。周囲から受ける「弱者救済的」な同情。バリアフリーという言葉や施設は増えていたものの、最大のバリアを私達の習慣や環境に根付いた「心や意識」に感じるに至りました。
障害者と健常者が当たり前に混ざり合う為に必要なことは、お金や物理的なバリア以上に心のバリアフリーが必須だと考えます。心のバリアフリーを、デザインを用いながら実現できないか、それが私の想いです。2年前、同じ思いを持った仲間たちとともに「ピープルデザイン研究所」というNPOを立ち上げ活動しています。

 私たちが取り組む「デザインによる心のバリアフリーの実現」「超福祉社会への挑戦」は今、自治体にも広がっています。東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年を目標として、健常者、障害者がともに暮らす社会、ダイバーシティを地域の価値にしていこうという自治体が増えています。
今年7月には、私たちは川崎市と包括協定を締結しました。例えば市内で行われるJリーグのゲームでは、おおむね100名強のスタッフが働いています。このうち約6名の雇用枠を私たちがお預かりし、障害のある人々に働いていただいています。障害者を「招待する」のではなく、ファンの皆様を「もてなす側」に回っていただいているのです。スタッフ同士、そしてスタッフとサッカー・ファンのみなさんが、コミュニケーションするきっかけをつくろうという取り組みです。障害者就労体験という要素もあります。
 
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 また、渋谷区とは、区内の商店街を歩行者天国にして、子どもからお年寄りまで、外国人も含めて、混ざり合っていこうというイベントを開いています。一緒に道に画を書いたり、踊ったりしながら、会話を楽しむ催しです。先の「超福祉展」も渋谷区と共同で開いたものです。こうした取り組みを通して、2020年には、オリンピック・パラリンピック会場に向かう人たちの玄関口たる場所として、より魅力的な町になるはずだと考えています。

福祉は英語でWelfareと言います。人生という1人1人の旅路を、よりよいものにするという意味が込められているそうです。障害者への弱者救済・慈悲慈善という福祉を超えて、私達自らの幸福の為にある福祉の形、自分達の未来を自分達で創る方法はある。私たちはそう信じています。