第4部(1) 足りない土器片が鍵
2013年09月07日
南米ペルーの世界遺産「ナスカの地上絵」。山形大の研究チームはペルー文化省に世界で唯一許可された調査団として今夏も現地入りした。ナスカ市に構えた同大人文学部付属ナスカ研究所を拠点に、台地に残された土器の登録や地上絵の保護の検討などに取り組んでいる。メンバーは文化人類学、アンデス考古学、認知心理学、情報科学、保存科学など多彩な分野の精鋭たち。山形新聞、山形放送のことしの8大事業「ナスカの伝言-解明に挑む山形大」の第4部は、現地取材を基に、地上絵の制作目的やナスカ文化全体の謎に迫る。(報道部・鈴木悟)
ナスカ台地で土器の破片(右下)を確認する坂井正人教授(右)ら。地上絵を傷付けないようにゴム製の巨大サンダルを履く=ペルー
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地上絵の制作目的には諸説ある。近年、最有力とされているのが「豊穣(ほうじょう)儀礼説」だ。豊穣儀礼と「足りない土器片」にどんな関係があるのか-。 ■雨乞いの儀式 ナスカ期の人々は、ナスカ台地周辺でトウモロコシなどを栽培していたとみられている。農業には水の確保が重要だが、ナスカ地方はほとんど雨が降らない。例年1~3月ごろ、高地で降った雨によって、普段は干上がっているナスカ川やインヘニオ川に水が流れ、台地周辺の農地を潤す。坂井はナスカ周辺の現代の農民を対象に「豊穣をもたらす水に対してどのような認識を持っているか」を調査している。 坂井は「海水を山でまき、『海の霧』を発生させて『山の霧』と衝突させることで、雨が降ると信じているのではないか」と説明する。つぼを割る、そして一部を別の場所に持ち出すという行為。ナスカ台地の「足りない土器片」との共通点が見えてくる。 ■付着した塩と藻 もう一つ興味深い「事実」がある。台地で見つかった土器片の内側の付着物を分析したところ、複数から塩化物イオンと硅藻(けいそう)が検出された。塩化物イオン濃度は土器片の真下の土壌が高く、離れるにしたがって下がっていく傾向が見られた。 研究チームに参加した日本学術振興会特別研究員の瀧上舞(考古科学)は8月下旬、台地の南北を挟むようにして流れるインヘニオ川とナスカ川が合流するリオグランデ川の河口から海水をくみ上げ、研究所に持ち帰った。ナスカ期の人たちが、約50キロ離れた海岸まで出向き、土器に水をくんで台地で割った-という仮説を検証するためだ。研究所の敷地で、海水を入れた土器を割ったり、放置したりして、塩化物イオンや硅藻がどれほど残るかを観察している。 ナスカ期の人たちも現代の農民と同じように台地で雨乞いを行っていたのだろうか。坂井は「現代の儀礼で、ナスカ期の行為や目的を断定することはできないが、可能性は否定できない。科学者たちと実証的に検討していきたい」と語った。 =敬称略 【ナスカの地上絵】 地上絵が描かれているナスカ台地は首都リマから約420キロ南東に位置する。面積は新庄市とほぼ同じ220平方キロメートル。動植物などの絵は30ほどで、幾何学模様が220以上、直線が750以上と圧倒的に多い。制作年代はナスカ期(紀元前200年~紀元後700年)やパラカス期(紀元前400年~同200年)と考えられている。1994年にユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録。正式名称はナスカとフマナ平原の地上絵。 ナスカの伝言 記事一覧
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