お城に関するおすすめの入門・概説書「城郭の見方・調べ方ハンドブック」西ヶ谷 恭弘 編著
お城巡りは楽しい。近世以降の現存する城や復原された城なども良いが、個人的には中世の遺構だけになっている城趾を訪れて、往時を偲ぶのが好みだ。
お城巡りは一過性のブームというよりは永続的な趣味として広く受け入れられている気がする。最近だと天空の城の異名が付けられた兵庫の竹田城が話題となっているし、映画化されてヒットした歴史小説「のぼうの城」の忍城、大河ドラマは例えば「八重の桜」では会津若松城(鶴ヶ城)、「軍師官兵衛」では三木城というように毎年のように城が描かれ、さらには「艦隊これくしょん」ブームから派生しての城郭の擬人化ゲームが次々とリリース(「御城プロジェクト」「城姫クエスト」など)されて、注目を集めている。
そんな城に関するコンパクトな入門書・概説書としてこの本はおすすめだ。第一章で天守から屋根、装飾、櫓、御殿建築、門など建築全般を、第二章で城の石垣や縄張りなど土木の特徴を構造的に、第三章で城郭の歴史を俯瞰し、城の多様性に目を配りつつ編年的にまとめている。巻末にはより理解を深めるための城郭関連図書のまとめもある。また城の図版や写真も豊富で非常に楽しい。一般的な戦国・近世城郭だけでなく、アイヌのチャシ、琉球のグスク、独自発展を遂げた東北城館はもちろん、朝鮮出兵次の倭城まで幅広く取り上げられている。ビギナーからマニアまで納得の内容なんじゃないかと思う。
「天守」一つとってもその種類は多様だ。現存する天守建築は十二城だが、まず天守の下層部が大入母屋になっているかどうかで望楼型天守(大入母屋があるもの)と層塔型天守(ないもの)に分かれ、慶長年間以前に築かれたものが、現存するものとしては犬山城や丸岡城、また推測だが安土城天主や岐阜城もそうだと言われる「初期望楼型天守」、慶長年間以後が姫路城・松本城などに見られる二層の大入母屋や大規模望楼部分などが特徴の「後期望楼型天守」となり、名古屋城天守の出現を契機として慶長年間以後望楼型天守から「層塔型天守」へと発展していく。
城郭の窓の変化も面白い。日本の歴史上、建築物に窓が付けられるのは十五~六世紀に入ってからのことだ。土壁の強度を保ち崩れないようにしつつ窓枠を作るというのは大きな技術革新を要した。平安時代の寝殿造りの建物は蔀戸(しとみど)と呼ばれる、跳ね上げ式の格子戸で明かり取りを行い、この開け閉めはかなり重労働であったらしい。室町時代に大材を製材するための「大鋸(おが)」(のこぎりのこと)が中国から輸入されたことで『窓枠と壁に、竹や板角材を入れることにより、窓ができるようになった。』(P56)。まず茶室に導入され、茶室から城郭に応用されるようになった。突き上げ戸を持つ武者窓、堅格子が入り弓矢や鉄砲の射撃を行える格子窓、金閣寺や銀閣寺から姫路城や彦根城などまで見られる禅宗様を特徴とする装飾性の高い華灯窓などだ。
城の種類として平城、山城、平山城、水城などと言われるが、この違いを理解するには城郭の歴史を紐解かないとわからない。平安時代、律令制の衰退から荘園制へと移行するとその管理者として武士が登場する。彼らは館を本拠に勢力を拡大、鎌倉幕府の成立によって地頭として各地に領地を持った彼らは方形居館という館を中心に地方支配体制を確立する。この頃の城については以前記事に書いた。
やがて南北朝時代から戦国時代へと突入するなかで、恒常的な要害の必要性が高まり、防衛拠点としての山城が登場する。平地から山地へと武士の本拠が移る中で、特に険しい山地が少ない関東地方では丘陵地の特に舌状台地の先端部を切り開いて館と山城の機能を兼ね備えた城郭を建設する。これが平山城である。例としては江戸城がそうだ。一方で、地方統治の利便性から地方支配の拠点としての「平城」を平地に置き、周囲に防衛網として山城を配置する形式もまた登場する。例えば甲斐武田氏の躑躅ヶ崎館や織田氏の清須城などである。
本城である平城を守りあるいは敵地に侵攻するため他国との境界線上に配置された支城のネットワークを特に「境目の城」と呼ぶ。このように築く目的によっても城は分類できる。境目の城の他、移動基地としての「繋の城」、狼煙など通信伝令を目的とした「伝の城」、敵の「境目の城」攻撃のための陣である「付城」などだ。
また城の区画構成によって連郭式、並郭式、階郭式、梯郭式などにも分けられる。連郭式は痩せ尾根の先端を城とした居住面より戦闘性を重視したもので岐阜城などがその代表格、階郭式は『緩斜面の比較的独立性の高い山の超常と斜面に削平地を施して、階段状に区画を形成、多くの者たちが籠城・生活』(P89)した山城で安土城を始め、上杉氏の春日山城などを皮切りに、江戸城など近世城郭のスタンダードとなっている。
城郭について体系的に理解できるだけでなく、細部にわたって様々な発見があり、非常に面白い一冊だと思う。これを読んでより知識と興味の範囲を広げた上でのお城巡りは、一層楽しめることは間違いなさそうだ。
関連記事
城址散策記事