ロックンロール史に残るドラッグソング10 by 久保憲司

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ロックンロール60年の歴史と切っても切り離せない<ドラッグ>。ロックンロールとアンフェタミン、サイケとLSD、レイヴとエクスタシー等、個人の趣向とは別に、時代ごとの流行や、ジャンルとも密接な関係にあることは、音楽ファン(とくに洋楽ファン)ならご存知のことでしょう。今回はそんな<ドラッグとアート>をテーマに、フォトグラファーの久保憲司氏が10曲をセレクトしてくれました。数々のシリアスな、もしくは笑わずにはいられないお馬鹿なエピソードも交え、ポップミュージックの一側面をぜひお楽しみください(編集部)

1. The Beatles – Rain




ビートルズには「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」「アイ・アム・ザ・ウォルラス」などの最強のドラッグ・ソングがたくさんあるが、僕はその中でもジョン・レノンの「レイン」が一番だと思う。この曲を聴くと、LSDをキメたジョン・レノンが雨の公園を楽しそうに散歩しているのが、いつも目に浮かぶ。

LSDをキメるとみんな公園に行きますな。そして、普通はポール・マッカートニーのように「グッディ・サンシャイン」(リアム風にサンシャ、イ〜ンと訛ってみましょう。元はビートルズですが)と歌うのですが、「雨が降っているけど、別にいいんだ」と歌うところがジョン・レノンらしいです。

後半、デヴィッド・リンチの映画というか、LSDを決めたときに「人の声って、こう聞こえるよね」という神秘主義の呪文のような声が入ってくるのも最高。この部分を聴けばLSDをやったような気持ちになれます。ヘッドホンして爆音で聴いてみてください。

この音がどうやって生まれたかというと、家でマリファナを吸いながらデモテープを聴こうとしたジョン・レノンが、間違ってオープンリールのテープを反対にテープをセットしてしまい、逆回転のこの声が聞こえてきて「これは神からの贈り物だ」と叫んだそう。

この現象をスタジオで再現してもらおうとジョージ・マーティンに説明すると、ジョージ・マーティンは丁寧にそれを科学的に説明してあげたそうだ。ジョンは“このオッサン何言ってるんやろ”とポカーンとした顔できいていたそうだ。これが天才と凡人の違いですよね。




2. Bob Dylan – Mr. Tambourine Man




ボブ・ディランがビートルズの面々にマリファナを教えたというのは有名な話だが、その時ハッパをうまく巻けなかったんだそう。ボブ・ディランも知ったかだったんですね。

そんなボブ・ディランの代わりにハッパを巻いてあげたのが、ミスター・タンバリンマンと歌われているアル・アロノヴィッツ。

ミスター・タンバリンマンというのは何か? アシッド・パーティーで一人だけアシッドをやらない人のことを、ボブ・ディランはミスター・タンバリンマンと名付けた。なぜアシッド・パーティーでLSDをやらない人がいるかというと、おかしくなった人をシラフでコントロールする人が絶対必要だからです。そうじゃないと、あのロバート・ワイアットみたいに木の上から飛び降りて、取り返しのつかないことになってしまう悲劇がたくさん起こったからです。

ボブ・ディランが出だしで“ヘイ、ミスター・タンバリマン、プレイ・ソング・フォー・ミー”と歌うのは、「演奏してくれ」と言っているんじゃなく、レコードをかけてくれと言っているんですよね。ボブ・ディランがパーティーでクッションにもたれながら、パーティーのホスト、アル・アロノヴィッツにレロレロな声で「おい、レコード止まっているぞ、なんか曲かけてくれよ」と言っているのが目に浮かんできます。64年にこんなアシッド・パーティーやっていたのかと思うとビートの連中は凄いですな。僕が生まれた年ですよ。僕らの世代は押尾学のセックスパーティーですけどね。情けない。

ボブ・ディランはアル・アロノヴィッツの話を否定していて、この曲は「(ニューオリンズのお祭り)マルティグラに行く途中の友達たちとの旅を歌にしたものだ」と言ってます。そうだとするとこれは完全に映画「イージーライダー」の原型ですね。主人公たちがマルティグラでLSDをキメてトリップするシーンはまさにこの歌の再現なんでしょう。

またボブ・ディランとアル・アロノヴィッツの話を「間違っている。あれは私の家でのパーティーでの話よ」と言っているのが、この曲をカヴァーしている60年代の大物女性シンガー、ジュディ・コリンズです。どれが本当なのかわかりませんが、とにかくみんな飛びすぎです。

でも、ボブ・ディランがすごいのは、レロレロになりながらも、“I’m ready to go anywhere, I’m ready for to fade Into my own parade, cast your dancing spell my way I promise to go under it”と歌うのです。これはまさにこの歌が作られた5年後に、何十万人もの若者たちがカウンターカルチャーとなってウッドスックに集結する姿を予見しているかのようです。…それともみんなは、ボブ・ディランの歌に感動して、同じように自分たちのパレードを歩きだしたのでしょうか?




3. The Stone Roses – She Bangs The Drums




「ミスター・タンバリマン」の歌詞と見比べながら聞くとストーン・ローゼズはミスター・タンブリマンを意識しているのがわかると思います。ミスターが彼女になって、タンバリンがドラムになって、LSDがエクスタシーになっただけですね。

新しい針を新しいレコードに落とそう、地球が動きだすという表現で、彼らもまた時代が変わるということを予言し、そして、それは本当にラヴ・パレードに百万人もの人が集まる新しい世代となったのです。




4. The Ramones – Now I Wanna Sniff Some Glue




1曲目、2曲目、3曲目と長々と書いてしまいました。後は手短かにいきます。ヒッピーとアシッドハウス世代はポジティブなんですが、その間のパンク世代はシンナーやるしかない、どこにも行けない世代でした。「シンナー吸う」と歌うだけのラモーンズ、初めて聞いた時は「シンナーは体に悪いで」と思いました。田舎のヤンキーですね。でも、昔のロックのドキュメタリー見てたら、海外のアーティストもけっこうシンナーとかも吸っていたみたいですね。恐ろしいです。




5. Johnny Thunders & The Heartbreakers – Chinese Rock




シンナーより恐ろしいドラッグがヘロインです。バーズの「ロックンロール・スター」のアンサーソングみたいなリフにのって「ロックンローラーを夢見てきたけど、今じゃヘロイン中毒になって、機材は全部質屋に入って、シャワー室では彼女が泣いている」と歌われます。




6. The Velvet Underground & Nico – Heroin




そんな恐ろしい中毒になるヘロインを神のように崇めたのがこの曲。こういうNYの生活に憧れてシド・ヴィシャスは大変なことになりました。曲が速くなったり遅くなったりするのはヘロインのラッシュ(効いてくる感じ)の状態を表現しようとしているのですが、バカっぽいですね。シドも「バカっぽいな」と思っていれば、あんなことにならなかったのに。




7. The Beatles – Girl




バカっぽいといえば、ビートルズの「ガール」。ボブ・ディランから教えてもらったマリファナを何とか歌に取り入れられないか、と彼らが考えたのが、ハッパを思い切り吸い込む音。バカです。「スー」というコーラスというか効果音のような息を吸っている音がそれです。飛んだはったんでしょうね。後にドラッグの副作用ですごい作品を作っていく彼らも、初めの頃はこんなもんです。ヴェルベッツと変わんないですね。でも、スーという音を聴くと、なんかやってなくっても気持ちよくなります。

映画「ヘルプ」を見ていると彼らがいつもニコニコしているのがわかります。ハッパを吸ってご機嫌だったからだそうです。




8. The Only Ones – Another Girl Another Planet




「チャイニーズ・ロック」と並ぶ胸キュン・ソング。ジャンキーの俺を理解してくれる天使のような女性はきっと別の惑星にいるはずだと歌う、超勝手ソング。でも、きっとどかに理想の女性、男性がいると思わせてしまう。なんでなんでしょうね。ジャンキーのピュアさなのでしょうか。




9. David Bowie – Station To Station




コケインの歌も挙げとこう。ということで選びました。グランドマスター・フラッシュの「ホワイト・ライン」でもよかったのですが、“これはコケインの副作用か、いや違うはずだ”と「自分の優れた作品が自分の内面から生まれたものじゃなく、ただのコケインの妄想じゃないか」と自問する歌であり、なんとか正常な人間になろうとする歌。何回聞いても感動します。頑張ろうという気になります。




10. The Beatles – We Can Work It Out




日本曲名は「恋をしよう」ですが、歌詞をじっくり読んでみてください。これはポールとジョンがドラッグについて議論している歌なのです。

ジョンがポールにLSDを勧めているんですが、ポールが「君は“正しいことじゃないけど大丈夫だ”と言う。でも、それをやることで僕たちの築いてきたものが一瞬にして全て台無しになるかもしれないんだよ」と歌っています。こんな意見の食い違いがあり、しかも「なんでこんなことを一晩中話さないといけないんだい」とポールが歌うように二人が凄く言い合いしているのが分かります。

でも、意見が違っても曲ではちゃんと仲良くコーラスをキメている所が凄い。ビートルズは本当に偉大なバンドです。こんなバンドの話し合いを正直に告白しているのも偉い。そして、この曲は「ディ・トリッパー」のB面だったんですよ。

でも、ポールが正しいですよね。ドラッグなんかやらなくっても素晴らしい曲はかけるはずです。We can work it out without drug です。ドラッグなしでもやっていけるよ、です。



(久保憲司)

久保憲司

カメラマン&ライター。「ダンス・ドラッグ・ロックンロール ~誰も知らなかった音楽史~」発売中。なんとNO2も出ました。「ザ・ストーン・ローゼズ ロックを変えた1枚のアルバム」 電子書籍「ロックの闘争」お仕事の依頼はkenji.kubo@m6.dion.ne.jpまで。

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