福島第一原発の事故から3年9カ月。現場では、地下水の流入による汚染水が今も増え続け、溶け落ちた核燃料は高い放射線量に阻まれて所在すらわからない。12万人の福島県民が住まいを離れ、まもなく4度目となる正月を避難先で迎える。

 衆院選は後半戦を迎えている。ただ、原発問題に関する論戦は盛り上がりを欠いている。公示日前日に日本記者クラブで開かれた党首討論でも、原発に関する党首間のやりとりは1回だった。

 有権者に、衆院選で重視する政策を尋ねると、景気・雇用対策が47%。原発再稼働は15%にとどまる。一方で、自民党は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働も国が前面に立って積極的に進める方針を示す。

 事故を契機に、政府は電力自由化へと大きくかじを切った。多様な事業者が切磋琢磨(せっさたくま)してサービスを競い、消費者側が電源を選べる新しい仕組みを導入する。しかし、このまま原発問題への関心が薄れれば、日本は新しいエネルギー社会をつくれなくなるのではないか。事故後、国民の過半が脱原発を選んだはずなのに、である。

■自由化の理念に逆行

 安倍政権の2年で、原発回帰は鮮明になった。

 原子力規制委員会の審査を通った原発はすべて動かす。事故後、周辺30キロの自治体にも避難計画の策定が義務化されたが、再稼働の協議の枠組みには入れない。その避難計画づくりについても、再稼働を前提にすると支援に力は入るが、「本当に実効性があるか」については目をつぶる。

 立地自治体に対して補助金を出す法律上の仕組みもそのままだ。原発に依存し、維持を求める自治体の経済的な動機が温存されている。

 原発で発電した電気を固定価格で買い取る制度の導入も検討中だ。電力自由化を進める際に利益を保証しないと、巨額の費用がかかる原発への投資を事業者がやめてしまうかもしれないからだという。事実上の原発保護策といっていい。

 そもそも、電力会社が地域ごとに市場を独占し、かかる費用を電気料金に転嫁する今の仕組みは、見直しの必要に迫られていた。

 競争による新しい技術やサービスの普及が遅れ、電力業界ばかりでなく、割高な電気料金となることを通じて社会全体の経済的な効率を損なってしまうためだ。原発事故で、大規模な電源に依存するもろさやリスクが明らかになって、見直しが加速した。

 その結果、料金の完全自由化や電力会社の送電部門と発電・小売り部門を分離する電力システム改革を進めることが決まった。新規参入を促し、新しい技術やサービスが生まれやすい社会にすることをねらう。

 新しい仕組みへと移る途上で政府が再稼働を後押しし、原発を保護すれば、新規参入する側にとっては、大きな壁となる。

■先送りできない現実

 安倍政権は、原発をベースロード電源として位置づける理由として、化石燃料ではエネルギーの安定供給につながらないことをあげる。輸入で多額のお金が国外に流出し、国際政治の影響も受けることを重く見る。そこに原発の優位性がある、という理屈だ。

 しかし、福島第一原発のように、放射能が外へ漏れるような大事故が起きれば、国土が狭い日本は壊滅的な打撃を受ける。損害賠償も巨額に達し、民間企業では抱えきれない電源であることは、事故後の東京電力を見れば明らかだ。

 原発をめぐっては、解決しなければならない問題が山積している。

 例えば、全国の原発から出た使用済み核燃料の扱いだ。

 全量を加工して再利用する核燃料サイクル事業は、技術面でも採算面でも行き詰まっており、開始のめどが立たない。

 いまは、多くの使用済み核燃料が安全性の低い燃料プールで保管されており、しかも容量が限界に近づいている。これをどうするのか。

■原点は福島第一に

 老朽化した原発の廃炉にも難題が立ちふさがる。解体した後に出る放射性廃棄物を最終処分する場所がない。公募から10年以上がたつが、何万年もの管理が必要な施設を、どこの住民も引き受けたがらない。事故後はなおさらだ。

 5日に日本記者クラブで会見した内堀雅雄・新福島県知事は「3・11以降いろんな議論が起きたが、今も続いているかというとそうでもない。福島が発信を続けないと本当の意味での国民的議論につながらないのではないか」と関心が薄れていくことに、危機感をにじませた。

 原発を見直す契機になった福島からの声に、私たちはどう応えるのか。一つ一つの課題への向き合い方が試されている。