2014年12月10日10時01分
●円安や株高 恩恵も
「民主党政権時代の円高に戻してはならない。あのときは根っこから仕事がなくなり、企業は逃げるように海外へ出ていった」
9日午後。須賀川市のスーパー前でマイクを握った安倍晋三首相は、この2年間進めてきたアベノミクスの効果をこう強調した。
「第一の矢」である金融緩和が効き、確かにこの2年間円安は進んだ。1ドル=80円台だった円相場は9日には一時121円台をつけた。実に7年4カ月ぶりの円安水準だ。
配線板をつくる広野町の電子機器メーカー「メイコー福島工場」の総務課長を務める下川直弘さん(62)は「円安で受注が増えて景況感も上向きになった」と胸をなで下ろす。民主党政権時代は国内取引先が軒並み円高で苦しみ、受注も減った。いまは「不景気脱出の先が見えた」と感じる。
郡山市内で国産車を扱う50代の男性ディーラーも恩恵を受けた1人だ。今年1、2月の売れ行きは、政権発足直後だった前年の1.5倍に伸びた。
円安に伴う株価の上昇で、株をもつ富裕層のふところが温まり、車や高級時計が飛ぶように売れた。4月の消費税率引き上げ前の駆け込みも追い風となった。「ここ20~30年でこんなに売れたことはない」
●「円安」「人手不足」ダブルパンチ
だが消費増税を機に潮目が変わる。県内でも乗用車新規登録台数は4月以降、前年同月比マイナスが続く。ディーラーも「増税で個人消費は冷え込んでいる」と認める。
行きすぎた「円安」と、復興需要も重なって厳しさを増す「人手不足」。そのダブルパンチを心配する声は県内からも出始めた。
「このままではおいしいラーメンを出せなくなるかもしれない」。
白河市でラーメン店を営む高橋多市さん(59)は輸入原材料の価格上昇に頭を悩ませる。店をオープンさせた16年前と比べ、麺の材料となる小麦の値段はおよそ1.5倍に跳ね上がった。消費増税にあわせて、中華そばの値段を20円上げて650円にしたが、材料費の値上がりで利益は圧迫される。
さらに、募集をかけてもパートを確保することができなくなった。高橋さんは「除染や復興関係のもっと割りのいい仕事に流れているのでは」と感じる。県内の有効求人倍率は、10月に1.45倍まで上昇、22年ぶりの高水準となった。アベノミクスの「第二の矢」である公共事業に仕事を奪われた可能性もある。
●実感なきアベノミクス
仕事が増えたことで、県内で働く人の賃金は徐々に上がるようにはなってきた。しかし、全国を上回るペースで進む物価上昇に打ち勝つ力強さはまだない。
自民党とともにアベノミクスを進めてきた公明党の山口那津男代表は9日、福島市で演説し「消費税率を10%に上げるときには、食料品などの生活必需品の税率を軽くする軽減税率の導入を目指す」と訴えた。
須賀川市のスーパーで買い物をしていた50代の主婦菅原のぶ子さんは「最近、野菜が高い。円安で、ガソリンの価格が上がると大変。冬場は灯油代もかさむ」と不安がる。「アベノミクスは実感がない。庶民が潤うようにして欲しい」
安倍政権がかじ取りした2年間で福島はどう変わったのか。有権者の目を通してその変化を追う。
<アベノミクス> 2012年12月に発足した第2次安倍政権が掲げた経済政策。「3本の矢」からなる。「大胆な金融緩和」で世の中にお金を流通させ「機動的な財政政策」で政府が需要をつくって景気を下支えする。その後「成長戦略」として、規制緩和などで民間の投資を呼び込み、持続的な経済成長を目指す。