2014年12月10日09時58分
川内村の山あいに移り住んだ若井英章さん(56)、美津江さん(54)夫婦に4日、村から240万円の助成金の目録が手渡された。
人口を増やそうと、村が今年度から始めた助成制度の第1号だ。村内に家を新築した人は、土地と建物の購入費の15%の助成を受けられる。
●移住助成は自主財源
夫婦は今年8月、東京・上野の住宅街から引っ越してきた。「窓を開けると隣の家に手が届きそうな密集地だったので、定年後は田舎で暮らそうと決めていた」と東京生まれの英章さん。3月に勤めていた会社を早期退職し、美津江さんが高校卒業まで育った川内を選んだ。
「村の復興はここ1、2年が勝負どころ。移住は本当にありがたい」と遠藤雄幸村長。ほかに村外からきた3組が助成金をすでに申請しているという。
年間総枠の4千万円の費用は村の自主財源で賄った。政府が福島復興の実績に挙げる「福島再生加速化交付金」を使えなかったからだ。予算規模は2013年度と14年度で計1600億円に上るものの、個人の財産供与につながる助成は原則、認められない。
猪狩貢・副村長は「保育園の簡易型プールが被曝したので、買い替えようとしたときもダメ。門戸は開いているが、門から中にはなかなか入れない制度になっている。予算を含め、地元自治体に全面的に裁量を委ねない国の仕組みが復興の足かせになっている」。
●陳情の構図変わらず
国の復興行政に被災自治体の不満はくすぶる。事務手続きを迅速にしようと立ち上げた復興庁に対しても、「担当の省庁に陳情しなければならない構図は変わらず、窓口が一つ増えた分、余計に手間が取られる」(双葉郡のある町長)と批判がつきまとう。
●「嘆くだけでは何も始まらない」希望は忘れずに
それなのに、今回の衆院選で候補者の訴えの力点が復興以外に移っていると感じる有権者は少なくない。
「孫やひ孫の将来のために良い国になって欲しい」。自宅が川内村の避難指示解除準備区域にあり、村の仮設住宅に住む関根マキ子さん(79)は、近所で候補者の演説があれば必ず出向く。「みんな浮ついた言葉ばかりで、耳に何も残らない」と残念がる。
●厚労省は門前払い
双葉郡の町村長たちを失望させたできごとが、今年6月にあった。
約2万4千人の避難者を受け入れているいわき市の清水敏男市長の主導で、合同で首相官邸や厚生労働省を訪れ、医師不足などへの対応を求めた。市内の福島労災病院の整形外科医3人が来年3月で大学の医局に引き上げることになり、地域医療体制の破綻が心配される事態になっていた。
同席した地元国会議員が「全国にある国立病院から連れて来られないのか」と迫っても、応対した厚労省の局長は「先生なら難しいことがおわかりになりますよね」。門前払いだった。
市の関係者は言う。「国会議員の質の低さや選挙の低調さを嘆いても何も始まらない。より良い候補者を選び、活動の中身で議員をきちんと評価して政治に参画するしかない」