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秘密保護法施行 厳罰化で「知る権利」懸念

特定秘密保護法施行を前に首相官邸周辺で反対を訴える人たち=9日夜(平野皓士朗撮影)

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 安全保障上の機密を漏らした公務員や民間人に厳罰を科す特定秘密保護法が十日、施行される。同法は昨年十二月に成立。政府は施行に先立ち、運用基準を策定し、秘密指定の状況をチェックする監視機関も整備した。しかし、行政の恣意(しい)的判断で秘密指定の範囲や期間が拡大する可能性は排除されておらず、国民の「知る権利」が制約されるとの懸念は野党や言論界などに根強い。

 同法は、「防衛」「外交」「スパイ活動防止」「テロ防止」の四分野について、行政機関の長が「特定秘密」を指定すると規定。十月に策定された運用基準では、自衛隊装備品の性能や外交交渉、衛星が収集した情報など五十五項目を列挙した。秘密の指定機関は国家安全保障会議(日本版NSC)、外務省、防衛省、警察庁など十九機関とした。

 秘密指定は五年ごとに延長が可能で、三十年を超える場合は内閣の承認が必要。原則として最長六十年まで認められるが、武器や暗号、「政令で定める重要情報」など七項目は例外としている。

 特定秘密を扱う公務員や民間の契約事業者が情報を漏えいした場合、最長十年の懲役が科される。漏えいを共謀したり、そそのかしたりした場合は五年以下の懲役となる。国家公務員法は秘密漏えいを最長一年の懲役としているが、格段に厳罰化されている。

 特定秘密保護法は、報道機関の取材活動について「違法、著しく不当でない限り正当な業務」と位置付けたが、従来通り報道の自由が確保されるかも課題となる。

 秘密指定の妥当性などを監視する機関として、内閣官房に「内閣保全監視委員会」、内閣府に「独立公文書管理監」などが置かれたが、あくまで行政内部の組織のため、実効性は不透明だ。また、国会では「情報監視審査会」が衆参両院の常設機関として発足。政府に対し勧告が可能だが、強制力はない。

 特定秘密を扱う公務員と民間人には、家族構成や犯歴、経済状況など身辺を調べる「適性評価」が実施される。

◆国民の不安払拭されず

<解説> 

 特定秘密保護法の成立から一年。安倍政権は運用基準を策定し、監視機関を設置したが、国民の「知る権利」を侵害する懸念はほとんど払拭(ふっしょく)されていない。にもかかわらず、予定通り運用が始まる。運用基準などで懸念が消えないのは法の根幹が変わっていないからだ。

 特定秘密の対象は外交から警察関係まで幅広い。拡大解釈可能な表現が盛り込まれ、指定は政府側が意のままに行うことが可能。そんな秘密の漏えいを防ぐため、厳罰で臨む。秘密を知ろうとした市民や記者も、最高懲役五年の罰則対象となる。特定秘密は永久に指定され続ける恐れがある。

 近年重大な情報漏えい事件は起きておらず、現状で罰則強化は必要ない。「知る権利」を守るため、厳重に管理するのは防衛や外交の重要な情報に限定するべきなのに、範囲が広すぎる。歴史の検証を受けるため、一定期間を経れば必ず公開されるような制度もない。

 同法はあまりに問題点が多い。国民の不安の声の多さを考えると、同法はやはり必要ないと言わざるを得ない。

 (政治部・金杉貴雄)

 

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