東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 特定秘密保護法 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【特定秘密保護法】

今こそ権力監視を

 特定秘密保護法の施行で、政府の行きすぎた情報隠しを市民がチェックできず、ジャーナリズム活動も難しくなる恐れが高まる。安全保障・集団的自衛権と情報公開の二つの観点から、専門家に問題点を聞いた。

写真

◆安全保障 集団的自衛権判断奪う

◇シンクタンク事務局長 猿田佐世弁護士

 自衛隊を海外派遣したイラク戦争で、米国は当時のフセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っているとして戦争を始めた。しかし大量破壊兵器は発見されず、米情報機関の情報が誤りだったと分かった。将来、集団的自衛権が行使されようとするとき、その判断が本当に正しいかを皆で考えるために必要な情報が、特定秘密保護法によって得られない可能性がある。本当に「わが国の存立を危険に陥れるような事態」なのかと疑問を持っても、そう問うこと自体が罪になったり、そもそも情報が出てこなかったりする。

 在日米軍の問題などを市民が考える上でも、秘密保護法が障害になりかねない。沖縄には米軍の軍用機の離着陸や基地の新たな施設建設などを監視する人々がいる。私たちのシンクタンク「新外交イニシアティブ」は、米海兵隊が一年の半分は沖縄にいないなどの実態調査や、グアムに八千人移転した場合に残る部隊の役割分析などをした。

 沖縄県名護市長の訪米も企画し、米政府当局者や日米関係に影響力を持つ有力者に「辺野古(へのこ)に基地は不要だ」と訴えた。その際には、海兵隊が沖縄にいなくても、米軍の抑止力は今と同レベルで維持できるという現実的な提案もした。秘密保護法の指定対象には「自衛隊の運用で、米軍との運用協力に関するもの」や外国から提供された情報などが含まれる。沖縄の人々や私たちの取り組みの基になる調査も罪に問われかねない。議論を続け、法の問題点を見直すべきだ。

<さるた・さよ> 1977年生まれ。早稲田大を卒業し、2002年に弁護士登録。国際人権問題に取り組む。07年に渡米し、コロンビア大のロースクールを修了。09年ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部で国際政治・国際紛争解決学修士号を取得。

写真

◆情報公開 密解除の仕組み手薄

◇専修大 山田健太教授

 日本では二〇〇一年、中央省庁の行政文書を対象にした情報公開法が施行され、二十一世紀は市民と政府との間で情報の共有が実現するはずだった。実際は逆で、緊急事態法制と秘密保護法制が徐々に整備され、政府が情報を隠す制度が厚くなった。

 特定秘密保護法の大きな問題は、秘密指定とセットであるべき、解除の仕組みが手薄なこと。米中枢同時テロ後に政府の秘密の管理が進んだ米国でさえ、解除の仕組みがきちんとある。約百の市民団体が常に政府の情報や活動を監視し「あやしいぞ」と思えば、秘密の解除を請求できる。

 日本ではこうした団体は少なく、ジャーナリズム活動が重要だ。一九六六年に国連総会で採択された国際人権規約のひとつ「自由権規約」の解釈基準でも、政府情報の公開を理由にジャーナリストや市民を罰することを戒めている。

 特定秘密保護法二二条は、市民の知る権利を代行する取材行為を、著しく不当と認められない限りは「正当な行為」と定める。配慮しているようで、実は「政府が不当と判断すれば逮捕する」ということ。裁判で有罪にならなくても、捕まえることで表現の機会を奪い、同時に将来の取材活動に脅威を与える。結果、萎縮が生じ自由な言論の領域はどんどん狭まる。

 行政機関はただでさえ、都合の悪い文書を隠したり、捨てたりしがちだ。法を抜本的に見直し、情報公開と情報管理の仕組みをつくり直さなければならない。

<やまだ・けんた> 1959年生まれ。青山学院大卒。専門は言論法(メディア・情報法)。日本ペンクラブ言論表現委員長。著書に「法とジャーナリズム」「3・11とメディア」「現代ジャーナリズム事典」などがある。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo