2014.12.09 23:50 掲載
飯間 浩明
●第1位は独断と偏見で「ワンチャン」。ご協力ありがとうございます。
●ご意見・ご指摘などはハッシュタグ「#今年からの新語」で
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ご協力をいただきました「今年からの新語2014」の選考を終えました。といっても、選考委員は私一人ですが……。
予想外に多くの方から候補をお寄せいただき、整理に苦しむほどでした。お寄せいただいた語については、すべてデータベース化して、今後に生かします。
さて、それで、選び出した語は以下の10語です。
まあまあ妥当な語が集まった、と思うのですが、本当に妥当なのか、偏っているのか、判断しがたい部分もあります。
どうか深く考えず、「そういえば最近こんなことばをよく聞くなあ」という程度にお考えください。お楽しみいただければ幸いです。
第1位 ワンチャン
ワン チャン〔←ワン チャンス〕〔俗〕[一](名)〔あと〕一度のチャンス。可能性。「まだ―ある・―をものにする」[二](副)〔可能性は低いが〕ひょっとすると。「チャリで行けば―間に合う」
〔備考〕「それな」とどちらを1位にしようか迷った。Googleトレンドで「ワンチャン 意味」が検索され始めたのは2010年からで、「それな 意味」よりも少し早い。ただ、「ワンチャン」は副詞用法が現れたりして、広がりがみられ、今後の定着が期待されます。「ワンチャンワンチャン」とおまじないのようにも唱えるというのだけど、本当でしょうか。
第2位 それな
それ な(感)〔もと関西方言〕〔俗〕相手に賛成することば。そのとおりだな。そうだな。〔「な」「んな」とも〕「『もう行きたくない』『―』」
〔備考〕Googleトレンドで「それな 意味」が検索され始めたのは2011年から。私が初めて聞いたのは今年(2014年)の春でした。私の心情的には、2014年は「それな」の年なのですが、同意の場に使用が限定されているし、「そうだね」「だね」などを押しのけて「それな」が定着するかは、まだ予断を許しません。
第3位 あーね
ああ ね[あーね](感)〔もと九州方言〕〔話〕相手に同意することば。ああ、なるほど。そうだね。「『言い出したのは私だし』『―』」
〔備考〕「それな」と同様、感動詞を第3位に並べました。「それな」が意気込んで同意するのに対し、「あーね」は積極的な場合もあれば、「そういうものかな」と消極的な場合もあるように感じます。言いやすい分、「それな」よりも定着するのでは、という気もします。俗語と言うほど俗な感じはしないので、〔話〕(会話特有の語)と考えました。
第4位 安定の
あん てい[安定](名)……(3)〔俗〕〔「―の」の形で〕安心できるほど、変わらないこと。いつもどおり。定番。「―のコンビニ弁当・―の最下位」
〔備考〕新語というよりは新用法。「定番」でいいのでは、と思いましたが、それよりも意味が広いようですね。「定番」がそうだったように、遠からず俗語の域を脱して普通語になるのでは?
第5位 自撮り
じ どり[自撮り](名)〔俗〕携帯(ケイタイ)電話のカメラを自分自身に向けて写真をとること。また、とった写真。自分撮り。セルフィー(selfie)。
〔備考〕ツイッターのハッシュタグ「#今年からの新語」では、関連語も含めて複数の方が「自撮り」を挙げてくださり、これを入れないわけにゆかないと思いました。5位ですみません。オックスフォード英語辞典の昨年(2013年)の「ワード・フォー・ザ・イヤー」には「自撮り」の英語「selfie」が選ばれたそうです。
自撮りに用いられる棒状の器具のことを「セルカ棒」と言うのも知りませんでした。「セルカ」は「セルフカメラ」です。
第6位 プロジェクション マッピング
プロジェクション マッピング(名)〔projection mapping〕建物の壁などに動画を映写して、その建物などが変化しているように見せるもの。プロジェクション。
〔備考〕昨年の段階で、この語は把握していました。でも、長い語形でもあり、まだ定着するかどうか分からなかったので、今年刊行の『三省堂国語辞典』第7版では見送りました。「プロジェクション」と略す例も増えているので、この語形で定着するかも?
第7位 NISA
ニーサ[NISA](名)〔Nippon individual savings account〕<<経>>少額投資非課税制度。個人投資家向けの優遇税制。投資額が年間一〇〇万円までならば、売却益や配当に課税されない。〔イギリスの優遇税制「ISA〔アイサ〕を参考に二〇一四年から実施(ジッシ)〕
〔備考〕街を歩いていて、銀行の前などでやたらに目についた文字がこれでした。愛称は、ご指摘があったように昨年4月に決まり、実施は今年1月からです。〈投資額が年間一〇〇万円までならば〉というのも現在の話で、今後はどうなるか分からないようですね。辞書には記述しないほうがよいか。
第8位 危険ドラッグ
きけん ドラッグ[危険ドラッグ](名)法律の規制をすりぬけてはいるが、違法(イホウ)な麻薬・覚醒剤(カクセイザイ)のように危険な薬。
〔備考〕今年7月に「脱法ドラッグ」に代わって決まった名称。報道によれば、麻薬・覚醒剤以上に危険なものもあるとか。語釈の〈〜のように〉はまだ甘いかもしれません。
第9位 〜み
―み(接尾)……(3)〔俗〕形容詞の語尾「…い」を、名詞のように言い終えることば。「ねむ―〔=ねむい〕・おやつを横取りされて つら―〔=つらい〕」
〔備考〕「#今年からの新語」では〈今年に始まった新語ではない気もしますが〉とのコメントとともに教えていただきました。私は今年に入ってから特によく聞くようになりました。
第10位 ぽんこつ
ぽん こつ[一](名)……[二](名・形動ダ)〔俗〕いつも ぼんやりして、変わっている〈こと/人〉。「ちょっと―なタレント」
〔備考〕AKB48の島崎遥香さんから、とのことですが、驚きました。「ポンコツ」は〈こわれかかったもの。役に立たなくなったもの〉(『三省堂国語辞典』第7版の(2)の意味)ですから、すごい悪口のような印象を受けます。でも、これを単に「うっかり者」「変わり者」というニュアンスで使うようになりました。
▼次点 壁ドン
かべ どん[壁ドン](名・自サ)〔俗〕(1)かべを、どんと たたくこと。(2)かっこいい男性が、向かいあった女性の うしろの かべに、どんと手をつくこと。〔恋愛(レンアイ)関係を深めようとしたりするときの動作〕「―されたい」
〔備考〕今年は「壁ドン」の年、と考える人も多数いるのでは。このことばが「次点」というのは申しわけないかぎりです。壁ドンしたくてもできないひがみではありません。ことば自体はよく使われても、日常生活で多くの人が「壁ドンする」「壁ドンされる」局面があるとまでは言えず、国語辞典編纂者として選ぶ「今年の新語」には入れにくいと考えました。
以上です。これ以外にもたくさんの数の新語をお教えいただきましたが、ほとんど反映できませんでした。言い訳のようですが、全部で10語というのは少なかったかもしれません。
皆さんからお寄せいただいた新語は、ツイッターの「#今年からの新語」でご覧になれます。
上に選び出したそれぞれの語についても、私自身の吟味がまだ十分でないと感じています。ご意見などは、ぜひ上のハッシュタグまでいただければ幸いです。
今後とも引き続き、国語辞典をあなたの友人としてください。どうぞよろしくお願いいたします。
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