かーずSPのはてな

かーずSP管理人が長文を書きたくなる時に更新される徒然なブログ

「メジャー」を生みだす マーケティングを超えるクリエイターたち を読んでみた

“若く、普通の人々”を相手にしなければならないエンタメ業界の「メジャー」市場。そこで闘い続ける、優れた創作者の体内で実践されている「マーケティング」は深い!プロの時代観をベストセラー編集者が徹底取材!

KindleBOOK☆WALKERでも同時発売

ほんの少しだけご協力させていただきました(216ページで一言だけ喋ってます)

……という告知で普通ならご紹介だけに留まるところなのですが、読んでみたらあまりの内容に刺激を受けまして、感銘を受けましたので大きくオススメしたい

(心に響いた箇所のページを折っていったら2,3ページに一回追ってたっていう、教科書に赤線引きまくって、どこが重要なのかわからなくなる生徒みたいですな!)

帯にも描かれている『アオハライド』の咲坂伊緒先生をはじめとして、漫画家・小説家・ミュージシャン、そしてアニメ監督の谷口悟朗監督らにインタビューを行い、「今の混迷の時代にどうしたらヒット作を生み出せるのか」を浮き彫りにしていくんですが、結果として若者の生き方や価値観を映し出すことに成功している本書。

第一線のクリエイターの生い立ちや人生・作品を生み出すことにどう苦心したのかを辿っていくことで、自分はどう生きていけばいいのか、何を拠り所にするのか、大げさではなく自分の人生の指針がはっきり見えてきたのがもっとも得るところだった。

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AJISAIのボーカリスト・松本俊さんの項。家族に囲まれた生活をしているにも関わらず、SNS疲れによる孤独感を感じる若者はなぜなのか。
人の本質はそれほどは変わらず思春期の頃は自己承認欲求もあった。だけど昭和時代は明確な方向性・努力すれば叶う国家の確変ボーナスの時期であって、今のネット社会は選択肢が膨大すぎるのでどこを向けばわからずに生きづらい。

平田ぱんださんの章などアーティスト関連の方は、音楽業界は特に90年代バブルを経験してきた「大人」が上にいながら仕事にしている人たちなので、昭和の価値観と戦いながら音楽を売っているので言葉の重みが違う。
cinema staffの辻友貴さんも同じニュアンスでおっしゃってますが、

「選択肢が増えた時代に、昔のやり方は通用しない」

じゃあどうするか?
「自分で市場を作る」わかるやつだけわかってくれればいいという自分に近いユーザーに届けることが結果的にヒットを生む。これってニコニコ動画の人気の歌い手やユーチューバーとファンの関係もそういう所なんだろうなって自分も思っていて、腑に落ちました。


浅野いにお先生はネットで自分の作品の批判を読みまくって批判を創作のエネルギーに変えている。ネットが嫉妬と罵倒にまみれていくのと反対にリアルはどんどん綺麗になっていくというのも面白い指摘でした。自分をアバターに見立ててキャラ付けして言葉をつけていかないと自分が何者か不安な社会というのは頷ける。


咲坂伊緒先生の「大人になってみたら『大人』って大した事なかった、自分も35になっても大人って感じがしない」っていう感覚を持ちながら『アオハライド』を描かれている心境は、漫画やアニメで『アオハライド』を楽しんでいた方も、興味深いのではないかなと思う。


冒頭で触れた216ページで中二病の事を話させていただき、そのまま支倉凍砂先生インタビューへ。『エヴァ』や「セカイ系」から語られる承認欲求論は、10代から40代50代までシンパシーを感じるのではないでしょうか。自分がこれまで言葉に出来なかったけど内心で思っていた事を言葉でバシッと形作ってくれた気分。さすが作家さんだ。


〆は谷口悟朗監督!
若者に大ヒットした『コードギアス』はどういう方向性で作られたのか、若者に支持されたコードギアスを元に、若者の考えてることを照らし出す。それは「根拠の無い自信」だと指摘する。

また、アニメ業界を希望する若者が今はアニメーターから監督、脚本家、今はプロデューサーを志望する者が多いという。
ヒントは「ネット空間は作品作りに向かない」……答えはぜひ谷口監督の言葉を読んで欲しい。
ちなみに、「江戸時代の封建社会は明確な価値基準を作っていて、現代よりそちらが居心地が良かった社会」というのは凄く納得しました。


こうした第一線で活躍されているクリエイターたちの思想や思考・戦略が凝縮されていて、普通にこれに触れることができるのは、彼らと飲み友達になるくらいなので(笑)、どんなハードルの高さだよって話で、そんなお金じゃ買えない希少性の高い情報の宝庫に感服しました、著者の行動力には感服です。

彼らクリエイターの思想を踏まえた上で、著者である堀田純司先生の結論は……これもまたぜひ読んで欲しい部分ですが、個人的な同意ポイントは

「知らずに養分になるのはアレ」「人間は自分と向き合うと消耗する生き物」

ネット社会では、突出した信念よりバランス感覚が重要な時代なんだなって感じます。ちょっとはみ出すと人生オワタになりますしね、冷蔵庫に入った写真アップしたりとか……。

本書はビジネス書っぽい売り出し方で、実際「ヒット作を出すには? このヒット作が生まれたのはなぜ?」という探りから入れてますが、そういう側面を持ちつつも、今の若者からおっさん大人まで、大衆の生き方に焦点を当てた人生論なんだなと感じました

それがコードギアスエヴァ、アオハライドと言ったオタクにはお馴染みの作品・作家から読み解けるのが、オタな自分には実に読みやすかったのも○。

この記事でも「若者」「若者」連呼してますが、おっさんも若者だった時代を通過してるわけで、今のネット社会・これまでの常識が通用しなくなった社会において、「どう生きていこうか、どこを向いて歩いていけば自分は幸せになれるのか」という、悶々としてこれまで悩んでいた自分に、一つ答えが生まれました

……という感銘を受けたので久々の長文でした!