格付け機関フィッチが日本の政府債務格付けをネガティブ・ウォッチとしました。
ネガティブ・ウォッチとは、将来、格下げする含みで注視するという意味です。
下は各社の日本に対するレーディング(赤字)です。
現在、フィッチは日本の政府債務格付けを「A+」としています。つい最近、ムーディーズが格下げを発表し、フィッチの格付けに追いついたばかりです。
するとS&Pだけが取り残されており、彼らが追従するかどうか注目されます。
先のムーディーズによる格下げが全く市場から無視されたのと同様、今回、若しフィッチが格下げの決定をしても、市場は再び無視する可能性が高いです。
ただ、ほんの僅かの確率で(=僕のドタ勘では10%程度)これらの度重なるダウングレードがボディブローのように効いてくる可能性は、全く排除するわけにはゆかないと思います。
そこで、ありえないとは思うけど、万が一のため、日本の金融セクターが孕んでいる脆弱性について説明しておきます。
まず債券格付けの格下げは、その債券に対する信頼が低下するわけですから、教科書通りに言えば債券価格下落要因です。(マーケットは、必ずしもそう動くとは限りません。これは日頃から皆さんがよくご承知の事だと思います)
格下げは、今回その対象となっている日本国債だけでなく、日本の金融機関にもプレッシャーを与えます。それを説明します。
日本の消費者は自分の貯蓄を現金・預金というかたちでもっている場合が多いです。これはアメリカやEUとはかなりちがう行動です。(日本は下の図の青の部分が突出していることに注目してください)
その背景には「銀行預金は、いちばん確かだ」という金融機関にたいする日本人の絶大な信頼があります。それ自体は、とても良い事だと思います。
普通、小口銀行預金は銀行の貸付原資として極めて強固な資金源(ファンディング・ソース)です。なぜなら市場からおカネを調達してきた場合は、金融市場の乱高下に銀行の貸付能力が翻弄されるわけですが、小口銀行預金(リテール・デポジット)は、めったなことで流出しないからです。
ネガティブ・ウォッチとは、将来、格下げする含みで注視するという意味です。
下は各社の日本に対するレーディング(赤字)です。
現在、フィッチは日本の政府債務格付けを「A+」としています。つい最近、ムーディーズが格下げを発表し、フィッチの格付けに追いついたばかりです。
するとS&Pだけが取り残されており、彼らが追従するかどうか注目されます。
先のムーディーズによる格下げが全く市場から無視されたのと同様、今回、若しフィッチが格下げの決定をしても、市場は再び無視する可能性が高いです。
ただ、ほんの僅かの確率で(=僕のドタ勘では10%程度)これらの度重なるダウングレードがボディブローのように効いてくる可能性は、全く排除するわけにはゆかないと思います。
そこで、ありえないとは思うけど、万が一のため、日本の金融セクターが孕んでいる脆弱性について説明しておきます。
まず債券格付けの格下げは、その債券に対する信頼が低下するわけですから、教科書通りに言えば債券価格下落要因です。(マーケットは、必ずしもそう動くとは限りません。これは日頃から皆さんがよくご承知の事だと思います)
格下げは、今回その対象となっている日本国債だけでなく、日本の金融機関にもプレッシャーを与えます。それを説明します。
日本の消費者は自分の貯蓄を現金・預金というかたちでもっている場合が多いです。これはアメリカやEUとはかなりちがう行動です。(日本は下の図の青の部分が突出していることに注目してください)
その背景には「銀行預金は、いちばん確かだ」という金融機関にたいする日本人の絶大な信頼があります。それ自体は、とても良い事だと思います。
普通、小口銀行預金は銀行の貸付原資として極めて強固な資金源(ファンディング・ソース)です。なぜなら市場からおカネを調達してきた場合は、金融市場の乱高下に銀行の貸付能力が翻弄されるわけですが、小口銀行預金(リテール・デポジット)は、めったなことで流出しないからです。
小口預金(リテール・デポジット)は、我々個人投資家からみれば、利子を生む「運用先」と考えがちですが、それは同時に個人が銀行の債権者、つまりおカネを貸している立場になっているのです。
もう一度、強調しておくと、我々は銀行に預金するという行為を通じて、実際にはお金を貸しているのです。
銀行は、われわれから借りたお金で国債を買ったり、企業などへの貸付に回したりしています。
ここで問題になるのは日本の場合、金融機関が日本国債(JGB)に投資している比重がとても大きいという点です。GDPの218%に相当する規模です。(下のグラフの赤丸で囲った部分)
その一方で、日本の金融債(銀行などが出す債券)は、とても小さいです。この部分は通常、銀行経営が傾いたとき、真っ先に手が付けられる部分であり、その絶対額がこのように極めて小さいということは、次のレイヤー(それは我々の預金に他ならないわけですが)に手がつけられるまでのクッションが小さいことを示唆しています。
だから日本国債の格下げは、われわれ銀行にお金を預けている庶民にとっても他人事ではないのです。
日本の金融セクターは世界的に見て、国際化が進んでいません。これは良いことです。なぜなら移り気な海外からの資本に依存する度合いが低いからです。
でも逆の見方をすれば日本が若し困った場合、外国は日本に救いの手を差し伸べる必要がないことを暗示しています。
すると2013年にキプロスの銀行が直面したように銀行の資本再構成(リストラ)の際にターゲットにされる、株式や金融債などの保持者への攻撃が終われば、早晩、預金者という名前のお金の貸し手である我々小口投資家の虎の子が狙われる可能性も、無いとは言えないのです。
このように投資に際しては日頃から「異常な偏り」に気を付ける習慣を身につけておくべきです。
今の日本の金融機関はJGBを異常なまでに偏重しており、また我々国民の小口預金にあぐらをかきすぎています。
日本政府は歳出の約半分程度しか税収がありません。皆さんが友達におカネを貸す時、彼が月給の2倍のおカネを使って、遊びまわっていたら、どう感じますか? たまたま今は「貸してあげるよ」という友達が多いから、うまく物事が回っているわけだけど、誰からも顧みられなくなるリスクだって、無いとは言えません。
歴史をひもとけば、日本政府の負債は1941年3月の310億円から1946年3月には2,020億円に膨張しました。そこで日本は先進国で唯一、預金封鎖を実行しました。そしてこの預金封鎖は大成功しました。預金封鎖とは、銀行を一定期間閉鎖し、預金を封鎖したうえで預金に対して税金をかけることをさします。経済学ではcapital levy(預金税)と言います。実際には、自分の銀行預金通帳の残高の一部が、ある日、こつ然と消滅することを指します。
1946年3月3日の時点で、10万円以上の資産を持っている世帯は10%の預金税が課せられました。つまり10万円の残高が翌日から9万円の残高になったのです。そこから累進的に最高で1,500万円以上の資産を持つ世帯には90%の税金が課せられました。言い直せば1,500万円の通帳の残高がわずか150万円になったのです。日本の私有財産全体の約9%を没収するというこの預金封鎖の試みは、当初の概算額とほぼ同等の成果を挙げ、世界でも稀に見る成功例となりました。
当時、日本が預金封鎖した理由は:
などによります。これらの多くは、今日の状況にも当てはまると言えます。
なお、僕は「日本でまた預金封鎖が起きる!」と主張しているのではありません。そうではなくて、債務や資産の偏在は、金融システム全体にストレスを与えやすい……だから日頃から自分たちの日頃依存している金融システムのどこに歪みがあるのかくらいは周知徹底しておく必要があると主張しているのです。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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僕が1年前に書いた本です。こちらも、よろしく。
もう一度、強調しておくと、我々は銀行に預金するという行為を通じて、実際にはお金を貸しているのです。
銀行は、われわれから借りたお金で国債を買ったり、企業などへの貸付に回したりしています。
ここで問題になるのは日本の場合、金融機関が日本国債(JGB)に投資している比重がとても大きいという点です。GDPの218%に相当する規模です。(下のグラフの赤丸で囲った部分)
その一方で、日本の金融債(銀行などが出す債券)は、とても小さいです。この部分は通常、銀行経営が傾いたとき、真っ先に手が付けられる部分であり、その絶対額がこのように極めて小さいということは、次のレイヤー(それは我々の預金に他ならないわけですが)に手がつけられるまでのクッションが小さいことを示唆しています。
だから日本国債の格下げは、われわれ銀行にお金を預けている庶民にとっても他人事ではないのです。
日本の金融セクターは世界的に見て、国際化が進んでいません。これは良いことです。なぜなら移り気な海外からの資本に依存する度合いが低いからです。
でも逆の見方をすれば日本が若し困った場合、外国は日本に救いの手を差し伸べる必要がないことを暗示しています。
すると2013年にキプロスの銀行が直面したように銀行の資本再構成(リストラ)の際にターゲットにされる、株式や金融債などの保持者への攻撃が終われば、早晩、預金者という名前のお金の貸し手である我々小口投資家の虎の子が狙われる可能性も、無いとは言えないのです。
このように投資に際しては日頃から「異常な偏り」に気を付ける習慣を身につけておくべきです。
今の日本の金融機関はJGBを異常なまでに偏重しており、また我々国民の小口預金にあぐらをかきすぎています。
日本政府は歳出の約半分程度しか税収がありません。皆さんが友達におカネを貸す時、彼が月給の2倍のおカネを使って、遊びまわっていたら、どう感じますか? たまたま今は「貸してあげるよ」という友達が多いから、うまく物事が回っているわけだけど、誰からも顧みられなくなるリスクだって、無いとは言えません。
歴史をひもとけば、日本政府の負債は1941年3月の310億円から1946年3月には2,020億円に膨張しました。そこで日本は先進国で唯一、預金封鎖を実行しました。そしてこの預金封鎖は大成功しました。預金封鎖とは、銀行を一定期間閉鎖し、預金を封鎖したうえで預金に対して税金をかけることをさします。経済学ではcapital levy(預金税)と言います。実際には、自分の銀行預金通帳の残高の一部が、ある日、こつ然と消滅することを指します。
1946年3月3日の時点で、10万円以上の資産を持っている世帯は10%の預金税が課せられました。つまり10万円の残高が翌日から9万円の残高になったのです。そこから累進的に最高で1,500万円以上の資産を持つ世帯には90%の税金が課せられました。言い直せば1,500万円の通帳の残高がわずか150万円になったのです。日本の私有財産全体の約9%を没収するというこの預金封鎖の試みは、当初の概算額とほぼ同等の成果を挙げ、世界でも稀に見る成功例となりました。
当時、日本が預金封鎖した理由は:
日本政府の債務を帳消しにするため
財政出動の予算の捻出
所得格差の是正
などによります。これらの多くは、今日の状況にも当てはまると言えます。
なお、僕は「日本でまた預金封鎖が起きる!」と主張しているのではありません。そうではなくて、債務や資産の偏在は、金融システム全体にストレスを与えやすい……だから日頃から自分たちの日頃依存している金融システムのどこに歪みがあるのかくらいは周知徹底しておく必要があると主張しているのです。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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