東京新聞は12月1日付朝刊1面トップで「本紙調査でセシウム検出 福島第一 海洋汚染収束せず」との記事を掲載した。この中で、東京電力が福島第一原発付近の海域で、「精度の低い測定をしていながら、『検出せず』を強調」していると指摘。しかし、実際は、東電は低精度の「日常分析」とは別に、精度の高い「詳細分析」も実施し公表していた。記事は、東電が低精度の測定しか実施、公表していないとの誤った印象を与える内容。東京新聞は訂正していないが、5日付朝刊の続報で「詳細分析」の存在を取り上げ、事実上修正している。
- 海洋汚染、収束せず 福島第一 本紙調査でセシウム検出(東京新聞TOKYO WEB 2014/12/1) ※12月9日掲載確認
原子力規制庁が3日、ホームページで、1日付東京新聞の報道について読者に誤解を生ずるおそれがあると指摘した。東電は福島第一原発周辺海域で、原子力規制委員会が定めた「総合モニタリング計画」に基づき「日常分析」と「詳細分析」の2種類の海洋モニタリングを実施している。毎日実施している「日常分析」は検出下限値を1リットル当たり1ベクレル、週1回実施している「詳細分析」は検出下限値を1リットルあたり0.001ベクレルに設定。このことや採取場所も「総合モニタリング計画」の別紙に明記されている。
- 平成26年12月1日東京新聞朝刊の報道について(原子力規制庁2014/12/3)
- 総合モニタリング計画(原子力規制委員会2014/4/1) ※別紙「海域モニタリングの進め方」2頁目の「表2・近傍海域の海水モニタリング」参照。
東京新聞の記事では、「東電は原子力規制委員会が定めた基準に沿って海水のモニタリングをしているが、日々の公表資料は『検出せず』の記述が並ぶ。計測時間はわずか十七分ほどで、一ベクレル前後の汚染はほとんど見逃すような精度しかない」と指摘。記事の後半でも「かつての高い汚染時なら、精度が低くても捕捉できたが、現在のレベルなら、やり方を変えないと信頼できるデータは出ない。汚染が分からないようにしているのではないかとの疑念を招きかねない」などと、低精度測定しか行っていないかのように報じていた。
原子力規制庁の指摘の後、東京新聞は5日付朝刊1面トップで、今度は「『不検出』実際は汚染 詳細分析 7割からセシウム」という見出しの続報を掲載。その中で、東電が精度の低い「日常分析」とは別に「詳細分析」を実施していることに言及し、1日付記事を事実上、軌道修正した。しかし、「結果は公表はされているとはいえ、約一ヶ月遅れで、データのありかも分かりにくい」などと、取材不足ではなく公表の仕方を問題視していた。ニュースサイトも記事はそのまま掲載している。
もっとも、この5日付記事では、図で「専用港出入り口」は「詳細分析を実施せず」と記載し、「今後、港の出入り口でも詳細分析するなど、現状の正確な把握に努めたい」との東電側コメントを伝えた部分がある。日本報道検証機構が東電に確認したところ、港出入り口での詳細分析も11月10日から開始したという。結果が出るのに約1か月かかるため、まだ1回目の結果は公表されていないが、「詳細分析を実施せず」は事実と異なる。1日付東京新聞は10月20日の独自調査で港出入り口で、周辺海域で最も高い1リットルあたり1.07ベクレルのセシウム(134か137かは記事に書かれていない)を検出したと報じていた。この結果を受けて、東電が港出入り口での詳細分析を始めた可能性もあるが、定かではない。
- 福島第一 「不検出」実際は汚染 東電 誤解与える海水簡易分析(東京新聞TOKYO WEB 2014/12/5)
(初稿:2014年12月9日 03:15)
(追記:2014年12月9日 12:10)12月1日付記事がニュースサイト上で掲載されたままであることを追記しました。